8-A 無用⁉︎ 浄霊マニマニパニック!
五秒でわかる前章のあらすじ
「全員撤退いそがば守れ」
「マニさん!」
私が呼ぶと、大鎌を背負った女性はコバルトブルーの髪をなびかせて振り向いた。
近づくために、私はバサバサと羽を動かす。マニさんはいつもよりキリッとした顔で私を見た。
「アルカさん! 来ていただきありがとうございます!」
早速なのですが、と彼女はハイジュウに指を差す。
「あのハイジュウの核は、喉の奥にあるようです」
「喉の奥?」
「はい、大きく口を開けた時、運が良ければ目視で確認できます」
彼女がそう言った時、ハイジュウは尻尾からこちらに向かって光線を放った。
マニさんはひらりと身をかわし、次には何事もなかったように話し続ける。
「アルカさん、私がハイジュウの口を開けさせます。アルカさんはタイミングを見計らって、インパロールミシィを撃ってください」
「待って⁉︎ 何今の攻撃⁉︎ 初めてみたんだけどなんでそんな冷静なの⁉︎」
尻尾からビームとか斬新だろ! なんで描写しなかったんだよ!
腕を上下にワタワタさせる私をよそに、マニさんは、いいですか、と指を立てる。
「もう一度言います。インパロールミシィ、ゾーニの方のですよ」
「ゾーニ……だから、『シネストメイト』って唱えるやつだよね?」
「はい、ハイジュウの口が開いたら、それをお願いしますね」
「どうやって開けさせるの?」
「え? えっと、こう……うーんと……とにかく開けさせるので、お願いします!」
「天使軍って説明下手なの?」
そうこうしているうちに、ハイジュウが姿勢を保ちだした。
「こうなったら誰彼構わず撃ちまくるのだ! ワーッハッハーッ! 愉快爽快大草原! なーのだー!」
ナチちゃんは両手を腕から元気よく挙げ、バンッとハイジュウの背中を叩いた。
すると、グラウミュースが雄叫びをあげる。鉄の鱗をまとった尻尾がこちらに銃口を向け、光線を放った。
「アルカさん、下がって!」
マニさんは私の肩を軽く押し、前に移動した。
白い翼を器用に使い、重心を操る。彼女の身体より大きな鎌を、軽々と振り回した。
——ガキィィィィンッ!
鎌の後ろ側、つまりハンマー状の部分が、ハイジュウの放った光線と衝突した。
マニさんはそれを重そうに、グググッと押し上げていく。光はそれに負けじと吹き荒れる。青い髪が一瞬大きく暴れた刹那、バチンと弾けてその光は消えてしまった。
「す、すごい……」
「ぐ、ぐううう……っ! 悔しいぃぃっ! ハイジュウ、もう一発なのだ!」
ナチちゃんは地団駄を踏むように、ハイジュウに乗ったままその首をバシバシ叩く。ハイジュウは相変わらず暴れているものの、尻尾の銃口を整えようとしているのが見えた。
また来る、私がそう思った瞬間、隣にいたマニさんが急降下した。
「——そこですっ!」
彼女は鎌の柄を長く持ち、大きく回転した。そして、鎌の刃はハイジュウの右足に直撃。ハイジュウは重心を崩した。
——ビュオンッ
風が鳴いた。マニさんが、ものすごいスピードでまたハイジュウの頭部まで上昇してきたのだ。白い翼を左右に大きく広げ、彼女は悲鳴を上げるハイジュウの口へ——大鎌を投げ飛ばした。
刃を中心として回る鎌は、真っ直ぐにネズミの口へダイブしていく。
——ガキンッ! ギリギリギリギリッ…………
「わ、わぁお……」
なんと大鎌の全身が、縦にピッタリ、ハイジュウの口につっかえたではないか。
相手も何故か閉まらない口に違和感を覚えたのか、その場で顔をキョロキョロ動かし始める。
「今です、アルカさん!」
「はっ、そうだった! いかん、見惚れて忘れるところだった!」
何してるんですか、とマニさんに呆れられてしまう。私は両手でほっぺたを叩き、自分に喝を入れた。
「よっしゃ! カモンマイスピアー!」
私が指パッチンをすると、手元に光の棒が浮かび上がる。それを掴み取れば、金色の槍が姿を現す。
それを振り回し、先をハイジュウに向ける。そして空中に魔法陣を描けば——
——あれ?
「ど、どうしましたかアルカさん⁉︎」
「え、えっと、どうやって描くんだっけ……」
「えええ⁉︎ ド忘れしちゃったんですか⁉︎」
こんな肝心な時に、全くと言っていいほど答えが出てこない。
これまでにゾーニは何度か撃つ特訓はしてきた。魔法陣を破るときに足を踏ん張るとか、気絶する前に力を入れとくとか、色々覚えてきたはずだが——
そういえば、魔法陣自体の練習はわりとしてなかったかも知れない……ド忘れの原因はそれか。
「ごめんなさい! ど、どうしよう! えっと、こうだったかな……あれ、ちがう……」
なんとかしようとがむしゃらに図形を描いてみる。しかし、槍の先に出る光の弧は何ごともなく消えていく。
「もう、まったく!」
マニさんが私の背中に回り込み、私の腕を掴んだ。
「慌ててはいけません。まずは深呼吸して、目標物を見つめて落ち着いてください」
彼女は手を私の肘から下部に滑らせ、手の上から細い槍をキュッと握る。
「アルカさん、今どんな気持ちですか? 少し考えて整理しましょう」
「私が、どんな気持ちなのか……」
言われるがまま、私は自分の心を覗き込んだ。
そこにあるのは……もどかしさだった。
思っても見なかった人、それも友達がアルカディアだったなんて。私は逃げられない。後ろには百合ちゃんやすぐるまでいる。ここは私がやらなければいけないのだ。
……でも、失敗してしまったらと思うと、冷や汗が噴き出してくる。こんな感情初めてだ。
「アルカさん。大丈夫です。今回は私がいます」
「……マニさん、心でも読んだ?」
「いいえ、だって手が震えていますもの」
誰でもわかりますよ、とマニさんは私を抱きしめ、頭を撫でてくれた。
「よしよし、いい子です。いくら失敗してもいいですよ。私が何度でも鎌を投げますから」
彼女の温もりを実感すると、自然と槍先が滑っていく。
上、下、左、右。繋がった光の線は高速回転し、文字を浮かべた。
「……よし。これで」
「上手ですね。では、私はこれで」
ふわりとマニさんの手が離された体は、その魔法陣に突き立てるため、槍を振るった。
「『シネストメイト』……ありがとうの気持ちで『インパロー・ルミシィ』!」
光の図形は、鋭角な武器によって破壊された。それと共に槍の先がぱかりと開き、中の緋玉が光線を放った。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
後頭部で束ねたポニーテールが逆風に靡く。
マニさんの鎌でつっかえたハイジュウの口の中へ、魔法が飛び込んでいく。
——パキンッと、なにかが当たる感触があった。
「これが、核……か?」
魔法の衝撃越しに、かすかな鼓動を感じる気がする。なるほど、たしかに、今までの核もドクンドクンやっていたのを覚えている。
「っぐ……! ぐおらあぁっしゃあぁぁ‼︎」
確信と共に、槍を前へ前へと押し込む。
バキン、と手の中で割れたそれは、ハイジュウの悲鳴となって崩れ落ちた。




