8-F 閉幕! 渇望屈指のファンファーレ!
五秒でわかる前回のあらすじ
「一件落着御用心」
「——『ジザ』⁉︎ ジザって、もしかして……!」
その名前に聞き覚えがある。確か、その人は……
「私たちの……今まではぐれていた、仲間です」
マニさんが、ぼつりと小声で話した。
ここで、ビビビ、となにかが耳元で鳴った。驚いて振り向くと、そこには蜘蛛の形のロボットが、プロペラを回して飛んでいた。
『それは間違いなくジザだ。 生体認証スキャンからの情報は一貫している。』
「うわ、すげえ……! なんか喋ってる……!」
私はソレイルさんの言葉よりも、その後ろですぐるや関城さんが小声でひそひそしているのが気になってしまった。たしかにすぐるみたいな男子、こういうの好きそうだもんな……
「ジザ——」
「ジザさん——」
一方、天使軍の二人とも声が沈んでしまう。あの人があちら側にいて、発砲もしてきた。このことは、彼が“アルカディア”であることを証明してしまったのだ。
当人と関係の近い彼らは、よほどショックだったのだろう。空気が重くなるのも無理もな——
「——やっぱり私の言った通りでした! 賭けは私の勝ちですね!」
「なぁに? 『ジザがアルカディア側に行ってる』って言ったのは僕の方だよ」
『……二人とも、その話はやめるべき。』
…………え?
「ちょっと! エルさんは後出しだったじゃないですか!」
「ええ〜、今回は一段と意地っ張りだなぁ」
「当たり前です! 朝食のおかわりが賭かってるんですから!」
「マニ、そういうの日本語で『食い意地が張ってる』って言うんだよ」
「まあ! どっちがですか!」
『…………手に負えない。』
ぽかんとする私やすぐるたち、ジザさんを置いて、彼らはやいのやいのと口論を始めてしまった。ソレイルさんも、この様子だと仲裁を放棄してしまったようだ。
賭けとは……? もしかして、『ジザさんの生存予想』について、こいつら賭けをしてたのか……⁉︎ 心臓に毛生えすぎだろ! しかも剛毛じゃないか!
「……おい! 何がなんだか知らねェがオレの話を聞け!」
あ、なんか怒られてる。
その一喝で、二人はやっと静まり返った。が、その顔はもう少しで決着で着いたのに邪魔をするな、などと言いたそうな不満げなものだった。
——ゴゴゴゴゴゴゴッ
突如、地響きが私たちを襲う。
「な、なんだぁ⁉︎」
「——ああ、結界がなくなったんだね」
辺りを見回し、落ち着いたトーンでエルはそう言った。
「ナイチンゲールが眠ったからね、弱い結界が消えて、それで支えてたこの家が崩れてきてるんだよ」
エルは振り返って、私に微笑を向けた。
「え、てことは、今まではナチちゃんが家を支えてたって事?」
「たぶん、グラウミュースが壁を割ったあたりで察して張ったんだろうね。さて、早くここから出ないと、もれなくみんなペシャンコだよ」
「そんな物騒なことニッコニコ顔で言わないでくれる⁉︎」
後光が指すような笑顔で、彼はこちらを守るように手を広げる。
地響きは続き、天井から破片がバラバラと落ちてくる。それを少しの間眺めたジザさんは、鉄骨の上で肩をすくめる。
「……あーあ、邪魔が入っちまった。じゃあな。お前らとはまた会える……ああそうだ、おい、ちびっ子!」
急に、私に指を差してきた。
また銃弾が飛んでくるかと身構える私の前で、エルも再び振り返って剣を横に出す。不覚にも、その大きな背中に少し安堵を感じた。
「——次は兄ちゃん無しで避けられるようにしておけよ。当てにいくからな」
彼ははじめと同じように、不敵な笑みを浮かべた。そして腰部に手をやると、彼の横に黒い穴が開いていく。ジザさんは当たり前のようにそこへ入っていき、姿を消してしまった。
「ああもう! また厄介事が増えました! ……が、とにかく今はここから出ましょう!」
マニさんは、関城家の玄関を指差す。さっきのハイジュウが開けた穴から、そこはよく見える。確かに、ここまで内部が破壊されていたら、普通に考えて家はすぐ崩れてしまうはずだ。ナチちゃんが魔法を使っていたことに納得がいく。
「すぐる、おれ、もう歩けるし走れる」
「ほんとか?」
「うん、なんか平気になってきた」
鬱穂くんが、すぐるに地面を踏む仕草をして見せる。その後お互いにサムズアップをしあってニヤッとした……よくわからないが、こんな状況でしょうもないことで楽しめるの、強いなこいつら。
すぐるは鬱穂くんから離れると、今度は百合ちゃんを背負いだした。
「そ、そうだ、私もナチちゃんを」
ナチちゃんを私がおぶり、関城さんをセラさんが車椅子で押し、鬱穂くんは自分で走ることになる。よし、これで誰も置いて行くことがない。
私たちは出口へと走り出す。
「よし、全員撤収——」
——ズガン!
玄関付近に、かなり大きな瓦礫が落ち、道を塞がれる。
「うおーい! いい加減撤収させろーい!」
私たちはとりあえず前に走り続ける。だが、このままでは外へ出ることはできない。
「任せて! 僕は先に行く!」
エルがそれだけ言って、地面を強く蹴る。風の如く瓦礫の前へ到着した彼は、片足を踏み締めて、拳を振りかぶった。
——ドゴォォォォン!
瞬間、瓦礫が飛ぶようにして穴が空いた。
そのひと殴りで粉々になった瓦礫は、バラバラと崩れ落ちて、私たちの道を開ける。
「さあ、みんな急いで!」
何事もなかったように、エルはこちらに振り向いて手を振る。
「……すげぇ……」
「なんですのあの方……もしかして腕が呪われてでもいますの……?」
「いえ、平常運転です……」
すぐるや関城さんに目を丸くされたマニさんが、肩を落として苦笑いを浮かべた。
こうして私たちは、エルのすさまじい怪力のおかげで、無事関城家から脱出するのだった。




