7-F 解錠! キミと私と、心の扉!
五秒でわかる前回のあらすじ
「大混乱のオルゴール」
最初に口を開いたのは、すぐるだった。
「お前がが言うならそうなんだろうよ。セラさん、アルカはこんな所で嘘をつくような人間じゃない。信じてやってくれないか」
すぐるは軽くジャンプし、鬱穂くんの腕を背負い直して重心を整えた。人一人抱えてきた割には、彼の足取りはしっかりしているようだ。
「すぐる……!」
「そ、そうかぁ。じゃあ、そうさせてもらうわ」
どこか納得できないような顔で、セラさんは頷いた。
それよりも、すぐるが問答無用で信じてくれたのが、なんだかとても嬉しかった。
「……状況は、なんとなくわかりましたわ」
しばらく静かにしていたはずの関城さんが、車椅子の中で声を上げた。綺麗なローズピンクのドレスに手を重ね置き、こちらを見上げる。
「でも……白雨さん、教えてほしいですわ。ナチはなぜあんなことになっていますの?」
彼女は怪訝な顔でこちらを見上げた。
「そ、それは——」
答えづらい。関城さんとナチちゃんは四六時中を共に過ごすほどの仲良しだろう。彼女が私を殺そうとしている、ましてや人間界を滅ぼそうとしている、なんて言っても、信じてもらえないような気がする。
「ええっと……」
それに、この戦いが無事に終わっても、エルたちに記憶を消されてしまうだろう。
私が生んでしまった沈黙に、関城さんははっきりと言葉を乗せる。
「白雨さん、ここまで来たのです。今更お気遣いは要りませんわ」
ふと気づくと、みんなも少し、覚悟のある目をしていた。鬱穂くんはまだ不安そうだけれど。
私はそれを汲み取り、強めに頷いた。
「本当は……私がやることは、みんなを守ることだけなんだ」
私の言葉の区切りに、周りは一斉に相槌を打つ。
「でも——みんな私の大切な友達だから、言えるところだけでも話すよ」
*
それから私は、崩壊する壁や天井に気をつけながら、みんなに以下のことを話した。
この世に天使と悪魔が存在していること。ナチちゃんは悪魔で、とある人間界を滅ぼそうとしている組織の一員であること。今はその計画の真っ最中であるということ。
それを聞いている時、一番顔を歪めていたのは関城さんだった。
彼女は私の話が終わったあと、空いた天井を眺めながら重く口を開いた。
「まさか、本当に伏見さんがそんなことを……」
そんな中、すぐるが片手を上げて答える。
「ええっと、話が壮大すぎてよくわかんなかったけど……要するに、俺たちはその騒動に巻き込まれたってことであってるな?」
「そうだね」
「なんで俺たちだけなんだ? 世界滅ぼす? んなんだったら、もっとこう……大きい範囲でやったりするんじゃねえのか? ……やってほしくないけど」
すぐるは自分の頭をガシガシ掻いた。
「わかんない……でも、今までこんなことはなかった。人を閉じ込めるなんてこと、初めてみたよ」
「ふーん、そうか」
ハイジュウを街に召喚して暴れさせていたことはあるけれど、という言葉は胸に仕舞い込んだ。彼らにその記憶はないのだから。
「とにかく、ここは比較的安全だよ。ハイジュウが吹っ飛んできたりしない限りは——」
「——アルカ! 危ない!」
私の言葉は、上空からの叫びに遮られた。
聞き覚えのある声のもとを探そうとすると、誰かが滑り込むように私の背後へ立った。
——ガキィィン!
金属音と同時に火花が散る。咄嗟に振り向くと、黒髪の少年が剣で、ハイジュウの長い尻尾を抑えているのを見つけた。
「エル!」
——ガッ
彼は自分より大きな金属の塊を、大剣で弾き飛ばした。
ドスッ
尻尾は弧を描くようにして向こう側に吹き飛び、重々しい音を立てながら床に叩きつけられた。
「間に合ってよかった」
ソレが再びこちらへ来ないことを確認すると、エルはこちらを振り向いて、いつものように爽やかな笑みを浮かべる。
「エルありがとう! ……ごめんなさい」
「いや、今のは僕のミスだ。気にしないで」
彼はなんの躊躇もなく私の頭をなではじめた。こういう行為にはそろそろ慣れてきたし、されるがままにしておく。
「んなっ、ちょっ……⁉︎」
背後ですぐるの声がした気がしたが、気のせいだろう。
エルは私の頭から手を離すと、少し屈んでこちらに微笑む。
「アルカ、交代しよう。君はあっちに行ってほしい」
「あっちって……ハイジュウの方?」
彼は頷く。
「戦闘の指示はマニから聞いて。アルカにやってほしいことがあるんだ」
「私に?」
「そう。だからほら、行っておいで」
私はそれに承諾する前に、すこしだけ百合ちゃんたちの方を見る。
すぐると百合ちゃんは、どこか驚いてる様子でこちらを見ている一方、関城さんは怪訝な顔をしていた。
「……アルカさん、あちらに向かわれるのですね」
「う、うん」
彼女は一つ瞬きをすると、据わった目に変わった。
「伏見さんをお願い致しますわ。彼女は、こんなことをするような人だとはどうしても思えませんの。何か事情があるはずですわ」
事情——事情、か。
『今度は絶対、失敗したくないのだ!』
ナチちゃんの叫びがフラッシュバックする。
いつも一緒にいる関城さんなら、彼女の悲嘆を聞いたことがあるのだろうか? いや、この様子だとなさそうだ。けれど、確実に彼女たちを繋ぐものを私はその眼差しから感じ取った。
私は拳を握り、上から振り下ろす。そして親指を上方へ立てて、歯を出して笑ってみせた。
「——何があろうと、任せんしゃい!」
友の決意を、己が信じよ。




