4-D 凝固! 汝は異物なりや?
五秒でわかる前回のあらすじ
「絶体絶命、四面楚歌、窮余一策?」
音がして数秒、自分の頭の上から、何かがぼとりと落ちてきた。
それは、切断面にびっしりと電気線が詰まった、太い「腕」だった。
「——は?」
背後の攻撃を防ごうとしていたため、私の左手は空を切った。
先ほど私が突いたハイジンは、後方に倒れていく。
その一瞬、コンクリートの地に、一本の“大鎌”が刺さっているのが見えた。
大鎌——って、もしや……マニさん⁉︎
「どっ…………なぉわっ!」
己の身体は後方に重心を崩してしまった。しかしその背中は、何かによって支えられた。
え、支えられたって、何?
自力で立ち直した私は、現状把握のために顔を上げる。すると、空色の瞳と意識がバッチリ合った。
「——エル!」
私が呼ぶと、それだけで彼は満足そうに微笑んだ。
「遅くなってごめん。よく頑張ったね」
その言葉を口にした途端、私達の前に何かが降ってきた。
軽い音を立て、地に降りたソレは、即座に大鎌を拾い上げ、とんでもないスピードで空間を移動始めた。
——スパンッスパンスパンッ‼︎
「……ぅどっん⁉︎」
「マニだよ。アルカ、あまり動くと刺さっちゃうから気をつけて」
「刺さるぅ⁉︎」
反発的にびくっと全身が硬直する。
そんな我らの間を縫うように、ソレ——いや、紺碧色の髪を乱れるほど振り回すマニさんが、自分よりも大きな鎌を右往左往に操っていく。
すると、腕を斬られたハイジンも、いつのまにか増えていた数体のハイジンも、次々と地べたへ崩れていった。
「マニさん…………」
「……やっべえ! めっちゃかっこいい!」
高速かつ不規則すぎる動き。それでも意地で目で追いたくなるほど美しく、魅力的だった。
彼女は、ハイジンがすっかり動かなくなったのを確認すると、徐にこちらへ寄ってきた。
「いいですか」
同時に、顔をこれでもかとこちらへ近づけた。
「……あなたを信用したのではありませんよ。人間が一緒に襲われていたから助けたのです。わかりましたか」
手を腰に当て、細目でこちらを見下ろす。そんな彼女は、私頷くのを見るまでもなく、頭上に光の渦——恐らく、軍基地に繋がるゲート——を出現させ、ジャンプして入って行ってしまった。
彼女の消えたその跡を眺め、私は少しの間放心した。
「…………うわああああ! かっこよすぎるぅぅぅ‼︎」
「今のさあ、何⁉︎ どんだけさりげない帰り方だよ⁉︎ やっばやばくね⁉︎ ねえ、エル今の見————」
興奮で背面を振り返ったのだが、エルの姿がない。
「——あ、あれ……?」
一瞬驚いて右往左往してしまったが、少し離れたところに彼がいたのを見つけた。
『……っふう、あとは大丈夫そうだ』
彼は私がそちらを見ていたのに気がついて、涼しげな顔で歩み寄って来た。
——ぐったりとして動かない、すぐると百合ちゃんを小脇に抱えて。
「っは、ぁッ⁉︎」
——私も殺される!
つい一歩だけ後退りしてしまった。
それに気がついたか、彼はいつものように笑い、口を開く。
「大丈夫。今記憶を消したからね、少し気を失ってるだけだよ」
彼は、ほら、とその場にしゃがみ、彼らの顔を見せてくれた。
本当だ。息をしてる。それも深い呼吸だ。ということは、気絶してからそのまま眠ってしまった、ということだろう。
私はほっと胸を撫で下ろした。それと一緒に、さっきの短時間でエルがここまでの所業を成し遂げたことに驚きを隠せないでもいた。
——シュゥゥゥ
私たちの周辺から空気の音が鳴った。
ハイジンが「蒸発」した音だ。ハイジンは心臓部の核が壊れると、こうして身体が蒸発して、最後には空気になって消えてしまうのだ。
「あっ……あの、エル」
「ん? どうかし……」
私は微笑みを絶やさない彼の顔を真っ直ぐに見て、それから、土下座した。
「朝はごめんなさい‼︎」
私は額をコンクリートに打ち付けた。ちょ、ちょっと痛かった!
「あの、エルのことバカって言っちゃって、本当にごめん! 私、昔の頃のことを野生児って言われるのが嫌だったんだ!」
少し早口になってしまう。それでも相手は丁寧に相槌を打ちながら私の話を聞いてくれた。
「でも、ちゃんと気がついた! 野生児……じゃないけどそういう過去も、片親の過去も全部ひっくるめて私が生まれてきたわけで、だから今も戦いが少しできるようになってるってことで……えっと、よくわかんなかったらごめん! でもだから、そういう意見も、受け入れられるように、これから頑張る!」
私はもう一回頭を下げた。
「本日は誠に申し訳ございませんでした‼︎」
……うわあああ、絶対エル怒ってるよー!
温厚でいつも笑ってくれてる彼でも、心の中もそうであるとは限らないし……
すると、しばらくしてから相手が答えをポツリと声にした。
「そっか、その話か……」
「いやわからんかったんかい⁉︎」
つい食い気味にツッコミを入れてしまった。
朝の話って言った時点で分かってよかったよ! ……と言いところだが、彼のペースを否定してはいけないと思い、口をつぐんだ。
「僕もあの時はごめん。アルカが、その、昔の話をするのが嫌だって分かってなくて……本当に、ごめん」
エルの声はトーンが低かった。
「それに、さっきのハイジンの事はね、君が戦闘服を使うまで気がつかなかったんだ。だから遅くなってしまって……ごめんね。よく頑張ってくれて、ありがとう」
彼に謝らせてしまったことに焦り、次の言葉を探していると、私のその頭上に、なにか温かいものが乗っかった。
「君には、たくさん負担をかけていたと思う」
彼の、大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「ごめん。アルカ」
彼は口の端を上げていた。
それなのに、彼の目は冷たくなっていた。
「ううん、いいよ! 全然!」
ほら、大丈夫
そう言うように、私は満面の笑みを作って彼に返した。
「エル、助けてくれてありがとう」
すると、エルも目を細めて微笑んでくれた。
「アルカも、頑張ってくれてありがとう」
私たちは、お互いに手を出して、仲直りの握手をし————
————ミシミシミシッバキバキッ
「あぎゃああああぁぁぁぁぁぁ⁉︎ 分かってたけど‼︎ 分かってたけどおおおおおお⁉︎」
「わ、わぁー! ご、ごめんアルカ‼︎」
「許す! 許すから!」
「許すから手ェ離してぇぇぇぇ————!」
こうして、私たちは仲直り(?)をした。




