6-D 運搬! 他愛の無し早々!
5秒で分かる前回のあらすじ
「しもしも〜? アタイのシモベ〜?」
「さて、ここは私の自室でしてよ」
「広ーい!」
「ここは遊戯場ですわ。ビリヤードやダーツなどアナログゲームを多く取り揃えておりますわ」
「家じゃなーい!」
「ここは食堂ですわ。夕食の時間になったらこちらで召し上がってくださいな」
「明るーい!」
「ここは客室ですわ。皆様ご自由にお使いくださいませ」
「OMOTENASHIー!」
「……おいおい待て待て!」
「なんだよすぐる、私が感動してるところなのに」
「ツッコんでるのはアルカじゃない! おい関城!」
すぐるは目を吊り上げて(いつもだけど)、関城さんに向かって怒鳴った。
「客室使うほど滞在しねーよ! あと、まだ昼だから夕飯もいらないから! 住ませるつもりか!」
「まあそうなんですの?」
そんなすぐると対照的に、関城さんは目を丸くして口元に手を当てる。
「ご、ごめんなさい、お友達を呼ぶのは慣れていなくて。これぐらいしないといけないかと……」
「関城サマは律儀なのだ!」
なるほど、お泊まり会とでも思ったのだろうか。それより私は、現在の人数以上の客室が備えられていることに興味が湧いているのだが。
「……それよりさぁ、そろそろ準備した方がいいんじゃない……? のんびりしてると本当に、泊まることになるけど」
急に鬱穂くんが、自ら彼らの間に入った。彼が人に意見を言うなんて、珍しいような。
「そうですわね……あ! そうですわ! それでは、こういたしましょう!」
関城さんが、上がった調子で口を開いた。
*
「くっそー! 俺たちだけにこんな重労働かよ! なあ鬱穂⁉︎」
「……そこまで重労働ではない気がする……」
俺はすぐる。中学一年生……って、そんな自己紹介は置いといて。
俺たちは今、関城家の無駄に広い廊下を歩いている。それも、いくつものミシンや裁縫道具の入った段ボール箱を抱えて、である。これらは関城に頼まれた品物だ。
「なーにが『男性の方々にお願いしますわね』だよ! 屋敷の中にもっと俺より屈強そうな執事いたぞ! 俺は見たんだ!」
「…………元気いっぱいだねすぐる」
ちなみに女性陣は、布類を運んでいるらしい。俺たちとは少し離れた倉庫で作業する、と言っていたような。なんで別々の倉庫に入れているんだろうか……まあ巻き布一本は大きいし、虫もつきやすいだろうから別の倉庫で丁重に保管しておきたいという気持ちもわからなくもない。
「…………やっぱ重いかも……」
「だよなぁ⁉︎ 長すぎるんだよこの廊下! 鬱穂、ちょっとその辺で休もうぜ」
俺は壁際に箱を置き、心なしか足がふらついているように見える鬱穂を手招きする。彼は最小限に音を抑えて座り込んだ。そして、少し辛そうに背中を丸めた。
「無理するなよ鬱穂。ちなみに俺もめっちゃ腕が痛い」
「昨日部活で千本ノックしたから……」
「そうそう! そうなんだよ! マジ筋肉痛!」
話を繋げていくと、相手はちょっと返事して、頷いてを繰り返す。鬱穂はいつもほぼ無言で静かだが、できる範囲で反応してくれるいい奴だ。
だが、言い換えれば人に気を使いすぎてあまり自分の気持ちを口に出さないとも言える。いつもどこかに本音を隠しているような、そんな気がしてならない。
「……そうだ鬱穂、お前って入学前に家引っ越ししたって言ってたよな? どっから来たんだ?」
俺が何気なく質問すると、鬱穂はもそもそと口を動かした。
「豆鳩小」
「豆鳩……? って、エッ! 結構近くのとこじゃん!」
近くというのは、隣町のことである。俺やアルカが通っていた小学校と、姉妹校とも言えるくらいよく聞いていた名前だ。
「へー! じゃあ大分、近距離な引越しじゃん。なんで? あ、わかった! 家が好みに合わなかったとか?」
俺の言葉はもちろん冗談で、彼も一瞬笑った。しかし、次に瞬きした時には、なにか嫌なことを思い出したように目を伏せ口をつぐんでしまった。
「……鬱穂……?」
「………………」
まずい、地雷を踏んでしまったのだろうか。
とりあえず気まずい空気をなんとかしよう。俺は早口でこの会話を閉じる呪文を唱えた。
「ああ、俺変なこと聞いたな? いや別にそんな事知ったからってどうなるってこともないし無理に答えなくてもいいからな? あ、そろそろ立ち上がってもいいよな‼︎ よし! 行こう‼︎」
「……うん」
鬱穂は相変わらず俯き、前髪で目元を隠している。彼がどこを見ているのかは不明だが、現在では無い場所であることは確かだ。
「——死にたい」
鬱穂のいつもの口癖を、俺は今回も聞かなかった事にした。
*
「ふう! 」
関城さんは、ガムテープの入った小さな紙袋を机の上に置き、汗ひとつもない額を満足気に拭った。
「自分で体を動かすって、こんなに気持ちがいいのですわね!」
「関城さんが楽しそうですよかったよ……」
私は苦笑いしながら、持っていた巻き布3本を、紙袋を避けて寝かせた。
我々が運んでいたのは布地と、関城家に余っていた段ボール類である。
「なんでこんな段ボールが余ってたんだよ……」
「私のお父様が、最近それで戦機を作ろうとしていたそうですわ」
「おーい⁉︎ お父様————⁉︎ 子供心を大切にしていらっしゃる⁉︎」
まあ、それはいいとして、この部屋を見渡す限り、私達と分かれて作業しているはずの、すぐると鬱穂くんがまだ集合できていないようだ。
「すぐる達、遅いねぇ。何してるんだろ……」
「アルカ、アルカ」
不意に背後から声をかけられた。振り向いた時そこに居たのは、伏見さんだった。
「アルカ、すごいものを見つけたのだ。こっち来るのだ」
何故か小声で私にささやく彼女。なるほど、なにか関城さんの秘密でも見つけたのだろうか。それを私に見せてくれるのだろうか。
「うん、わかった。こっそり行こう」
*
「ぅお!」
私はそれを見つけて歓喜した。
目線の先、つまり階段下の壁に————謎の紋様のついた扉があったのだ。
六芒星にミジンコの手のような棒が生えた、見たことのない不思議なマークが、扉からはみ出る程大きく描かれている。
「すごいのだ⁉︎ すごい発見なのだ!」
「うん……なんだろう、これ……」
好奇心に負けて近づいて見てみた。すごい。どうやらこの模様は掘られているようだ。少し発光しているように見えるのはどういう原理なんだろう。
しかしこの模様、どこかで見たような見てないような……
「アルカ、どうしたのこんなところに…………って」
その時、百合ちゃんが私の背後に立った。私も伏見さんも、驚いて奇声をあげてしまった。しまった、ノーマークだった。
「伏見那智……! ま、まさか……あなたもアルカを狙って……⁉︎」
「ゆ、百合ちゃん……?」
何故か顔を強張らせる百合ちゃん。なんだろう、やけに殺気が……
「あ、ああ! えっと、この部屋が気になってさ」
「そ、そうなのだ! すごい大発見なのだ! 他の人には内緒なのだ!」
とにかく百合ちゃんの気を落ち着けるべく、我々は状況説明に回る。すると、彼女がなぜか少しだけ怪訝そうな顔で言った。
「……そっか。階段下の部屋なんて、アルカは見たことないもんね」
「え?」
「……ほとんど一軒家にはあるものだよ」
まじか。知らなかった。こんな中二病心くすぐるような扉が、全国のおうちにあるだって……⁉︎
「う、うちにはないよ?」
「知ってる」
「ワタシの家にもないのだ!」
「それは知らない」
即答された……そう。私の家の階段下に部屋は無い。シースルー階段だから、その下は物置になっているだけだ。
「とりあえず、早く戻ろう、アルカ。伏見那智はどうでもいいけど」
そう言って先を行く百合ちゃんに、首を縦に振って答える。
何故か敵意を向けられていた伏見さんも、お構いなしにニコニコ笑顔で彼女に駆け寄っていく。
……彼女たち、仲良くなれるといいな。
「それにしても、このマーク……」
私は何か違和感を覚えつつ、この扉を後にした。




