7-A 開演! 爛漫ピエロのショータイム!
五秒でわかる前章のあらすじ
「アルカ、後ろーっ!」
目の前が真っ白になった。
これは比喩表現ではない。白い光が私のことを包んだのだ。
——これは魔力の弾丸だ。
そう悟った私は、後方へ跳ぶのと同時に、体を捻ることで弾道から逃れた。
やがて静寂が空間を支配する。
息を潜めていると、部屋全体の明かりがぱっと付いた。
「え……えええええええええ⁉︎ なんで生きてるのだ⁉︎」
大声を上げ、こちらを見ていたのは……銀髪のツインテールを揺らす女の子。
「伏見さん……!」
伏見那智。学校では、私の前の席で座っていた女の子。
声も、喋り方も、元気いっぱいでコミカルな動きも全て一緒だ。
ただ、今目の前にいる彼女は、私の記憶とかけ離れた姿をしていた。
赤と黄色を基調とした、道化師風のセパレート衣装。
更に私を圧倒したのは——
彼女の左手が、義手である事。
その華奢な体本来の産物ではないことを明らかにさせる、金属の肌。人間の進化を無視する関節の数。「これは義手である」。白雨存華という12年で蓄積された記憶が、そうはっきりと確信した。
「あれー⁉︎ 絶対不意打ちだったのに……!」
「ええと、伏見さん……?」
彼女は相変わらず驚いた表情で両手を握ったり広げたりしていた。
「停電したのに伏見さんだけいなかったし、ここの扉に誘導したのも伏見さんだったから、きっと伏見さんの仕業なのかな〜っていうのはちょっとわかってたよ」
「えっ」
「あと発射する前にちょっと光ってたじゃん? あれで結構視界開けたからさ、さすがに避けられるよ」
「ええっ⁉︎」
銀髪が跳ねた。なるほど、さっきは素で驚いてたのか……
「そ、それでも弾を避けるのはルール違反なのだ!」
「何でだよ! 殺す気か! ……って、あれ……?」
今私が言った言葉は、冗談のつもりだった。だがおかしい。私の本能は、満更でもないと言っている。私が顔をしかめたコンマ2秒後、伏見さんは空を舞った。
うん、空を舞った。その表現で間違っていない。自らの脚で高く跳び、更に私の頭上へ流れるように移動する。
その背中には、コウモリのような羽。見覚えのある、ヒトから生えた羽。
間違いない。あれは悪魔の羽だ。ということはつまり——
「——伏見さん、悪魔だったの⁉︎」
「大当たり! ワタシは『アルカディア』の一員なのだー!」
伏見さんは両手両足を広げてバタバタ動かす。
なるほど、そう来たかっ……!
「で、でもそれじゃあ、ずっと私たちの学校で過ごしていたのは……⁉︎」
「それはワタシが一般人に紛れ込むため! それ以上も以下も胃カメラもないのだ!」
伏見さんは手を腰に当て、エッヘンと胸を反らせた。
「そしたらのこのこ『裏切り者』は現れた! 天使軍も一緒に! バカなのだ〜愉快なのだ〜」
彼女は、何とも嬉しそうに声を弾ませた。私は焦点が合わなくなった目を、瞼の裏へ伏せた。
「伏見さんが……悪魔……」
「すっかり騙せたのだ〜、あーあ、楽しかったのだ〜」
俯く私の上に、影が被さる。
私が顔を上げると、大きなウェーブを描いたスカートがふわりと私の目の前に降り立った。
「あとはオマエを殺すだけ」
「…………」
「愉快なのだ! これでやっと褒められるのだ!」
伏見さんは、義手のついた左手を私に向ける。するとその義手はガシャガシャと音を立てながら、ガトリングガンの形に変形した。
歯を食いしばる私に、彼女は満面の笑みでこう告げる。
「お元気で!」
——ガガガガガガッ‼︎
休みのない光の銃撃が放たれた。私は体を捻り、顔面スレスレで弾をかわす。
「なっ——⁉︎」
頭を水平にし側転することで自分の軌道を変え、残りの弾からも逃れることができた。
「ちょこちょこ罪なのだ!」
「それを言うなら『ちょこざいな』だよ⁉︎ 間違えるにも程があるよ伏見さん!」
銃弾の雨が隙を見せた時、私はすかさず腕時計型のエフェークオスに手をかざした。
「『シネストメイト・サイメテオ』!」
私の体が光に包まれる。光を振り払った私は、いつもの赤い戦闘服を身にまとった。ついでに、いつもの金色の槍も手に持って、準備万端だ。
「アルカ……この計画に、オマエは邪魔なのだ!」
「計画……?」
「オマエも天使軍も邪魔なのだ! みんな消えてもらうべきなのだ!」
伏見さんは私の背後に回るように滑空する。私は前方回転して視界を空中へ広げる。彼女は私の顔面に向けて魔法弾を五発撃ってくる。
「——オラァァッ!」
弾丸の嵐の下、私は全力で走った。
彼女の足元に向かうように方向転換。私は脚力にだけには自信がある! 銃弾さえも追いつけまい!
「うぐぐっ……!」
彼女は左腕を私に向けながら、右手でそれを軽く叩いた。
——なるほど、あれが魔弾の充填動作か。
事前に、エルたちから、天界で使われている武器について教えてもらっていた。
伏見那智——彼女が使っている武器を見るに、あれは魔法弾(以下『魔弾』)と呼ばれるもの。
エルは確か、こう言っていたな——
『魔弾を使う人はシューターって言うんだけど。魔弾を生成することだけしかできないんだ』
『だけって?』
『ほら、弾があってもピストルがないと撃てないでしょ? シューターは発射装置がないと、攻撃はできないんだ。』
発射装置に自分で生成した魔弾を充填し、充填した魔弾が無くなればリロードする必要がある。準備に一瞬手間はかかるが、その代わり速度と弾数の多い遠距離攻撃が使用できる。それがシューターというものらしい。
——リロード中が伏見さんの「隙」。そこを狙おう。
自分の翼を広げて空中戦へ。私は振り向いて、伏見さんと向かい合うように浮いた。
すると私は、あることに気がつく。
「伏見さん……」
「オマエ……しつこいのだ……!」
彼女の顔は、焦りに満ちていた。
早く私を倒さなければと、そんな自己嫌悪のような。
「伏見さん、焦っていると周りが見えなくなるよ」
彼女の顔が歪む。アームガンを右手で支え、照準を固定している。
「喋ってないで手を動かすのだ!」
今度は横一列の発砲。私は上昇し、弾幕を避けると同時に彼女に接近を——
「————⁉︎」
一発。腕を掠めた。それを見るなり、伏見さんは悪戯っぽく笑った。
「ひははっ!」
なるほど。伏見さんのアームガンが撃てるのは全部で六発。
彼女はさっきから、魔弾は五発しか撃っていなかったのだ。一発分を残すことで、リロード中の隙をカバーしていたのだ。私は先ほどの一発を食らってから、ようやくそのことに気がついた。
「くっ……」
「天使軍はちょっと強そうだけど、オマエ一人なら楽勝なのだ!」
後ろに下がった私に追い打ちをかけるように弾幕を張る伏見さん。
思った以上に彼女の動きは速い。ツバメのようにビュンビュンと飛んでいく。
どうする、私。彼女を止めるには、私は何を————
——よし。思いついた。
「ふ、伏見さん!」
私はそう叫んだ。名前を呼ばれた相手は、ふとこちらに視線を向けた。
「伏見さん! 焦って周りが見えなくなるとね、嫌いな人も大事な人も傷つけてしまうんだよ!」
キョトンとする彼女に、私は言葉を続ける。
「伏見さん、私を倒した後はどうするの?」
「えっ?」
彼女にとっては予想外の質問だったようで、彼女の目が泳いだのが分かった。
小刻みに震えるアームガンを私に突きつけ直し、彼女は答えた。
「もちろん! 次は天使軍を倒すのだ!」
「学校は?」
「そんなのもういらないのだ!」
「関城さんとは友達じゃなくなるよ?」
間髪入れずに私は問う。
「…………っ」
彼女の顔が曇った。
「…………知らないっ!」
「知らないわけない、自分のことなんだから」
「……知らない! 知らないったら知らないのだ!」
「ワタシは『ボス』が言うことをやる!」
彼女の左腕から、光がまっすぐに発射された。
「今度は絶対、失敗したくないのだ!」




