8-D 因縁! 満員御礼アンコール!
五秒でわかる前回のあらすじ
「ドゥワァ!! ナイチンゲールゥ!!」
「アレ……なんですの……?」
関城さんが震えた声で私たちに問う。
私は首を振る前に、彼女の前を守るようにして立ち、槍を強く構える。
「わからない……けど、ちょっとまずいかも」
相手は銀色の鱗を見に纏い、左手の義手はアームガンは、今までのものと見た目が変化している。片目には赤く光る電子機器のようなものが貼り付けられており、その奥が見えない。
“彼女は、ハイジュウになってしまった”。それをみれば、断言できてしまう悪夢だった。
「アルカさん!」
友人の変貌に怯む私へ、マニさんが喝を入れる。
「来ますッ——戦闘用意!」
彼女が叫んだ直後、ナイチンゲールがこちらへ飛びかかってきた。
すぐさまマニさんが地を蹴る。アームガンを構えたナチちゃんに急接近し、その刃で叩かんと鎌を振るった。
——ガキィィン!
光線を打つはずの腕は、攻撃を防ぐのに使われた。金属音が鳴り響く。双方共に距離を取る。
『それじゃ、お掃除は頼んだよ。天使軍の諸君』
迫真の場面でそれだけ呟くと、黒いローブの男の周りから、黒い煙が上がる。
「させるかっ!」
私は、関城さんを下ろし、今までの怒りをぶつけるように、槍を刺した——が、槍先は空を切った。
「はぁっ⁉︎」
「アルカさん! それ映像です!」
マニさんが、こちらを見ずにそう言い放った。
映像……? たしかに、今も槍が刺さった感触がない。でも、さっきはたしかにここにいたはずだ。
「ホログラムです! さっき床に映写機が転がっているのを見ました! それよりもアルカさんはセキジョウさんを!」
右手をバッと広げて、こちらに合図を送る。先ほど言われた通りに床を見れば、確かに球体の電子機械が落ちていた。
これが映写機なのかな……? ホログラムとはたしか、映像を立体的に見せる技術のことだったような。と言うことは、この丸いのから映像と音声が流れていて、私たちはそれと話していたことになるな。なるほど、やっと状況が理解できた。私は急いで踵を返す。
「任せて! よし、関城さ……ん……」
私は槍を握り直した。
いつのまにか、ナチちゃんはマニさんの軌道を抜けて、関城さんの後ろで羽を広げていた。
——まずい。
「ナチちゃん! ストップぅぅぅぅ!」
私が叫んでも、彼女は心なく友人に銃口を突きつけてしまった。
このままだと確実に弾は関城さんに当てられる。でも、私の武器は槍。魔法弾を跳ね除けるには不利な形状だ。
しかしこのままではいられない。足は考えるより先に前へ出ていた。
——ガンッ
直後、金属が砕ける音がした。私の槍はまだ届かなかったはずだが、ナチちゃんの肩が押されるようにして前に出た。
彼女の背後を確認する。そのもっともっと奥の方で、何者かが狙撃銃を構えている姿があった。
「エ、エル⁉︎」
——ダンッ! ダンッ! ダンッ!
彼は重い銃弾を三発入れる。衝撃が大きかったのだろうか、相手は空中で縦に一回転してしまう。着地は成功していたが、体の節々に破損が見られた。
エルって……ライフルも使えたんだ!
『ガッ……ガガガッ……』
ハイジュウは苦しそうな声を挙げる。不自由な可動域で立ち上がると、金属に侵食された翼を広げた。
——バサッ!
「うげ! めっちゃ速い!」
彼女は私たちの前で急上昇したのだ。それも目にも止まらぬ速さで、それでいて、その目線の先にはエルがいた。
「そ、そうか! 銃弾が当たったから、エルが敵だって認知されたんだ……!」
「恐らくそのようです! しかし、あちらには多くの人間が……! ここは任せてください!」
マニさんは鎌を手前から後ろへ、翼を大きく動かして急発進する。
——ヒュンッ! ヒュンッ! ガツンッ!
またしてもエルの銃が三発発射した。ナチちゃんの飛行速度はかなり速く、二発分は回避されてしまったが、最後の一撃が左腕に命中した。衝撃によって速度が落ちたところで、マニさんが彼女の足を掴みとった。
——ドサァッ!
開放運動連鎖が突然に遮断されたため、彼女は無様に顔から床に叩きつけられる。それをマニさんは手繰るように引き寄せ、片手を相手の脚に絡ませると共に、もう片手で背部を押さえつけた。
『ガッ……アァァッ!』
「落ち着きなさい! これ以上足掻いても苦しむだけですよ!」
説教は届かず、相手はバタバタと床の上でのたうち回り、拘束から逃れようとしている。
そこにキラリ、と何かが日光に反射した。
よく見ると、エルが撃った左手に破損があり、その中が少し見えているようだ。何かの塊だ。光を反射する素材で、おそらくあれは緑色で——
「——核⁉︎」
気づいた時には、私はマニさんに叫んでいた。
「核だ! 核があるよ! ナチちゃんの! 左腕‼︎」
それを聞くと、彼女はハッとそれを確認する。彼女が掴んでいたのは右手だったため、左手は床で暴れたままだった。ナチちゃんは、どうやらマニさんに銃弾を当てようと、左手の行き先を迷っていたようだ。銃口が光るのを確認すると、マニさんはそれを掴みにかかる。案の定魔弾が発射され、上に向かって飛んでいってしまう。
その反動か、マニさんの体勢が崩れる。その隙にナチちゃんの細い腕はするりと抜け、彼女は再び自由を手に入れた。
途端、左手がガトリングガンに変形する。
——ガガガガガガッ!
魔弾がマニさんに向かって放たれる。一方相手は、鎌で器用に魔弾を切り裂いていく。
「——ナチちゃん! 油断したな!」
私は槍を振るった。今のナチちゃんは機械的に標的を判断するようだ。主に目の前の敵、攻撃を仕掛けてきた敵を優先して攻撃するらしい。
マニさんが攻撃するのを見越して、私はその背後に回って隙をつくことにしたのだ。
——ガシャン!
私のスイングは見事に命中する。背中に入れた打撃を、次は上から下へ振るい、地面に叩き落とそうとする。
『ウガァッ!』
ただし、威力が足りなかったらしい。彼女は翼を使って空中で受け身を取り、ガトリングガンをこちらに向ける。
彼女の撃つ弾から、体を捻って逃れる。
——バンッ
しまった。最後の一弾が、私の翼の骨に当たってしまった。反動で体制を崩す私に、彼女は追い討ちをかけようと腕を構える。
「——伏見さん!」
その時、叫んだのは彼女の親友だった。
「いい加減にしないと、今日のあんまんは抜きですわ‼︎」
ピクリ。
ナチちゃんの動きが、一瞬だけ止まった。
「——よし!」
私はその隙に飛び込むようにして、彼女の腕を掴む。ヒビが入り欠けた、冷たい義手から覗く、息をするように点滅するそれを、私はついに手に取ることができた。
「これで終わりだ! ナチちゃん!」
私は彼女の身体を押さえつけながら、目一杯息を吸う。
「『インパロールミシィ』!」
私の指の隙間から、緑色の光が漏れてくる。
目も開けられないほど眩しい光にやられようとも、歯を食いしばって耐える中、その核の持ち主が、少しだけ笑ったように見えた。




