7-C 取捨! 秘めたる想いをその歌に!
五秒でわかる前回のあらすじ
「雲行きが怪しい! タイフーングルグルグルー! 木々ザワザワザワー! 長い髪バサバサバサー!」
——ズバババッ!
もはや明後日の方向だ。
伏見さんの魔弾は私を通り過ぎ、壁に当たって爆発した。
「ワタシは、だって、ワタシは……」
彼女の目が泳いだ。
今の伏見さんを見るに、アルカディアとしての伏見さんは、私たちが学校で見てきた伏見さんそのものだ。ただ、彼女がたまたまアルカディアだっただけであって、伏見さんは伏見さんなのだ。彼女の決心には荒がある。
私はそう考えて、その隙をつくことにした。
「伏見さん、私たちが争い合うなんて間違ってるよ」
「…………」
「アルカディアは、私の友達を危険に晒してるの。ハイジュウはあたりかまわず暴れるから、関城さんが負傷することだって例外じゃない」
彼女は金属と化している左手を摩りながら私の話を聞いていた。
こちらも攻撃は加えない。私より伏見さんのスピードのほうが断然速い。私は不意打ちをかけるには不利である。
「……アルカ、ワタシの本当の名前を教えてやる」
彼女がようやく顔を上げた。どうやら自分の中で強く決心できたようだ。
「伏見那智っていうのは、下界に馴染むための名前だったのだ」
「……そっか」
「だから本当の名前は違う」
道化師は、笑顔の仮面を外した。
「『ナイチンゲール』、それがワタシの名前」
「ナイチンゲール……看護師の偉人の?」
私の問いに彼女は首を振った。
「鳥の名前だ。小夜啼鳥。知ってるか?」
「サヨナキドリ……! 知ってる!」
ナイチンゲール、日本名サヨナキドリ。鶯と並ぶ、美しい歌声を持つと言われる鳥の名前だ。
サヨナキドリは日本で見ることはできないが、私は本で見たことがある。たしか小さくて褐色で、可愛げのある鳥だったはず。
「……ナイチンゲール……綺麗な名前だね」
「へへ、ありがとうなのだ」
伏見さん——いや、ナイチンゲールは右手を口に当て、照れ臭そうに笑った。
「もうこれで、お互い隠すことはないのだ」
なるほど、真名を伝えたということは、自分の素直な気持ちを、今から私にぶつけてくれるということだろう。
それならばと、私も笑顔でその言葉を迎え————
「——だから、絶対にオマエを殺す!」
「デデン! ……いやなぁぁぜぇぇぇ⁉︎」
なんかみてみたいかもー! ……じゃねーんだよ!
「うっそーん⁉︎ さっきまでの感動的な雰囲気どこ行った⁉︎」
「よく考えたら最初っからワタシが決めてたことなのだ! 今回失敗するわけにはいかないのだー!」
「決意が固いことは褒めるべきだけど、決心すべきことそこじゃないよ伏見さん〜!」
「だ・か・ら! ワタシはナイチンゲールなのだ!」
そう言い争いながらも、伏見さんは銃口をこちらに向ける気配がない。
警戒し、様子を伺う。すると、彼女はどこからともなく、何かを手中に取り出した。
「これが何か知っているか?」
「そ、それは……!」
彼女が指で摘んでこちらに見せてきたのは、菱形——いや、八面体の石だった。
「まさか、それはぁーっ⁉︎」
ハイジュウの核より少し小さいが、それに似た緑色をしている。
「……なにそれ」
「ズコーッ! いや知ってそうなリアクションするなー! なのだ!」
彼女はこちらにそれを見せつけようと、腕をいっぱいに伸ばした。
「これを天生物に合体させると、すごいことが起こるのだ」
「すごいこと……?」
すると、ナイチンゲールの左腕の、ガトリングガンだった部分が変形し、金属製の義手に変形した。
そしてその空いた手に、また別の物を召喚した。なんだろうと凝視してみると——
「——グラウミュース!」
私が見慣れた白い毛並みの、まるまると太ったネズミがそこにいた。ナイチンゲールは、その首根っこを掴んで持ち上げている。
彼女が持っているグラウミュースにはハートのブチは無い。どうやら私が助けたのとは別個体のようだ。
「その子をどうするつもり⁉︎」
「まあ見ているのだ!」
ナイチンゲールの右手には核に似た宝石。左手にはグラウミュース——
「——まさか」
私が焦ったのも束の間。彼女の手は動き続ける。
「アイハーバペェン」
「やめろーっ‼︎ 大人の事情でーっ!」
「アーイハーバマウス」
「んぃや、ちょっと変えてくるな!」
「……ヤー!」
彼女はグラウミュースに緑色の物を当て、同時にどうやら、自分の魔力を流し込んだらしい。
すると、その緑色の物体が光となり、グラウミュースに取り込まれていく。
「————ああ」
手を伸ばすのが一歩遅かった。やっちまった。
苦しみ出したグラウミュースはナイチンゲールによって地に落とされる。着地する直前、光を放ちながら、天井を突き抜けるまで巨大化していく。
青空が見えた。白い雲が泳ぎ、小さな鳥が飛び交う、そんな空が。
どうやら私の吐いた綺麗事が、更なる厄災を生んでしまったようだ。
彼女と親睦の深まる未来は、音を立てて崩れた。
そんな地獄の中で、目の前の少女は、『ハイジュウ』を背に笑った。
「さて——第二幕は、『怪物さん大暴れ!』なのだ!」




