7-D 再演! 『怪物さん大暴れ』⁉︎
五秒でわかる前回のあらすじ
「抗えリスポーン」
「ハイジュウ……」
危うく槍を落としそうになる。
熱風と共に、それは姿を現した。
——ピィィィギュィィィィ
白い毛並みを丸々呑み込んだ銀色の鱗が、太陽光を反射し荒々しく光る。
——ドゴォォッ!
ハイジュウが首を一振りすると、部屋が最も簡単に破壊された。その巨体に一瞬足がすくんだが、槍を持ち直してこらえる。
「……ハイジュウが居ても、やることは同じ! ナイチ……ナチちゃん!」
「な、『ナチちゃん』⁉︎」
「今から君を戦闘不能にさせる!」
「……や、やれるもんならやってみな! なのだ!」
そう言うと、彼女は、空気の抜かれた風船の如くスルスルと空中を泳いだのち、ハイジュウの首元に周り、そこへまたがった。
「いくのだ! 怪獣グラウミュース6号! ……あわわ」
ナチちゃんは片手で前方に指差したが、ハイジュウが暴れたためにバランスを崩した。なるほど、彼女自身がハイジュウを操縦できるとか、そういうことはないのか。ならば……
「……うん、十分時間稼ぎはできたかな」
私はハイジュウの攻撃に巻き込まれないよう、少し下がってから槍をハイジュウに向けて構えた。
「な、なんのことなのだ⁉︎」
「ナチちゃん! 宣言するよ。今から私は、君たちアルカディアと——」
「——天使軍として対立する!」
——ズガッ! ——ズダッ‼︎
途端、二つの旋律が横切った。
その風は、ハイジュウに鎌鼬を刻み付ける。痛みからか、その巨体は甲高く鳴いた。
体制を崩すハイジュウの後ろで、二つの影は同時に壁へ着地し、顔を上げた。
「思ったより小さな子ですね」
「アルカを騙したのは見逃せないな」
一人は白いマントをひらりと揺らし、その顔に似つかない大釜を背負った女性。
そしてもう一人は、細腕一本で大剣を軽々と振るう、澄んだ空色の瞳を持った男。
「——マニさん! エル!」
「うげげ〜! 天使軍団!」
ハイジュウの体には傷が付き、中からケーブルのようなものが見えるようになる。
さらに追い討ちをかけるように、エルが壁を蹴り、ハイジュウに向かって直進した。
「お? わはは〜! こんなこともあろうかと思っていたのだ!」
ナイチンゲールが不敵な笑みを浮かべた。私は危機を察知してエルに叫ぶ。
「エル、危ない!」
私の声を聞いたからか、もしくはそれより先に察知していたか。彼は瞬時に翼を広げて、ぐるんと横へ一回転し、飛行の角度を変えハイジュウから遠ざかった。
当の操縦者はハイジュウに両手を付いており、何かを行う素振りはないように見えるが——
——ジャキンッ!
その刹那、ハイジュウの身体から、巨大なトゲが生えた。
音が鳴るほど速く、近くにいたモノを刺す勢いだった。当たっていたら只事では済まなかっただろう。
しばらくすると、そのトゲは体内に仕舞われるかのように小さくなり、やがてすっかり姿を消した。
「ファー⁉︎ ななな、なにが起きたんだ⁉︎」
「……っ! マニはそこで待機! 僕が行く!」
エルがそう叫んだ。いつものふわふわした表情から一変し、ビシッとした目線は獲物を掴んで離さない。
何をするのだろう、と私は構えていると、エルが動き出した。
ハイジュウに向かって飛んでいき、体側あたりに着いた矢先、彼は目にも止まらぬ速さで、前進しながら自転した。
——ガリガリガリガリッ!
彼の刃は硬い音を響かせ、巨体に幾つもの傷を付ける。そのままエルは離れるように飛んでいき、傷跡の様子を伺っていた。
ジャキン。
金属音と共に、またトゲが発生する。今度は良く観察してみると、トゲは傷付けられた場所から生えているように見えた。しばらくしてトゲと共に、先程刻まれた傷も綺麗に無くなっていることに気がつく。
我々が立ち止まっていると、ハイジュウの首元にちょこんと座っていたナチちゃんが口を開いた。
「なはは〜! すごいだろ〜! ワタシの魔力を注げば、傷付けられたところにトゲを生やせる! さらに傷も治せる! 無敵のハイジュウが完成なのだ!」
「……へえ、そういうことですかぁ」
急に私の側から声がして、一瞬びっくりしてしまった。いつの間にやらマニさんが私の近くまで来ており、思案顔をしながら空中で止まっていた。
「あ、マニさん! 来てくれてありがとうございます!」
「あら、うふふ、到着が遅くなってごめんなさいね」
私がお辞儀すると、マニさんはどこか恥ずかしそうに笑い返してくれた。
「アルカさんには事前にお伝えしていたのですが、予想以上に頑丈な結界が張られていまして……手間取ってしまいました」
「そんなに頑丈だったの?」
「ええ、この屋敷全体に結界が張られていました。恐らくあの子が一人で張ったものでしょうけど……」
そう言いながら、マニさんはナイチンゲールに目を配った。
「簡単な結界だったんですが、何百重にも張られていたんです。初めに見た時はエルさんと私でちょっと笑ってしまいました」
「質より量の結界だったんだね……」
「そういうことですね——さて」
アレをどうしましょうか、と苦笑いするマニさん。
確かに、さっきのナチちゃんの言葉が正しければ、あのハイジュウは今や無敵の状態である。こちらから攻撃を仕掛けても、ナチちゃんが魔力を注ぐ限りは傷が永遠に癒されてしまうということになる。
「そうですね……できそうなことといえば、あのアルカディアの子を倒すか、あの子の魔力切れを待つか、ハイジュウの核を直接壊すか……というくらいですね」
「でも、暴れてるハイジュウの後ろにいるから、ナチちゃんを攻撃するのは難しそうだよ」
「はい、ですから後者二択になりま——」
——ガッシャーン!
突然、大きな破壊音マニさんの言葉を遮った。
ハイジュウが急に走り出し、部屋の壁に突撃したのだ。無慈悲にも壁は崩れ、隣の部屋が露わになる。
「きゃああっ⁉︎」
穴の中から、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。
エルでもなく、マニさんでもなく、ナチちゃんでもなく……ましてや私でもなく。特徴のある甲高い声は、この場の全員の視線を独り占めにする。
「な、なんですのアレは⁉︎」
車椅子に乗った金髪の少女。
「——関城さん⁉︎」
「その声は、白雨さん⁉︎ 一体どうなっていますの⁉︎」
身動きできない彼女に、メイド服のセラさんが車椅子の手すりを下げるのが見えた。
「千薔薇様! ようわかりませんが、ここにおるのはやばそうっす! 」
さすがは使用人、身体能力は伊達ではないらしい。セラさんは厳しい顔で関城さんの足を方向回転させると、力強いスピードで部屋を出て行く。
「は、ハイジュウ! 構うな! オマエの相手は天使軍なのだ!」
ナチちゃんは軽くハイジュウの首を叩いたが、相手は相変わらずびくともしない。金属に覆われたその首を壁に打ち続け、関城家の広い天井はついに吹き抜けになってしまった。
「…………アルカ」
なす術を思いつけず戸惑っていた私に、エルがハイジュウを気にしつつ近づいて声をかけてくる。
「エル! いつもの人を移動させるやつは⁉︎ 早く使わないと、関城さんたちが!」
私はついその助け舟にすがるように、手足をバタバタさせて叫んでしまった。
「うん、そうだね。その前に、落ち着いて聞いて、アルカ」
彼はそんな私の両手を取ると、いつものように優しく笑った。
「君にお願いがあるんだ」
「私?」
「君の友達を屋敷の端まで避難させてほしい」
屋敷の端。関城さんの家は広いが、部屋の端ではなく家全体の端ということだろうか。
エルは真っ直ぐにこちらの目を見てくる。デタラメを言っているわけではなさそうだと、私は直感的に判断した。
「わ、わかった——けど、それって魔法でどうにかできるんじゃ……?」
「結論を言うと、ティークラフィスは使えない。それに、一旦ここに入った者は出られない」
「出られない⁉︎」
「そういう結界が張ってあるんだ。特定の魔法を無効化する結界は小さい範囲しか使えないけど強力でね。それだけは僕たちでは壊せなかった」
その結界がこの屋敷全体に張られている、と彼は少し早口で教えてくれた。私がなるほどと頷くと、エルは更に言葉を続ける。
「ハイジュウの方は、操縦者の魔力切れを狙って僕たちがなんとかする。アルカはとにかく友達を守ってほしい」
彼はいつも以上に強く、念を押した。私はその言葉に対し、歯を見せて答えた。
「わかった、任せて!」
そう笑うと、彼もまた満足そうに笑ってくれた。
「アルカ、気をつけて」
「うん、エルもね!」
エルの手から解放された腕を、横に振って方向回転し、私は破壊された部屋の向こうへと翼を伸ばした。




