佐藤パート1
「おい! 聞いたか佐藤!? 東京にフライングヒューマノイドだって!?」
大学内の講義室に眼鏡で小柄な男が机に突っ伏している男を揺すってスマートフォンを画面を見せようとする。
「あーそう……」
男は一瞥もせず突っ伏して答える。
「んだよ佐藤、興味なさそうだな」
「俺がその手の話に興味持った事なかっただろ?」
佐藤は気だるそうにテンションが高く話しかけてくる眼鏡の男、沢田に答える。
「中学時代はあんなに食いついたのに」
「そんな昔の事は覚えてねえよ」
――思い出したくもない。
心の中で溜息をつく。
佐藤にとって中学時代、厨二病である事は本人にとって黒歴史であった。
「いつの間にそんな奴になったんだよ」
――……そういえば、いつだっけ?
佐藤はあの日にテレビを見た記憶はない。当たり前である。そもそも、あの日をきっかけに厨二病が治り始めた事にすら無自覚なのだから。
「お前は変わらないよな」
「変わったさ、変わらない人間なんていないのさ」
「変わってねえよ、身長も性格も、そうやって無理にカッコつけたセリフを吐くところも」
「別に無理はしてない」
「あっそ」
沢田は中学時代から佐藤の親友である。お互い厨二病という、魂という運命によって惹かれ合ったらしい二人である。
沢田は性格が変わっていないと佐藤は言ったが、未だに厨二病という訳ではない。
冗談めかして話しているという方が正確だろう。そもそも中学生の時から沢田は厨二病というよりオカルト好きである。佐藤の厨二病に合わせてキャラを演じていた風ではあった。
「あっ、話しがずれたな……なあ佐藤、明日なんか予定ある?」
「ん? 明日?」
「行こうぜ! 俺達も東京に! フライングヒューマノイドに会えるかもしれないんだぜ?」
「……またか」
沢田のこの手の誘いは佐藤にとっていつもの事である。
「今回の情報は確かなんだよ!」
「お前それ、いつも言ってるよな……」
「本当に今度は今までと次元が違うんだよ! 信用度で言えば、敵に追い詰められて覚醒した後の主人公の勝率くらい高い」
「確かに高いけどな」
「一回見てみろよ、東京にいる俺の友達から送られて来た動画だぜ?」
「お前、東京に友達なんかいたっけ?」
「オカルトマニアは交流が広いんだよっ、ほら」
佐藤は沢田が差し出したスマフォに今度は目を向ける。
画面には、東京の風景と空が映し出されていた。高層ビルよりもさらに高い所に黒い点のような物が映っている。映像を拡大すると確かに人型のように見えなくもない。
「加工じゃないからな?」
「うさん臭い」
「そんな事ないよ。その影、目撃者があまりに多いもんでネットじゃ大騒ぎなんだぜ?」
動画はその後、しばらく動かなかった謎の存在が高速でどこかに移動し、画面から消えた所で沢田が止めた。
「こんな動画が大量にネットやSNSにアップされてるんだよ! 宇宙人の偵察か!? とか。大手企業のフライングスーツの試行運転か!? とか、昨日の事だぜ? すでに色んな説が流れて盛り上がってんだよ! ついでに俺が推す説は天使説ね」
「天使っつうなら天界に帰っちまってるんじゃねえの?」
「それが、昨日の騒ぎから未だに目撃証言が止まないんだよ。まあ、ガセネタも多いだろうけどね。でも、中にはマジそうな情報もチラホラ。行ってみる価値はあると思わない?」
「へぇ……」
――実際に「何か」がいたのは間違いなさそうだな。
話を聞いて気になった佐藤は自分のスマホでもその「何か」について調べていた。ネット上では学生、会社員、主婦など、全く繋がりがないであろう、多くの人達が動画を投稿していた。
――ここまで無作為的な人達が同じモノを見て動画を撮っているというのなら、集団的な謀略じゃない限り信用できる話かもしれない……
「どう佐藤? 興味わいた?」
「興味というか……ま、何かいる事は信じてもいいとは思ったかな」
「な! だから佐藤! 明日一緒に東京行こうぜ!」
「うーん」
佐藤は悩んでいた。正直この手のオカルト話に佐藤は、昔ならいざ知らず、今はあまり興味がない。と言っても、かなり信憑性も高そうな話でもある。それに
――東京なら見つからなかったら遊ぶ事も出来るか。
という、本命とは別にある副産物に期待していた。
「わかった、行くよ」
「え! ホントに! うわー駄目元で言って見るもんだなー」
「やっぱ行かねえ……」
「わ、嘘、嘘! 冗談!」
あはは、と笑って取り繕う沢田。
「つうか、お前。東京に友達がいるなら、俺を誘わないで、そいつと行けば良かったんじゃねえの?」
「なに言ってんだよ、佐藤?」
沢田は佐藤に向けて、昔から何も変わらない笑顔で
「親友と行った方が楽しいに決まってるだろ?」
昔から何も変わらないくさい台詞を吐く。
佐藤は少し照れくさそうに首筋を掻いて
「バカたれが」
と呟くのであった。
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