友達とお出掛け
土曜日。学校は休みで、部活動に入ってない私は特に予定はない。
いつもだと、散歩をしたり図書館に行ったりして過ごすのだが、今日は違った。
目が覚めると、私を覗き込む源さんが目に入った。
「あっ! おはようございます! 先輩」
「あ、うん……おはよう」
しばし、見つめ合い言った。
「どうしてここにいるの?」
「寝込みを襲いに来ました」
「え?」
急いで起き上がり、源さんと距離を取った。
「冗談ですよ……先輩と遊びに行こうと誘いに来ました。そしたら先輩のお母さんが家に入れてくれたんです」
「……そっか……でも、何で私の家を知っているの?」
「私の趣味は先輩のストーキングですから」
「……」
笑顔で犯罪的な発言をする源さん。
正直言って怖い。
「それでなんですが……先輩」
「うん、何?」
「今日て暇ですよね。一緒に遊びに行きましょう」
そうだった。源さんは私を遊びに誘いに来たのだった。
でも、暇だと決めつけられるのはちょっとイラッとくるものがある。まるで暇人のようではないか。私にだってちっぽけなプライドくらいある。
「暇じゃ……」
「先週は家に引きこもって過ごしてました。先々週は図書館でずっと読書。さらに――」
と、サラサラと私の休みがどう過ごしたかを話す源さん。その目は虚ろで、私に「どうして、嘘つくんですか」と問いかけてくる。
「で、先輩。予定はないですよね」
「は、はい、ないです……」
私はあっさりと白状した。ちっぽけなプライド何てあっさりと折れちゃったよ。
「じゃあ、準備するから下で待ってて」
「いえ、ここで待ってますよ」
「……でも、着替えとかもしないと」
「何言っているんですか? 女の子同士何ですから、気にしないでください。そう、女の子同士何ですから!」
同性であること強く主張する。だが、頬が紅潮していて、目がちょっと怖い。下心丸見えである。
「あ! よろしければ着替え手伝いますよ!」
「いや、いい。変なことするつもりでしょ」
「もちろんです! 好きな人の生着替えですよ。変なことしないでどうするって言うんですか!」
欲望に忠実なやつめ。
「部屋から出ていかないと、一緒に出掛けないから」
「う……仕方ありませんね。では、部屋の外で」
「下で待ってて」
「……わかりました」
残念そうに部屋を出ていく源さん。
私は廊下に出て源さんがいないことを確認すると、着替え始めた。
***
家を出て私と源さんは並んで歩く。
天気は雲一つない青空。絶好のお出かけ日和だ。
「いや~、先輩の私服姿良いですね。まあ、普段の制服姿も素敵ですけど」
「……そんなことないよ」
うん、本当に。
ジーンズに白色のシャツ。灰色のパーカーにスニカー。
オシャレをするお年頃とは思えない地味な服装だ。
対して源さんは、ピンク色のシャツ、チェック柄のプリーツスカート、黒色のニーソに、金色のハートのネックレスをしていた。
うん、私と比べたら天と地の差だ。
「ん? どうしたんですか、そんなに見詰めて……はっ! どこかおかしなところありましたか?」
「いや、オシャレだなって思って」
「そ、そうですか……何か照れますね……実は今日のために張り切ってしまいました!」
嬉しそうに笑う源さん。ちょっと可愛いと思った。
そうして、着いたのは駅に隣接しているショッピングモール。
「どこか行きたいところありますか?」
「うーん……」
フロアガイドを手に取り、悩むが、
「特にない。源さんはどこかある?」
「はい、あります!」
「んじゃ、行こうか」
「はい……そうだ! 先輩」
「ん?」
「せっかくのデートですし、手を繋ぎましょう!」
「……っ! それは……!」
私が渋っていると、源さんは私の手を掴んだ。
「さあ、行きますよ」
「……うん」
ちょっと強引ではあるが、まあ良いや。
源さんに手を引かれ、やって来たのは、メイド服やチャイナドレス、ナース服や婦人警官の制服……など、コスプレ衣装が飾られているお店。すごくいかがわしい。
「あの……源さん?」
「なんですか?」
恐る恐る尋ねた。
「本当にここで合ってるの?」
「はい、合ってます」
ニコリと笑う源さん。
身の危険を感じて逃げようとしたが、残念なことに手はがっしりと握られたままだ。なるほど、逃げられないように手を繋いだわけか……。
「ここはですね。コスプレをして写真を撮れるんですよ」
「へー」
「だから、先輩にコスプレをして貰おうかなて」
「恥ずかしいからやめて欲しいな……」
「嫌です。むしろ、恥ずかしがっている先輩を撮りたいです」
変態だー。
「さあさあ、行きましょう」
源さんに引っ張られ、そのまま店内に入った。
「さて、まずはメイド服から行きましょうか」
渡されたのはスカートが短い白黒のメイド服。
「うぅ……無理だよ」
「大丈夫です! 絶対に似合いますから……!」
拳を握りしめる源さん。その確証はいったいどこから来るのやら。
「もしかして、着方がわからないですか? でしたら、手伝いますよ」
「いや、大丈夫! 一人で着替えられるから!」
そんなことされたら、恥ずかしくて死んでしまう。
私は急いで更衣室のカーテンを閉める。
「……ふぅ」
手にあるメイド服を改めて見つめた。
絶対に似合わないと思うんだけどな……。でも、源さん楽しみにしてるみたいだし。
覚悟を決めてメイド服に着替える。
鏡で自分の姿を見て見るが似合ってない。やはり、こういうフリル系の服は可愛い女の子が似合うだろう。
「先輩! 着替え終わりましたか?」
「あ……うん」
「じゃあ、開けますね」
カーテンが開けられる。
源さんは私のメイド姿を見て固まっていた。
やっぱり、似合わないかな……。
「先輩」
「……何?」
「『お帰りなさいませ、お嬢様』と、言ってください」
「え?」
「早く」
「はい!」
目が怖かった。
「お、お帰りなさいませ……うぅ……お、お嬢様……」
は、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
源さんの顔、見れないよ……。
「最高です」
「え?」
源さんはギュッと私を抱きしめた。
「今まで生きてきた中で最高の瞬間でした」
「え、えーと……」
オーバーな表現だけど、満足してもらえたって事かな……。
「このまま持ち帰っていかがわしいことをしたいです」
「それはダメ」
ちょっと嬉しいと思ったら、すぐこれなんだから……。
「わかりました……我慢します。後――」
「っ!?」
パシャリ、とシャッター音。源さんの手には携帯があった。
「写真撮らせていただきました」
「なっ! け、消して! 恥ずかしいから……!」
「嫌です! 待ち受けにします!」
「うぐ……」
油断も隙もあったもんじゃない。なら、
「わかった……代わりに、源さんの写真も撮らせて」
「私ですか……? 別に構いませんけど」
「もちろん、コスプレしてね」
「……ええ、良いですよ」
「っ!?」
あっさりと承諾されるなんて……!
自信か! 自分に自信を持っているからか!
「むしろ、先輩に写真を撮って欲しいです。そして、私を待ち受けにしてください!」
「……待ち受けにするかはともかく、写真は撮る」
えー、と頬を膨らませる源さんを放置し、私はコスプレ衣装を選ぶ。
メイド、ナース、アニメキャラのコスプレ……と選んでいき、手に取ったのは黒いゴスロリ。
さらに、ウサギのぬいぐるみを持たせれば、すごく可愛い。
「お待たせ……はい、これ」
「これは……」
「文句ある?」
「いえ、先輩てクールな見た目とは違って、少女趣味ですよね」
「う……別に私が何を好きだろうと良いじゃない」
「けど、そういうところも可愛いですよ」
「……っ!?」
相変わらずこの子は……!
「では、着替えてきますね」
カーテンを閉める源さん。
数分後、着替え終わり源さんは頬を微かに赤くして自分の服装を見ていた。
「は、初めてゴスロリ着たんですが……ちょっと、恥ずかしいですね……」
ゴスロリを着た源さん。髪型はいつものストレートロングからツインテールに変え、大きな赤いリボンを二つ着けている。ウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、恥じらっている姿に胸ときめいた。
「良い」
「……せ、先輩……うぅ……見ないでください」
想像以上に恥ずかしかったのか、ぬいぐるみで顔を隠す源さん。その仕草も最高に可愛かった。私は携帯を取り出すと写真を撮りまくった。