022話 ぐしゃ
「と、言うわけなんで、行ってきます。」
再び東口の百貨店に戻った俺達は待っていたルミとソラに挨拶をする。
「気を付けるのよ。」
と、ルミ。
「あ、その、無理はしないでください。」
と、ソラに見送られ、俺とグロウは、二人でエスカレーターを逆走する。
ウララが珍しく最後までついてこようとしたが、エリカに引き留められて、寂しそうな目をして俺達を見送った。
「無事に帰ってくるッスよー。」
エリカはいつものように、手を振っている。
「おう。すぐ戻ってくるから、心配要らねーぞ。」
四人が見えるギリギリのところで、俺とグロウは手を振った。
「アツシ!待ってますから!
あなたが、帰ってくるまでここで!」
何なんだよ、俺はここで死ぬのか?
と、思うくらい、気になる言葉を投げつけられる。
「あたしの事も心配してよ!」
誰からも心配して貰えなかったグロウが怒りに震えている。
まずい、先に進もう。
そうして、地下一階にたどり着くのだった。
―――
地下一階。
通常であれば、チュートリアルの最後のボスバトルが繰り広げられるフロアだ。
フロアに着いてすぐ、俺とグロウは辺りを見渡す。
…が、特になにもいる気配はない。
それどころか、セーフティエリアでもないのに、モンスターが全くいない。
従業員の姿もまばらで、ほとんどが外との出入り口付近に集まっている。
そのせいか、やたらと空間の目立つフロアだった。
そうか、開店間際だったのかもしれないな。
とにかく、いきなりのボス戦は回避されたようだ。
ホッと胸を撫で下ろし、俺達は一階を目指すことにした。
―――
一階。
地下一階とは異なり、モンスターがうようよいる。
しかも、今まで俺達が良く見かけていたものとは違うヤツらがだ。
初めに現れたのは、白くてまるっこいからだに、手と足がついていて、二足歩行をするモンスターだった。
ひょこひょこ走り、手には骨付き肉を持っている。
頭に猪の被り物をつけているので、あいつはオークだろう。
EOでは、外見を減らすために、被り物だけで変わるタイプのモンスターが少なからず存在する。
ちなみに、同じタイプのヤツで、頭が犬になるとコボルトになる。
弱点も攻撃の仕方も変わるので、なれるまでは面倒だが、慣れればどちらも雑魚だ。
俺は少し離れた位置から、投げナイフを呼び出すと、そのうちの一本を使って、オークが持っている骨付き肉を弾き飛ばした。
オークは腹の肉が邪魔をして前からの物理攻撃は全て半減する性質がある。
肉を撃ち落としたのは、後ろからの攻撃をしやすくするためだ。
肉に気をとられ、隙を見せたオークに残りの三本が見事に打ち込まれた。
戦いかたさえ知っていれば、分裂しないだけシャドーマンよりも楽勝だ。
ちなみにコボルトは逆に尻尾のある後ろからの攻撃が半減する性質がある。
ケットシーは下からの投擲攻撃が無効で、リザードマンは近接攻撃に強い。
被り物だけでこのバリエーションは、正直辛い。
そろそろ、ソラに言われて買った中級魔法の巻物が試してみたいので、物理耐性のヤツと戦ってみたいところではある。
と、言うか火の巻物以外の巻物も試したことがないので、まずは初級からでも良いかもしれない。
と、思っているときに限って、オークやコボルトしか出てこないので、しびれを切らした俺は、コボルトに氷の巻物をぶん投げると、バッドステータスの氷結で氷付けになったところを金づちで砕くと言う、あまり美しくない戦いかたをする羽目になってしまった。
初級魔法は、それだけで敵をやっつけられない事が多いのが難点だ。
上の階に進むエスカレーターを見つけたので、俺達は更に上へと進むのだった。
―――
二階からはエスカレーターがずっと繋がっていたので、特にフロアの調査はせずにどんどん上っていく。
九階に到着すると、また広いスペースが見つかった。
何となくだが、ここでもなにかがありそうだ。
そして、問題の十階に到着する。
―――
十階。
噂の、転移先だ。
普通のプレイヤーはここで初めてのチュートリアルを受ける。
俺は、ここまで来るのにどれだけ苦労したか…。
このフロアはまだ薄暗く、歩いていたと思われる従業員もいなかった。
レストランフロアなので、各々の店で開店準備をしていたのかもしれない。
グランドピアノのある場所にたどり着くと、チュートリアルと思われるパネルが空中に現れた。
やった!これで俺も色々な制限が解除される!
そう思いながら、パネルの元へ急ぎ、内容を確認する。
…が、そこに書かれていたのは、他のメンバーから聞いたこととは全く違う内容だった。
自力でここまでたどり着いたあなたへ
到着おめでとうございます。
あなたに【愚者】の紋章を授けます。
あなたにはチュートリアルすべき事は
何もありません。
あなたが【世界】を解放してくれることを
祈っています。
と、言うものだった。
俺が読み終わると、パネルが溶けるように消えていった。
その代わりに、光源がふよふよと現れた。
俺が、その光源に手を伸ばすと、すぅーと、俺の中に吸い込まれた。
そして………。
いてっ!!
首の後ろに急激な痛みが走った。
慌てて手を当てたが、傷があるわけではないらしい。
二台のスマホを合わせ鏡のように使ってそこを見ると、話に聞いていた、バーコードの様なものが刻まれていた。
これが【愚者】の【紋章】と言うヤツか。
名前は何となく気に入らないが、これで漸く俺も入管手続き出来るようになると言うことだろう。
だが、それ以降、俺が思っていたような変化が起こらなかった。
え?
視界のステータス表示は?
ステータスキャップ解除は?
スキルツリーは?
レベルアップ解除は?
少し慌ててしまったが、確かチュートリアルすることはないとは書いてあるが、何もあげないとは書かれていなかった。
俺はそう思って、俺はスマホを取り出すとおもむろにアプリを起動するのだった。
そこには………。
なんと!念願のステータス編集欄とスキルツリー欄が追加されていた。
早速確認すると、以下のように表示されていた。
道化【愚者】
アイザワ アツシ LEVEL 120/120
STR 039(+030) INT 021(+020)
PHY 039(+030) MEN 031(+030)
LEG 031(+030) LUC 889(+100)
残:3
HP 06359(+06169) SP 00615(+00604)
ATK 0635(+ 0616) MAT 0583(+ 0580)
DEF 0645(+ 0618) MDF 0606(+ 0603)
ACC 0626(+ 0615) AVO 2590(+ 1011)
SPD 0626(+ 0615) CRT 3577(+ 1210)
習得スキル ( 16 / 99 )
P 【幸運 LV1】
P 【ギャンブル LV1】
P 【ジャグリング LV1】
A 【ゲームは1日1時間 LV1】
P 【不死ボーナス LV1】
P 【顔馴染み LV1】
P 【値引き交渉 LV1】
P 【売値交渉 LV1】
P 【道具袋拡張 LV3】
P 【倉庫拡張 LV3】
P 【出張販売 LV1】
P 【ナイフ投げ LV1】
A 【精神集中 LV1】
P 【時間計測 LV1】
P 【思念伝達 LV1】
P 【心眼 LV1】
P 【投げナイフ適性 LV1】
見方はおいおい説明するとして…漸く俺もステ振りとスキル習得出来るようになったのだ。
あと、俺のレベルが120じゃん!
今までレベルが上がんなかった理由がやっとわかった。
今のところ、【紋章】だけはEOには無い概念なのでこの辺りが良く分からないが、スキルについても、もともと俺が覚えていたものが引き継がれている。
めちゃめちゃ趣味スキルだが。
EOで覚えていたもので半分くらいは出てきていないのは、この世界には無いスキルだったと言うことなのか、あるいは条件を満たしていないのかもしれない。
俺は、自分の事にばかり夢中になっていて、グロウの事を忘れていた事を思い出した。
振り返ると、そこには、グロウがうずくまっている姿があった。
「おい、グロウ!大丈夫か!?」
そう言うと、グロウは顔をあげてニコッと微笑んだ。
だが、次の瞬間、グロウは気を失ったように倒れ込んでしまうのだった。




