5-H 発芽! この木なんの木気になる木!
5秒で分かる前回のあらすじ
「ニューアルの全貌がァ……へへへ……わかってきやしたぜェ……ククク……」
「なんじゃァこらぁ……」
私は、首を直角以上に後方へ折り曲げた。
メガネ型のインカムから、マニさんが説明を始める。
『あらあら、これは“ロートス”ですね。天界に生える植物です。通常は2メートルほどしかない小さな木ですが、これはちょっと大きすぎますね』
「しょ、植物とな……」
そして私の後ろで、メノスが冷静な表情で呟いた。
「アレは“ロートスの木“か? アイツ、ついに植物にも手を出したか」
……なんだって? 手を出した……?
私は状況を悟り、メノスに尋問を試みる。
「……ということは、あれはハイジュウなの⁉︎」
「だろうな」
「ど、どうするの⁉︎ 天井破けてるけど⁉︎」
修理代とか、と言ってしまおうとした瞬間に気がついた。
そうだ! この人たち、魔法で直せるから修理代は考えないんだった! 羨ましい!
「天井は後だ。まずこの木をぶっこ抜くか」
いや手が早すぎる! もうちょっと考えないんですかね⁉︎
「で、でもこんな太い木だよ?そんな簡単に抜ける?」
「無理だな」
いや即答‼︎
ラティメノスとやら……大体わかったぞ……お前、大半は脊髄反射で喋っているな……?
そんな会話をしていたところに、穴の開いた天井から、数名の人が現れ、こちらを覗き込んできた。
すると、その中の一人が、私達二人に向かって口を開いた。
「おい、お前たち! ハイジュウの核を壊すのを手伝え!」
——核? 核を壊す……と、いうことは、このロートスの木を殺す、ということだろうか。
なるほど、木を引っこ抜くのではなく、存在ごと抹消しようという計画なのだろう。
ということは、穴の向こうにいるのは、メノスと同じアルカディアの人達……なんだろうな。
「ま、任せんしゃい! メノスも行くよね?」
「行かん」
「よっしゃ! さっそく核を探そ……って、行かないの⁉︎」
私はもう既に羽根を羽ばたかせ、地から浮いてしまっていた。
——いやなんで⁉︎ この人たちはアルカディアであって、仲間なんでしょ⁉︎ 嗚呼、メノスって本当不思議‼︎
そんな感じで優雅に宙を舞っていた時、天井の上にいた人とばっちり目が合った。
「————」
「…………? は、はろ〜⭐︎」
何故か怪訝にこちらを見てくる。な、なんだろう。そういう時はとりあえず挨拶しとけば問題ない。
「「だっ————誰だお前————⁉︎」」
数人に指差され叫ばれて、ようやく気づいた。
「あ、そうだった! やっべーーーーーーーっ‼︎ お、お忍びバレちゃった‼︎」
「この曲者め‼︎」
うげーっ! メノスはあんなに簡単に騙せてたのに! やっぱり、嘘は吐いちゃいけないよねー‼︎
殴りかかろうとしてくるアルカディアの皆様に敬意を表して、私は浮遊しながら槍を構えた。
その次の瞬間。
一陣の疾風が、私達の前を通り過ぎた。
「うわっ⁉︎」
誰かが悲鳴をあげた。瞬きするたびに、悪魔達が脱力して屋根の上で転がっていった。
その中に一つ、私は見覚えのある影を見つけた。
「——マニさん‼︎」
彼女はサラサラした髪を揺らし、可憐に笑っ————たのは確かだが、その手は悪魔の男性の胸ぐらを掴み上げていた。容姿に反したモーション、シビれるぜ……
「アルカさん、ここは私達に任せていいですよ」
「うんわかった……って、いや! それよりも!」
私は屋根の上に下りて、マニさんに駆け寄った。彼女は慣れた手つきで男達を拾い上げていく。
「マニさんどうしてここに⁉︎」
「うふふ、先ほど、アルカさんの居場所がバッチリわかるようにっちゃったんですよ」
口元を隠し、悪戯っぽく笑うと、彼女は、すぐ側に聳え立つ巨木の頂上を指差した。
「……とても大きな目印ができたので」
「WOW‼︎ ロートスさんには住所特定ネットユーザーもびっくり!」
そんな会話を軽く終えた後、マニさんは太ももに隠していたエフェークオスを取り出した。
瞬きした瞬間、彼女の目の前にいた男が、喰われた。
「…………⁉︎」
食べる……その表現が最もふさわしいと思われる。今、彼を包み込んでいるのは透明な、巨大な、石。まるで氷漬けになってしまったかのように、中にいる者はびくとも動かなくなってしまった。
呆気に取られている私に反して、マニさんは次々とアルカディアであろう悪魔達を、石の中に閉じ込めていく。
「マ、マニさん⁉︎ 何してるの⁉︎」
私は自分のやるべきことよりそっちの方が気になってしまって目が離せなくなった。
すると彼女は何事もなかったかのように軽く微笑んで、口を開いた。
「こうやってクリスタルに閉じ込めてから、天使軍基地に送るんですよ」
「この人達を……?」
「ええ。人間界でよくある、おまわりさんが手錠をかけるのと同じことです」
なるほど……つまりは、アルカディアの人達を逮捕したってことなんだな。マニさんかっけぇ、これが俗に言うデキる女ってヤツだろう。
……って、そういえば軍基地に送るって言わなかった? え、私達、これからこの人達と暮らすの?
「……ああ、この人たちは軍基地の牢屋に送るんです。ちょっとしたお説教をするためだけですよ」
そう彼女がエフェークオスをいじると、出来上がっていた数個の悪魔標本(?)が一度にその場で消えた。
今のできっと牢屋に放り込まれたのだろう。牢屋……あそこにそんなものあったっけ……? とりあえず、マニさんの「ちょっとしたお説教」のレベルが低いことを、彼らのために祈っておこう。
「さ、お姉さんと一緒にハイジュウを治しに行きましょうか。アルカさん?」
腰を落として目線を合わせた彼女に、後光が刺しているように見えたのは、私だけかもしれない。
*
少年は処理場を彼女に任せた。
残り一つの仕事を、確実に施行する為に。
「——彼女は僕たちが預かっておくから。心配しなくていいよ」
相手は警戒の目を彼に向けた。
手に武器を握る。彼に隙を作らない。
その瞬間で、彼は強敵を認識した。
重心位置。
視線。
体温。
体臭。
体重。
呼吸量。
心拍数。
彼は常に、他人を感覚で測る。よって相手への信頼度を測る。
その能力は、全てを疑ってきた彼ならではの、この世で生きる術だった。
「そんなのはどうでもいい。この家までも壊すなら、話は別だが」
「壊すなんてことはしないよ。できれば君も一緒に来て欲しいんだけど、どうかな?」
相手はより構えを深くする。
柔らかく誘ったのにな、と彼は少ししらけた。
「……嫌だと言ったら?」
相手の問いに対して、
彼は考える“フリ”をした。
「んー…………」
「…………武力行使?」
瞬間、エルはメノスに飛びかかった。