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佐藤パート9 金髪少女の正体

「お待たせいたしました」


 泉は温かいお茶とお菓子をお盆の上に乗せて佐藤と金髪の少女が待つ居間に入って来た。お盆の上の茶菓子は見るからに高級そうであり、ボロアパートの一室には少し不釣合いの様に見える。見渡す限り泉の部屋は女子らしさの欠片も無く――あまりに素気(そっけ)ない。生活に必要であろう家具が置いてあるだけで――飾る物が一切ない。

 ただ、泉の冷たそうな性格でファンシーグッズを集めているとなればギャップ萌えも良い所である。


「どうでしたか?」

「今回、組織も自体を重く見て、圭君の事を慎重に扱う事に決まりました。殺せと命令が下る事は無いでしょう」

「そうですか」


 ホッとする佐藤であったが、目の前の女は命令が下った途端に自分を殺そうとした張本人だと言う事をすでに忘れていた。それは単純に佐藤が泉との約束を信じているからなのかもしれないが。

それを長所と断じられる事でもない。


「ただ、全ての約束を守る事は叶いませんでした……圭君を普通の日常に戻す事は恐らく不可能になります。誓った手前にお恥ずかしい限りでございます。どんな責め苦も受け入れます。何なりと」


 お盆からお茶と茶菓子を卓袱台(ちゃぶだい)の上に移動させながら簡単に要約した結果を伝える。


「いや、何なりとって……いいですよ別に。この子が何者なのか知りませんけど、普通の一般人が知っていたらいけないような事なんですよね? 俺が聞きたいって言っているんですから気にしませんよ」

「……本当に良い人なのですね圭君は」


 同じ言葉を他の誰かからも聞いた覚えがした。


「それは都合の良い人という意味ですか?」

「?」


 キョトンとした顔をする泉。あのお調子者とは違うようだと、佐藤は沢田が自分を心配していないか少

し気になった。


「そういえば、携帯電話を返して貰えますか」


 乗車前に沢田に入れた連絡の返事を確認がしたい佐藤。


「もちろんです、どうぞ」


 泉は佐藤から一度回収した携帯をポケットから取り出す。


「一応、注意して置きますが、私達の事などを他言しないようにお願いします。組織は圭君の安全は保障しても、お友達の安全は保障出来ません。申し訳ありませんが」


 そう前置きをし、携帯を佐藤に差し出した。


「分かってますよ」


 実際に殺されかけている身としてそれが脅しでも何でも無い事を佐藤は理解していた。

 携帯の電源を点けると沢田からの返信が一件――『わかった!』のみ。


「あのクソ眼鏡……」


 らしいと言えばらしい返信ではある。確かに心痛で苦しむようなたまではないが、もっと何か心配の一言くらいあるものではないだろうか。

 今、お前の念願の未知の存在や異能力者に謎の秘密組織を目の前にしているんだ、ざまあみろ! ――と心の中で佐藤は叫ぶのであった。


「どうされました?」

「いや、親友って何かを考えていました」

「随分唐突に哲学的な事を考えてますね。悲しくならないですか?」

「当然に悲しいので聞かないでください……」

「親友ですか。生まれ落ちて今日まで友達がいない私には何とも縁遠い話ですね」

「突然に俺より悲しい話をサラッと言わないでください……」

「それは何でしょう? 『何を言ってんだ俺達はもう友達だろう?』……的なあれですかね?」

「違います」

「ハッキリ言いますね」

「どうしたら自分を殺そうとした人と友情をと思えるんですか」


 一応は根に持ってはいるようであった。


「その件をその程度に突っ込んでいる圭君のメンタルも異常ですよね」


 その通りではある。


「アナタがそれを言ったら駄目ですよね?」


 その通りでもある。


「では私達の関係って何なのでしょうか?」

「それは――今すぐ決めるものでも、決まるものでもないんじゃないですか?」

「……ふむ。まあ、それもそうですね」

「本題に入りましょうよ。アナタ達とこの子について隠さないで教えてください」


 金髪の少女と出会い、泉と出会ったその時から佐藤の前に――非日常への扉は既に開き始めていた。しかしそれはまだ、扉の隙間から世界を覗いているだけの状態である。


「圭君、私が今までの明かした秘密は――云わばお試しです。序の口も序の口、プロローグでチュートリアルのような物です。しかし、それの正体を知る事は世界の真理を知る事と同義です。今更で無粋な言葉かもしれませんが――心してください」


 真理。日本には珍しい綺麗な金髪と言う事を除けば普通の少女が持つ秘密。


「私達は。今圭君が抱えているそれの事を――魔族と呼んでいます」


 少し前に聞いた言葉だ。


「魔法を扱う種族だから魔族です。人間と同じ姿をしていますが全く別の存在と言っていいでしょう」

「じゃあテレパシーを使うアナタも魔族という事ですか?」

「いえ、私は魔族ではありません。かと言って人間とも呼べませんね。そうですね――人間擬(にんげんもど)き、と、言うのがしっくりきます」

「人間擬き……」


 どこか自嘲的な言葉だ。


「私の魔力の量がコップ一杯分の水だとすれば……魔族の一体の魔力の量は――海に匹敵します」

「海ってあの海ですか?」

「英語で言えばシーです。フランス語だとマーです。ドイツ語はゼー。中国語では……」

「別に知っている外国後を羅列して教えてくれなくても結構です。英語で十分理解出来てますから。あとフランス語だとマーじゃなくてメールですよ」

「おー流石、現役の大学生ですね」

「いや偶然知っていただけですよ。それにしてもまた、海って……」

「既に車で話しましたが魔力の量を測ると言う事は出来ませんので実際の所は解りませんが――誇張した表現だとも思いません」

「で、でも海とコップって」


 昔、宇宙の広さと人間の小ささを比べて厨二病を辞めた佐藤ではないが、コップ一杯の水と海の量の差も比べる事が馬鹿らしくなる点に於いて同じようなものである。


「私の魔力で出来る事はテレパシーくらいです、少し心が読める劣化版の携帯電話が関の山です」

「十分凄いですけどね」


 心が読める事が主に


「そうですね、もっと分かり易い例えをしましょうか。私が携帯電話だとしたら、魔族はアラレちゃんだと考えて貰えればいいかと」

「あのギャグ漫画のアンドロイドの事ですか?」

「んっちゃ」

「クピポー……」

「とは言え全く面白い例えではないのですが。それは、魔族はギャグでも何でもなく――地球を破壊する事が可能なのですから」


 ――本当に笑えない冗談なのでよ。と泉は付け加えるのだった。


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