エインパート2 手よりも温かい
エインから雄の魔族擬きの手が離れた。エインが見下ろす位置で彼は後頭部を抑えて身悶えている。手が離れた時、エインの恐怖は膨れ上がる。
見た事ない生物の中に入って移動している時に一瞬だけ彼の手が離れた時にも押し寄せて来た途方もない不安。どこかに行ってしまうの。私の側にいて。手を離さないで。
その時は直ぐに、彼の手はエインの手元に帰って来た。
しかし、今はどうだ。
足元で彼が痛がっている。頭を押えて手は差し伸べてくれない。温かなあの手を握る事ができない。
「―――。―――」
雌の魔族擬きが何か黒い物を彼に向けている。それがエインには何かは分からない。
彼女が指に力を入れるとほぼ同時に轟音が響くと、エインは無意識に、雄の魔族擬きの前に飛び出していた。
そして飛び出した先でエインの額に何か硬い物がヒットした。威力はあるようで、エインの額は少しヒリヒリする。
「―――――!」
痛みで蹲っていたはずの雄の魔族が叫びながらエインに飛びついた。
勢い余ってそのまま倒れ、雄の魔族擬きに抱きかかえられる形になる。
手だけではない。体中に彼の温もりを感じる事が出来た。
エインは自分の手を彼の背中に回し彼が今自分にしている事と同じように抱きしめる。これだ。
落ち着く。
これが一番温かい。
恐怖も不安も全て消える。
エインは雄の魔族擬きの胸に顔を当て
安心した様子で眠りに落ちた。
読んで頂きありがとうございます。
明日も21時から投稿する予定です!
話の区切りの都合上、今回の投稿はかなり短い話になってしまった事をお詫びします。
年末休みに入ったので余裕が出来れば二話以上を一日に投稿したいと思っています。
感想お待ちしております! それでは!