花火の告白、その後の二人
最終回です。
「お祭りのシメと言ったら、花火ですよね!」
私達は夏祭り会場を離れ、待ち合わせで来た神社に来ていた。
源さん曰く、花火の隠れスポットらしい。
神社の階段に座り、空を見上げた。花火が咲き、暗い空を照らしていた。
「綺麗……」
「そうですね……でも、先輩の方が綺麗ですよ」
ニヤリと笑う源さん。面白半分で言ってるんだろう。
「源さん」
「何ですか?」
「ありがとう」
お礼を言うと源さんは首を傾げた。
「一人でいる時は、毎日が退屈で、何をしても……楽しくなかった……けど、源さんに会ってからは、一緒に出掛けたり、遊んだり。お昼を食べたり……こうして花火を眺めたり」
花火が夜空を照らす中、私は言葉を続けた。
「周りから見れば、普通の事でも……すごく、楽しいんだ」
「先輩」
源さんはギュッと私に抱き付いた。
「そんなこと言われると……もっと好きになっちゃいます」
「もっと好きになって良いよ」
「え?」
ポカンとした顔をする源さん。そんな表情もするんだ、と思いながら私は続けた。
「むしろ、もっと好きになってもらいたい」
「先輩! それって……」
源さんを真っ直ぐに見つめて伝えた。
「私も源さんの事、好きだから」
「っ……!」
ようやく、告白の返事をすることが出来た。
「先輩、これからは恋人てことで良いんですよね?」
「……うん」
恋人か。そう言われると照れ臭い。
「つまり、今まで我慢していたらキスとか、エッチな事とか、刺激的なスキンシップをして良いってことですよね?」
「……」
確かに、その通りだけど……。源さんの目を見ると、獲物を狙う肉食動物の目だった。
恋人になったんだ、と今日一日くらい感動に浸らせてくれないかな……。
「けど……ムードとか……あるでしょ? そういうのを大切にして欲しいな」
「誰もいない神社。夜を照らす美しい花火。分かり合えた恋人。これ以上のムードはないですよね」
「……うん」
「では、先輩」
源さんは妖艶な笑みを浮かべ、私の頬に手を伸ばした。
「刺激的な夜にしましょうか?」
ただ一言言えるのは、その夜あったことはけして忘れないだろうということだけだ。
***
楽しい夏休みはあっという間に終わり、普通の学校生活が戻ってくる。憂鬱な学校生活だけど、今は違う。
朝、目が覚めると源さんがいた。なぜか、布団の中に入り添い寝している。
「おはようございます、先輩」
「……おはよう」
ちょっと驚いたけど、源さんの変わった行動はいつものこと。今日も、お母さんに家に入れてもらったんだろう。
「着替えるから、下で待ってて」
「むー……反応が冷たいです。そこはどうして愛しの君が、と恥じらって欲しいです」
「……はぁ」
私はため息を吐いた。
「着替えるから」
「良いじゃないですか? だって、私達はもうお付き合いしているんですよ? だったら、着替えくらい、ね?」
小首を傾げて、おねだりする源さん。可愛いと思いながらも、私は視線を逸らした。
「付き合っていても、恥ずかしいから」
「ふふ、そんなこと言われたら、ますます見たくなっちゃいます!」
「うっ……」
しまった……。源さんは起き上がると、ベッドにペタンと座った。
「まあ、これ以上、先輩を困らせる気はないので、下で待ってます」
「……そう」
「でも、その前に何か忘れてないですか?」
「忘れて……っ」
「ふふ、相変わらず顔に出やすいですね」
ニヤニヤと笑みを浮かべる源さん。
私達は付き合うようになって、ある約束をした。
とても恥ずかしいことで、ただ私自身もやりたいことだ。
「さあ、先輩からどうぞ」
源さんに促され、私は言った。
「……く、胡桃……好き」
源さんを抱き寄せると、キスをする。
「ふふ、よくできました。次は私の番ですね」
耳元に唇を寄せる。吐息が当たりくすぐったい。
「好きです、優香先輩」
キスをする源さん。
そう、これが私達の約束。
毎日、会った時に相手の名前を呼び、愛を囁き、キスをする。まるで新婚さんのようだ。
源さんは私を抱きしめたまま、ベッドに横になった。
「初々しい先輩、最高に可愛いです」
「……そういう源さんだって、顔真っ赤」
「恥ずかしいですからね……でも、ポカポカします」
「私も」
ふふ、と互いに笑う。このポカポカはたぶん幸せというものなんだろう。
「ねえ、先輩」
「ん?」
「もう一度キスして良いですか?」
その問いかけに、即返答はできなかった。悩んでいるわけじゃない、答えは出てるが、恥ずかしいだけ。
「……うん」
私は頷いた。源さんはニッコリと笑うと、キスをしてきた。
当然、キスは一度では終わらず、何度も続いた。そのせいで、遅刻する羽目になったが、後から思い出したら、ただの笑い話である。
今までありがとう!