初めての友達?
久しぶりの新作です。よろしければ、読んでね!
私、橋本優香は友達がいない。世間一般で言うボッチである。
勘違いしないで欲しいのは、私が好きでボッチになったわけではないということだ。
全ての原因は私の目つきである。背は高め、スタイルも良いし、髪艶も申し分ない。ただ、目つきが悪い。他人から見たら、私が普通にしていても睨んでいるように見えるらしい。ある時は目が合っただけで、失神された。ある時は、カツアゲ現場に遭遇、カツアゲしていた連中からお金を渡され、土下座された。他にも色々とエピソードがあるが上げたら、キリがない。
そんなこんなで周りから恐れられた私は、ボッチになってしまったのだ。
ボッチの私が過ごす昼休みは一人、屋上で過ごすことであった。
滅多に人がこない屋上は、誰にも恐怖を与えず、誰の目も気にせずに過ごせる快適な場所。今日も、一人屋上でお弁当を食べ、ボーと青空を眺めていた。
「良い天気」
授業なんてサボって、青空の元、昼寝をしたら気持ちいいだろう。まあ、真面目な私は授業をサボらないけど。
いつもなら、このまま昼休みが終わるのだが今日は違った。
「……っ!?」
屋上の扉が開き、一人の女の子がやって来た。
もしかして、屋上で昼休み過ごすつもりかな……。折角見つけたこの場所ともお別れ、か。
そして、女の子と目が合った。怖がられる、と思ったが、女の子は笑顔を浮かべて、近寄ってきた。
「先輩っ!」
名前を呼ばれ、私は「えっ!?」と驚いた。
「覚えてないですか? 私です、私!」
「……っ! ま、待ってっ……!」
私を恐れず、迫ってくる女の子。
長いサラサラとした黒髪、ぱっちりとした瞳、桜色の唇。
身長は150センチにはぎりぎり届かないだろう。
そして、女の子はニコニコと笑みを浮かべ、私を見ていた。
うーん……見覚えがない。知らない子だ。
いや、もしかして私が忘れてるだけで……。
「やっぱり、覚えてないですか……」
「……ご、ごめん」
しょぼんとする女の子。
「まあ、覚えていないのは仕方がありません! だって、会うのは初めてですから!」
一転。てへっと笑う女の子。
「……」
「すいません、ちょっと緊張しちゃって、先輩の事からかってしまいました」
「そう」
緊張ね。私もしてるよ。人と話すの久々だから。
「あ! 自己紹介がまだでしたね。一年二組の源胡桃です!」
「……二年二組の橋本優香」
やっぱり聞いたことがない名前だ。
「それで、何ですが……実は、先輩に……その……大切なお話があってここに来ましたっ!」
「……相談とかなら他にあたった方が良い」
私に相談されても、何の力にもなれない。むしろ、私が相談したいくらいだ。
「いえ! 先輩じゃなきゃダメなんです!」
グッと近づく女の子。あまりの力強さに思わず後ずさる。
源さんは顔を赤くすると、言った。
「先輩に一目惚れしました! 私とお付き合いしてください!」
「………………………え?」
ええええええーーーーーーっっっ!!!!!
ま、まさかの告白っ!? それも、女の子からっ!?
ど、どうしよう……。一旦冷静になろう。
深呼吸。
「……ひ、一目惚れ……て、いつ?」
「入学式の日、廊下ですれ違って……カッコいい人だなと一目惚れしました。特にその目が好きですっ!」
「えっ!?」
目が好き。そんなこと言われたの初めて。
「人をゴミくずのように見ている目なんか、カッコよすぎてっ! ……見られているのを妄想しただけで……はぁ、たまりませんっ……!」
「ゴミくず……」
妄想に入っている源さんの前で私はショックを受けた。
そうだよね、私の目つきは悪いよね。うん、知ってた。でも、他の人の口から言われるとショック。このまま灰になって消えてしまいたい。
「はっ……それからは毎日、先輩の後をつけてます! 先輩の家も知ってますし、猫が好きで野良猫を見かけると撫でることも知ってます。その他には――」
「……」
饒舌に話す源さんに私は絶句した。
これって、世間一般で言うストーカー……。
「あっ! すいません、私ばかり話しちゃって……」
「いや、うん……」
「それでその……告白の返事何ですが……ダメですか?」
不安そうに私を見つめる源さん。
正直言って断りたい。でも、断ったら断ったで……ナイフ出して「私の物にならないなら殺す」なんてことになんないかな……。
「もしかして、私のこと嫌いですか?」
「き、嫌いじゃない……」
嘘じゃない。ただ怖いだけだ。
「じゃあ、好きってことですか?」
「ち、違う! あ、泣かないで……そう! 源さんのこと知らなくて……だからっ!」
「つまり……わたしのことを良く知らないから、付き合えない……そういうことですか?」
「う、うん。そう! そうなんだ……」
あ、流されるまま断る流れになちゃった……私、殺される? 大丈夫だよね?
「わかりました。では、先輩」
源さんは私の手を握った。
「友達から始めましょう」
「え?」
どういう事?
「知らないことがあれば知っていけば良いです。だから、友達から始めてお付き合いしましょう」
「う……」
た、確かにその通りだ。
「もしかして、身体の関係から初めて方が良いですか?」
「違う!」
「では、友達から始めましょう!」
「……わかった」
たぶん、この子は引き下がることはない。なんとなく、そんな気がする。
もう、友達で良いや。ストーカーだけど。それに、私の目も好きだって言ってくれてるし……理由が変だけど。
「早速、友達になった記念にキスしましょう」
「……」
あー、間違ったかもしれない。
「冗談です。冗談。だから、写真撮りましょう!」
「写真?」
「はい、友達なった記念撮影です」
「それなら」
源さんは携帯を自撮りモードに切り替えると、私の隣に寄った。
「さあ、先輩! もっと寄ってください!」
「で、でも……」
肩と肩が触れ合う距離。人とコミュニケーションを取らない私には近すぎる距離だった。
「もう、仕方ないですね」
源さんは左手を伸ばすと、私を抱きしめた。えっ、この子すごく積極的じゃない?
「ま、待って……!」
頬と頬が触れそうな距離てか、もう触れてる距離。キスをしようとすればできるであろう。それにこの子から良い匂いが……。
「嫌です。待ちません! さあ、視線をカメラに向けてください!」
「うぅ……」
私は視線をカメラに向ける。自撮りモードの携帯には緊張で顔を赤くした私の顔が映っていた。
「では、撮ります! はい、チーズ!」
カシャリ、とシャッター音。
「では、もう一枚。はい、チーズ!」
そう言った瞬間、頬に柔らかな感触があった。
今何か……。
「良い写真が取れました!」
そこに映っていたのは私の頬にキスをする源さん。
「な、な……!」
「どうしたんですか?」
「どうしたって……キ、キスッ……!」
「そうですね。でも友達同士でもキスしますよ?」
「嘘……!」
驚愕の真実に私は困惑する。
い、今の友達てそんなことまでしてるの!?
「嘘じゃないですって、ほら、キスフレンドとか聞いたことないですか? そんな感じです。セフレみたいなものですよ」
「セ、セフレ……」
「あれ? セフレは知っているんですね。先輩て実はむっつりですか? あ! よかったら」
源さんは私の耳元で囁いた。
「今度は頬じゃなくて、唇にして写真撮りますか?」
「……ふぇ」
私はもう羞恥心で一杯だった。頭からぷしゅーと湯気が上がる。
「ふふ、冗談です。さすがに私も恥ずかしいですし。やっぱり唇へのキスは特別ですから! では、記念撮影も済んだことですし、今日は帰ります。また、来ますね」
そう言うと、源さんは屋上を去っていった。
私は黙って彼女を見送った。