佐藤パート4 佐藤、泉、車内にて
佐藤は歩きながら上着だけ着ている金髪の少女に自分のTシャツを着させようとするが少女は受け取らず服をジッと見るだけであった。仕方がないので半ば無理やり被せるように服を着させた。案の定ブカブカではあるが無いよりマシだと佐藤は思う。
山から下りた後、佐藤達は直ぐに車に乗せられた。金髪の少女が一瞬躊躇したように見えたが、佐藤の手をギュッとすると一緒に乗りこんだ。
運転席にスーツの女が座り、後部座席に佐藤と少女が隣に座った。
「あ、そうでした。佐藤さん。お友達の方と来ていらしたのでしたね?」
「……はい」
「事件に巻き込まれて警察で事情聴取を受けるから一緒に帰れないとか適当に急にいなくなった理由をお友達に連絡してください。電話するなら私が警察役を買いますが?」
「いえ、電話は大丈夫です」
「そうですか、残念です」
「何が残念なんですか……」
こんな状況でもツッコむ佐藤であった。
ポケットに入ったスマホを取り出し電源をつける。
「妙なマネは起さないでください? 薄々は気づいていると思いますが、私達は貴方が普段暮らす世界の住人ではありません。警察への連絡も何の意味もなしませんよ? 友達も巻き込みたくなければ言う通りにしてくださいね?」
「分かってます」
巻き込んだら歓喜しそうな奴に佐藤はこれから連絡を入れる訳だが、もちろん佐藤に沢田を巻き込むつもりは毛頭ない。
「これでいいですか?」
佐藤は沢田へ送る文章をスーツの女に見せる。
「ええ。大丈夫です」
了承を受け佐藤は見えるように送信ボタンを押す。
「一応、携帯は私が預からせて貰いますね。まだログインしていないゲームがありましたら今の内ですが?」
「……いえ、お構いなく」
「そうですか」
携帯を受け取り、その電源を切ってポケットに入れた。
「では、出ます」
言うとスーツの女は車を発進させた。
どこへ向かうのか分からない車。佐藤は特に何もしない。隣にいる、金髪の少女はずっと俯いている。体は少し震え、また何かに怯えているようであった。
佐藤は、スーツの女性から言われた事を考えていた。「優しい存在ではない」という言葉についてだ。佐藤からすれば、ただのか弱い少女。
今も佐藤の手を心の頼りを求めるように掴み離さない弱々しい子供の姿であった。
庇護すべき存在にしか佐藤には映らなかった。
「目的地まで少し時間があるので、自己紹介くらいはしましょうか」
しばらく運転していたスーツの女が後部座席に座っている佐藤に話しかけた。
「私は泉氷華と言います」
泉はサバサバとした口調で自分の紹介を始めた。
「氷華ちゃんと呼んでください」
「……嫌です」
「そうですか。ではお好きに」
佐藤はついに確信する。目の前の女性が真面目そうに見えて頭がおかしい事を。
「じゃあ、泉さんで」
「私、自分の苗字が嫌いなので出来ればファーストネームで呼んで頂けますか?」
「…………」
佐藤は突っ込まない。
「どうされました?」
「いえ……では、氷華さんと呼ばせて貰いますね」
「はい。では私も貴方を圭さんと呼ばせて貰います」
「好きにしてください……」
話せば話すほど残念な泉の人格が浮かび上がって来る。
「お互い敬称で、しかも名前で呼び合うなんて熟練夫婦のようで良いですね。まあ私的には氷華ちゃんと圭君で付き合いたての一ヶ月で別れそうなバカップルのような呼び方が本当は好みですが」
「そうですか」
ツッコミを放棄する佐藤。
「でも、圭さんとケイ酸の呼び方が同じなのでゴッチャになりそうですよね」
「せめて計算と間違えましょうよ。そんな化学用語、誰に通じるん……で、す……か?」
結局、泉の言葉に痺れを切らして突っ込んでしまう佐藤だったが、ある違和感に気づいた。
「もう気づかれましたか」
少し残念そうに泉は言う。
佐藤が感じた違和感。泉との会話中に同音の言葉に対して佐藤がツッコミを入れた事であった。普通ありえないのだ。会話中の同音語に突っ込む事は。
佐藤と沢田のように古くからの仲ならば、あるいは可能かもしれないが、ついさっき出会ったばかりの二人が微妙な言葉のアクセントやニュアンスで気づくのは、まず不可能である。
そして何より。
佐藤はケイ酸という言葉をこの時、初めて知ったのだ。自分で突っ込む今の今まで佐藤はケイ酸を知らなかった。それにも関わらず、ケイ酸が何かを、泉の言葉を、正しく理解したのであった。
「意外と言っては何ですが圭君、貴方は賢い人のようですね。ケイ酸を知らない所を見るとお勉強は苦手のようですが」
最終的に泉の中で佐藤の呼び名は圭君に決まったようだ。
「上げて落とさないでください。俺は化学が苦手なだけです……いえ、そうじゃなくて」
「圭君が何で私の言った事を正しく理解出来たか、ですよね? では、もっとシンプルな事をしましょう」
――シンプルな事?
疑問が浮かんだ束の間
『圭君? 聞こえますか?』
「うわっ」
泉の声が頭の中で響いた。
『その様子だと聞こえているみたいですね』
「え? 何です? これ?」
イヤホンも何もなしに音が耳の奥に直接聞こえて来る感覚である。
『これが私の能力、テレパシーです』
――テレパシー? って、あの? 本当に?
「あのテレパシーですよ。本当に」
今度は頭の中ではなく耳の外から聞こえる泉の声。しかも、たった今、佐藤が考えていた内容である。
「圭君に分かり易く言いますと、私は超能力者という存在なのです」
言葉の単純さで言えば確かに分かり易いが、事態は全く単純でない。
「より正確には魔法使いなのですが」
何が違うのか困惑しきりの佐藤であった。
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クリスマス・イブですね。今年1年間、良い子であったかの審判が下される時ですよー皆さん! 良い子でない私には石炭が届きますかね?
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