7-B 暗転。スポットライトは一つだけ
『私のところにおいで』
きっかけはその言葉だった。
小鳥が歌う。
涙にまぎれて、記憶が流れた。
*
『気味が悪い』
『この家に居ないでちょうだい』
そう連れてこられたのは大きな家。同じ背丈の人、私より小さい人。数十人の子どもが住んでいた。
『おまえなんでうでないの?』
『おこられてばっかりでたのしい?』
『だれがなまえをつけたの?』
みんなは質問してくるけど、答えられない。だって知らないんだもの。
家の中をずっとうろうろしていた。とくに興味があるものはない。
暗い角で唄ってばかりだった。透明色のなにかが浮かぶから。
だからノートに書いた。私の嫌なこと。好きなこと。
一番書いてあるのは、人から怒られたことだ。
睨まれると汗が降る。怒鳴られると心臓が揺れる。
何故怒られたかはわからないが、その人たちの言葉はいつも私に向けられていた。
『同じ失敗するな』
『何度言えばわかるんだ』
いつのまにか、ノートは叱責で埋め尽くされた。
次は失敗しないように。
次は、怒られないように。
私が笑っていられるように。
私はノートに書いた。
いつか神様が来るのを祈って。
*
ある訪れた転機のいい日。
小鳥は飛び立った。
歌声は天へ登る。
指先が、動いた。




