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猫は可愛い!

 昼休み。いつものように屋上に行こうと準備をしていると、メールが来ていた。


『見せたいものがあるので体育館裏に来てください。未来の恋人より』


 未来の恋人と、書くのは一人しか思い至らない。

 でも、メールアドレス何て教えてないんだけど……深く考えるのは辞めよう。ストーカーだし。

 体育館裏に着くと、源さんを発見した。


「あ、先輩! こっちです!」


 木々の前にしゃがみ込み、手を振ってくる。

 一体何をしているだろう?

 近づいてみると、そこには、


「っ!?」


 茶色の猫がいた。


「み、源さんっ、その猫は……!」

「ふふふ……野良猫ですよ。クラスで体育館裏に猫が住み着いていると噂になってまして、猫が大好きな先輩に知らせたら、喜ぶかな、と」

「うん、すごく嬉しい……触っても良い?」

「私をですか?」


 小首を傾げる源さん。私は首を横に振った。


「違う。猫を」

「……良いと思います」


 頬を膨れませた源さん。だが、もう私の目は猫しか映っていなかった。

 恐る恐る猫に手を伸ばす。人間に慣れているのか、警戒されている様子はない。むしろ、小首を傾げその小さな瞳は「まだ?」と訴えかけているようだ。顔が思わずにやけた。

 頭をゆっくりと撫でると、気持ちよさそうに「にゃー」と鳴き、目を閉じた。


「可愛い……」


 思わず口から言葉が漏れ、至福の時を過ごしていると、隣からパシャリとシャッター音が聞こえた。至福の時を邪魔され、ちょっと不機嫌になる。


「ふふ、先輩の可愛い写真ゲットです!」

「……盗み撮りは良くない」

「すいません、あまりにも猫とじゃれている先輩が可愛かったもので……」


 すぐ、可愛いとか言うんだから……!


「そ、そんなこと言っても……だめ、消して」

「えー、でも先輩、私が猫のこと教えなかったらこの幸せのひと時はなかったんですよ?」

「うっ……」


 そんなことを言われたら何も言えない。


「なら、今回だけ特別。でも、次、盗み撮りしたら怒るから」

「先輩の怒った顔ですか……見て見たい気が……おっと、すいません、以後気お付けます」

「うん、よろしい」


 頭を撫で、顎を撫で、背中を触る。そうして猫を堪能していると、声が掛った。


「あなたたち、そこで何をしているの?」

「倉木先生!?」

「……っ!?」


 先生っ!?

 私は咄嗟に猫を制服の中に隠して、振り返った。

 スーツ姿で眼鏡、いかにもバリバリのキャリーウーマン。


「あなたは一年の源さんね、そっちは……?」

「に、二年の橋本です」

「橋本さんね。で、あなたたちはそこで何をしているの?」


 猫と遊んでました、とは言えない。猫が住み着いていることがばれたら、学校から追い出されるかもしれない。


「実は……先輩に秘密の相談がありまして、ここでコソコソ話していたわけですよ」

「ふーん……秘密の相談ね」

「はい、そうなんです。もう、先輩にしか相談できない、大切な大切な事なんです!」


 ニコニコと笑みを浮かべ、嘘をつく源さん。私だったら、できない芸当だ。


「まあ、相談内容は気になるけど、個人のプライバシーというものもありますし」


 だが、倉木先生の疑いの目は解けていないようだ。

 ジーと私のお腹、つまり猫が隠れているところを見ている。


「随分と大きなお腹ね」


 猫が入ってますから。


「そ、そうなんです。先輩ったらお昼ご飯食べすぎちゃったみたいで」

「そ、そうです」


 嘘に便乗した時だった。「にゃー」と猫が鳴き、その場がシーンとする。


「……わ、私っ! お、お腹鳴る時、猫の泣き声みたいな音がするんです……!」


 咄嗟に嘘をつくと、吹き出す二人。さすがに、これはないよ……と私は自分の嘘に羞恥で顔を赤くする。


「そ、そうなの……随分と可愛らしい……ふふ、お腹の音ね。けど、言ってなかったかしらお昼食べ過ぎちゃったて。どういうことかしら?」

「……っ!?」


 しまった。墓穴を掘った。

 助けてー、と源さんに視線を向けるが、源さんは私のさっきの発言でまだ笑いをこらえている最中だった。

 どうしようか悩んでいると、


「あ、こら……!」


 猫が暴れて、制服から出てしまった。


「倉木先生……これは、その……」


 言い訳を考えるが思いつかない。このままだと猫が追い出される……!

 頭が真っ白になっていると、倉木先生は慣れた手つきで猫を撫で始めた。


「学校に猫が住み着いていることは私も含め先生たちは皆知っているわ。まあ、暗黙の了解てやつね」

「え!?」

「けど、他の生徒には内緒よ。保護者の耳に入ると色々注意されてしまうから」

「……あ、はい」


 暗黙の了解だったのか……よかった。

 安堵したのもつかの間、私はふと気になり倉木先生に訊ねた。


「あの……倉木先生」

「何かしら?」

「私達が猫隠していることって知ってましたよね? どうして問い詰めるようなことを?」


 そう、猫が鳴き声を上げた時点で気付いていたはずだ。早ければ、お腹の異常な膨らみで。

 なら、その時点で教えても良いはずだ。

 倉木先生はニヤリと笑みを浮かべた。それはもう妖艶な笑みで。


「可愛い女の子が困っている表情が、たまらなく好きなのよ」

「……」


 教育者とは思えない発言に、私は唖然とする。

 倉木先生は「ほどほどにするのよ」と言い残すと去っていく。

 見た目は厳しい先生とだと思っていたけど、変わった先生だった。

 そう言えば、源さんがさっきから静か。

 隣を見ると、腹を抱えて笑うのを必死に堪えていた。どうやら、さっきの私のバカな発言をまだ引きづってる様子。通りで静かだと思ったよ。



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