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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY8]偽物だって這い上がれ
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8-G 次回! フィアレス、晴天は続く!

五秒でわかる前回のあらすじ

「誰ェェ⁉︎ ドカーン! ズドーン! ピギャァァァァ!」


「——おはようみんな!」


 私はみんなに手を振って駆け寄る。

 真っ先に返事をしたのはすぐるだった。


「おっす。調子はどうだ」

「えへへ、ばっちりだよ!」

「そりゃよかった。なあ、みろ! これ俺が被るんだぜ!」


 彼は歯茎を見せて目を輝かせた。彼の手には、顔の形にくり抜かれたカボチャの被り物があった。


「ええっ、ハロウィンじゃあるまいし」

「いやいや、ジャックオーランタンに季節なんてねぇよ」

「いやあるわ! カボチャの旬を考えろ!」

「夏だろ?」

「秋じゃ! って、まさかスイカと間違えてない?」


 説明しよう。今日は文化祭当日だ。他の生徒たちは皆、出し物の準備を行なっている。お菓子売り場から、ふわっと甘い香りが私たちを通り過ぎた。


 あのアルカディア騒ぎについては、みんなの記憶を改ざんし、関城さんの家もエルたちの魔法で修復したため、すべて元通りになった。あれっきりアルカディアもジザさんも現れない。警戒しながらいたら、いつの間にかたくさん時間が経ってしまった。


「まあいいや、当日までにちゃんと衣装できてほんとによかったね!」

「ああ……そうだな」


 すぐるが頷くと、その影からひょこっと百合ちゃんが出てくる。


「……まあ、ちょっとは関城のおかげ……っぽい」

「ああ! そうだね! 関城さんの広いお家がなかったら、みんなで作業できなかったもんね!」


 そう言いながら、私は廊下を見渡す。みんな最終調整で忙しそうだ。人の塊の中に、金髪の女性を探したが、全く見当たらない。お礼を言いたかったのだが、残念だ。


『マイクテス、マイクテス……あれ、聞こえてる?』

『おーい! 全然音出てないぞー!』


 うちのクラスから、無線機を試す声が聞こえてきた。今回のお化け屋敷で、お化け役の人たちに連絡するために使用するのだそうだ。確か、あれも関城さんの私物らしい。あの人、なんでも持ってるな。


「……ちょっと貸して」


 そこに手を出したのは、藤色の猫っ毛が目立つパーカーを着た少年だった。

 鬱穂くんである。ちなみに今日は私服を着ていい日なのだ。彼が自主的に手助けするとは珍しい。私たちはついその光景を盗み見てしまった。


「……これ、たぶんこれ押しながら喋る」

『え、ほんとだ聞こえた!』

『鬱穂! お前すげーな!』


 彼は友達に、バンバン、と背中を叩かれ少し驚いた。それに日頃あまり関わりのない人からの賞賛に触れ、少し照れくさそうにしているのが遠目からもわかる。


「……やるじゃん鬱穂!」

「鬱穂くん、今のでヒーローだね!」

「…………」


 私たちは、なぜか柱の影に隠れていた。まるで警戒心の強い動物でも観察しているようである。


「——ええと、みなさん何をどうすればそうなりますの?」


 突然、後ろから声がかかった。そこにいたのは、煌びやかなワンピースを身に纏った関城さんがいた。


「ああっ! おはよう関城さんと……あっ」


 私は言葉を詰まらせてしまった。彼女は一人だったのだ。

 そう、いつもなら後ろにナチちゃんがいた。しかし、この前の関城家での事件が起きてから、ナチちゃんが学校に来ることはなかったのだ。

 私以外の周りの人は、ナチちゃんは元からいなかったという記憶に書き換えられている。それはエルからも聞いたし、私も今までその通りに会話をしていたはずだったが、ついボロが出てしまった。


「どうしまして? 白雨さん」


 ちなみに、ナチちゃんは、あれから何日も経ったのになかなか目を覚まさないそうだ。救護所というところで療養しており、私は入ってはいけないらしいので、マニさんに聞かないと様子はわからない。少し心配だが、天使軍人たちがそばにいるなら安心していいはずだ。


「ああ、いや! 今日はセ、セラさんと一緒なのかなって思っちゃってて」


 すると、彼女は急に、廊下中に響き渡る音色で高笑いを始めた。そして、指先まで洗練された仕草で私に手のひらを差し出す。


「オーッホッホッホ! 面白いですわ白雨さん! 確かにセラはうちの使用人。しかし考えておくんなまし! 今は文化祭準備中ですの」

「え? うん……」

「準備中は部外者立ち入り禁止。そしてセラは部外者ですわ〜! オーッホッホッホ!」

「なんでそれだけでそんなに笑えるんだ」


 ツッコミを入れようと思ったが、すぐるの方が速かった。関城さんは車椅子のタイヤを片方だけ回して、器用に自転する。


「……ふぅ」


 彼女がひとしきり高笑いしたあと、小さくため息をついたのがわかった。

 なにか物足りないと言わんばかりの、寂しそうな目だった。


 なにか声をかけなければ。そう思った時だった。

 階段の下から元気いっぱいの声が、廊下に響いた。


「——関城サマー!」


 余った袖をブンブンと振り回して駆け寄ってくるのは、銀髪ツインテールの女の子——伏見那智の姿だった。


「…………⁉︎ ナチちゃ、あれ……⁉︎」


 困惑しすぎて最後まで声が出なかった。なぜ彼女がここに? 目が覚めたのか? マニさんが許した? それとも脱走? アルカディアを離していいのか? 疑問がぐるぐると回って、余計にわからなくなってくる。


「…………」

「……関城サマ?」


 関城さんは、ナチちゃんを見てからぽかんと口を開けていた。

 ——ま、まさか。記憶が改変されてるから、ナチちゃんのことを覚えてないのでは……⁉︎ それを今のナチちゃんが知ったら……!

 私はいたたまれなくなって、何か言おうと懸命に頭を働かせる。


「え、えっと……あの、関城さ」

「……ふしみ、さん……?」


「——伏見さんですわ! 伏見さんなのね⁉︎」


 突然、関城さんがナチちゃんの腕を掴んで跳ね上げた。


「伏見さん……! なんで、どこに行っていましたの⁉︎ (わたくし)、ずっとあなたを探して……」

「関城サマ……!」


 彼女は上品に目を覆い、嗚咽を漏らした。そして、目の前の待ち人に手を広げた。相手はもちろん、それに応えた。


「ああ、伏見さん……!」

「えへへ、関城サマ、遅くなってごめんなのだ」


 どういうことだ? 私は頭を再びフル回転させる。

 おそらくだが、魔法で改ざんされたとは言え、忘れた人が大好きな人なのであれば、目の前にやって来られれば記憶が戻るのだろう。

 なるほど、つまり彼女たちはハッピーエンドを迎えたというわけだな。


「……ところでナチちゃん。なんでここにこられたの?」


 私は、彼女らの隙を見て、小声で質問する。


「ああ、天使軍とボスに確認したら『学校は行っていいよ』って言われたのだ」

「ボス軽くね? てかどうやって連絡とったの?」

「ワタシのエフェークオスで繋がるのだ」


 いや万能だなエフェークオス。それにしても、あれだけ暴れさせておいて仲間を放置するとは何を考えているんだ、あのボスとかいう黒ローブ野郎は。


「あと、『天使軍に秘密を漏らさないように』っていうことで、アルカディアも追い出されなかったのだ」


 ええ……ってことは、一応ナチちゃんはまだアルカディアのままなのか……? でも敵対してるわけじゃなさそうだし、うーん……


「ま、まだあんまり納得がいかないんだけど……」

「もう少ししたらきっと慣れるのだ」

「慣れるとかの話かなぁ……」


 私は腕を組んで、首を傾げながら、とりあえず笑っておいた。


「……ああ、そうだ伏見さん」


 すると、関城さんがナチちゃんに手招きをする。


「なんなのだ?」

「伏見さんにぜひ見てもらいたいものがあったの」


 関城さんは胸を張って、手をそこに沿わせる。


「私の車椅子って、いつも階段を登るのが難しいでしょう?」

「確かに! 後ろ向きに引っ張らないと上がれないのだ!」

「そうですのよ。そこで! 私が自分自身で昇り降りができるように、父上に改造を施していただいたのですわ!」

「え⁉︎ 改造⁉︎」


 ナチちゃんは両手を振り回して、細い目の奥をキラキラかがやかせた。残された私たちも、なんだなんだと関城さんを見る。

 彼女は車椅子の肘掛けにつけられた、一つのボタンを押した。


 ——ゴゴゴゴゴゴゴ……


 すると、関城さんの目線が、どんどんと高くなって行く。さらに車椅子の中から、なにやら細長い金属が出てきたのだ。


「え……ええええええええ⁉︎」


 最終的に見えたそれは、蜘蛛のような節のある足がついた、いわゆる操縦型ロボットであった。


「——オーッホッホッホッホッホッホッホ‼︎ これぞ関城家最新技術、スパイダーセキジョウ1号ですわー!」

「うわーい! かっこいいのだー!」

「ご覧になって! 私こんなに動けますのよ〜!オーッホッホッホ、オーッ↑ホッホッホッホッホッホッホ〜! ……」


 ドタバタと音を鳴らし、巨大な蜘蛛マシンは廊下を渡り、軽快に階段を降りて行ってしまった。操縦者の声もだんだん聞こえなくなっていき、彼女らがもう遠くまで行ってしまったのがわかった。が、まだロボットが歩行する振動はこちらまで伝わってくる。


「……ああ、えっと……楽しくなりそうだな!」

「そ、そうだね! ——ああ、もうこうなりゃヤケだ! 今日はめちゃくちゃ楽しんでやるぜー!」

「おー! って、さっきは悩みでもあったのか……?」


 優しい風が頬を撫でる、且、てんやわんやで騒がしい日常。これが、誰のものでもない、私たちの青春なのであった。

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