私の事が好きですよね?
私は源さんを避けていた。屋上にも行っておらず、昼休みも一人教室で過ごす。校内ですれ違うことがあっても目を逸らす。嫌いになったわけではない。源さんの事を考えると、緊張してまともに目が見れない。鼓動が高鳴って、顔が赤くなる。
そうこうしてキス事故から一週間たった。
偶には昼休みを別の場所で過ごそうと、誰も使っていない空き教室にやってきた。
誰もいないよね? 扉を静かに開けて中を確認しようとすると、扉がバンッと音を立てて勢いよく開いた。
「ひっ……!?」
びっくりして転びそうになる。その前に中から出てきた人が腕を掴み、私を中に引き込み、壁に追い詰める。
「み、源さんっ……?」
私を引き込んだのは源さんだった。だが、いつものニコニコと笑っている表情ではなく、覚悟を決めた真剣な表情で真っ直ぐに私を見つめている。
「先輩。どうして私の事を避けるんですか?」
「そ、それはっ……!」
私は答えることが出来なかった。
源さんは私に顔を近づける。私は恥ずかしくなり、目を逸らす。心臓もドキドキと鳴っていて、聞こえているのではないかと不安に思ってしまう。
「当ててあげましょうか? 先輩が私の事を避けている理由……」
そう言うと、源さんは私の頬に手を添えた。そして、耳元で囁く。
「私の事が好きですよね? もちろん、性的な意味」
「っ!?」
艶やかな声は色っぽく、身体が熱くなる。
「でも、恋なんてしたことがない先輩は、恥ずかしくて私の事を真っ直ぐに見れない。だから避けていた。違いますか? いえ、違わないですよね。だって」
源さんは私を抱しめ、私の胸に耳をくっ付けた。
「先輩、すごくドキドキしてますよ」
「っ……!」
ニヤリと笑みを浮かべる源さん。
「先輩。そうやって、私のことを思っておどおどしている先輩も可愛いですが……私て欲張りなんです。今すぐ先輩としたい」
「したい、て……?」
「無論、エッチな事です。先輩は違うんですか?」
「私は……!」
正直言って、少しは興味がある。でも、それ以上に恥ずかしい。
「もう、先輩って本当に恥ずかしがり屋ですね」
「み、源さん」
源さんは私から離れると苦笑した。
「無理やりしても良いんですが、私は先輩の事が超大好きなので、我慢します。先輩には嫌われたくありませんし」
そう話す源さんはいつものニコニコと笑う源さんに戻っていた。
「けど、酷いです。私を避けたりして。恋が初めてだからって、すごーく寂しかったです。ですので、これからはいつものように私の傍にいてくださいね。恥ずかしくて顔を見れなくても、ドキドキしてもです。良いですか?」
「わ、わかった……」
「あ! それと、私の事は名前で呼んでください」
「っ……! それは、無理っ……!」
「えー! そこは素直にOKするとこじゃないですか?」
「は、恥ずかしくて……死んじゃう」
「……もう、仕方ないですね。では、名前呼びはまた今度ということで」
源さんはやれやれとため息を吐いた。
「あっ、それと、これまで避けられた分の埋め合わせを貰います」
源さんは私の頬を手で包むと、キスをしてきた。
「では、先輩。明日の昼休みに会いましょう!」
教室を去っていく源さん。呆然と見送り、私はその場にへなへなと座り込む。
「明日、どんな顔して会えば良いの……!」
私の悩みがまた一つ増えたのであった。