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1-I エピローグ
「ねえ……あのね」
相手は振り向いた。
不思議そうに私を見つめる。
「誰にも……言わないでほしいんだけど」
私は、笑った。
彼に焦点は合わせなかった。
「誰にも、言ったことないから」
彼は了承した。
私は、少し俯いた。
足元から伸びる影を眺めた。
長い沈黙が流れる。
それでも彼は、待ってくれた。
「あのね——」
顔を上げ、彼と目を合わせた。
「——人が『泣く』意味が、わかんないんだ」
私は
いつもと変わらず
目の前に立つ人間に
“満面の笑み”を見せつけた。