4-B 奮迅! 守るべきは己よりも!
五秒でわかる前回のあらすじ
「友人フラグ」
やっほー! 私、白雨存華! こっちは幼馴染みの百合ちゃんとすぐる! 今はハイジンっていうロボットに追いかけられてるので逃げているところだよ! ちなみに絶体絶命と紙一重だよ!
「よし二人とも! 私に考えがある!」
「なんだよ! 考えがられた聞こえるたりよっぽど奇妙だぞ!(?)」
「うわ……キショ。最悪」
「百合ちゃん……き、きっとすぐるはパニクってるんだよ! すぐる……ごめんよ……」
彼の手を引きながら、時折背後を確認する。私の足の速さのおかげで、ハイジンは徐々に遠ざかっているようだ。
「すぐる、そこのコーナー曲がったら敷地に入って身を隠そう!」
「好きにしてくれ」
「消極的ィ‼︎」
ちなみに、私の左脇に抱えられた百合ちゃんは、無言で親指を立ててこちらを見ていた。
「ところで百合ちゃん、なんで野球バットなんか持って来てるの?」
「……護身用」
「そっか……好戦的だね……」
インカーブで「アレ」の視界を素早く断つと、私はブロック塀を飛び越えた。
*
…………と、言うわけで俺だ。
え?誰って? すぐるだよすぐる。第3章のプロローグで語ってた俺だよ。
……わ、忘れたって? 読み直してこい!
まあ、忘れた人のためにもう一回説明しよう。俺は他人の敷地内の端……つまり、積み上がったブロック塀の角っこに居るんだ。そう、アルカと百合と一緒にな。
「すぐる、息しないで」
「首を締めるな百合! やめろマジで!」
てかなんでこいつもいるんだよ。アルカと二人っきりだったら、もっとアレやコレやできる…………この話は後にしよう。
まあ、百合には悪いことをしたと、思って無いこともない。
野球ボールを拾いに行ったきり戻って来なかった彼女を迎えに行く。たったそれだけなら、俺だけでも良かったんだ。だが百合が、自分も行きたいと頑なに言いだした。あまり自己主張はしない妹があんなに言うもんだから、俺は連れて来てしまった。
こんなことに巻き込まれ無くて済んだんだ。面目ない、妹よ。
「はぁ、なんですぐるがいるの。こんなことなら、アルカと二人きりになりたかった」
「意外とノリノリで安心したぜ」
「ふ、二人とも大丈夫? なんの話してるの?」
アルカがきょとんとして訊いてくる。「アルカ、私こわい」などと百合がほざきながら、猫のようにアルカに擦りつく。相手は本気で心配そうに百合の身体を摩った。面白いな、コイツら。
さて、現時点で分からないことばかりだ。なぜあの男が俺たちを狙ってきたのか。そして、アルカの手元にいる——超⭐︎絶⭐︎へんちくりんな、茶色い生き物。一体コレは何なんだ。この地球上にいる生物とは思えない形をしてるが…………
————ドスドスドスドス……
陰の向こうから、重い足音が聞こえた。
瞬間、三人の息が一斉に止まる。
アイツか?
俺は、彼女の目を見て確かめようとした。
……ずいっ
急にアルカが、ただでさえ近い距離から更に寄ってきた。
手は俺の胸の辺りの服を掴み、体重をこちらへ傾けてきた。おまけに、彼女の黒髪が首元に触れたので、ちょっといい匂いがした気がする。
————
————
————
————あ! これやばいです!!
俺はこれ以上意識しないように、明後日の方向を向き、背後の足音だけに集中することにした。ソレは時折止まりながらも、徐々に遠く離れていき、最後には聞こえなくなった。
——い、行ったか?
そう思ったのはアルカも同じだったらしい。目を合わせる。
うわ近。かわいい。むり。しんどい。
しばらく全身の沸騰が治らなかった。
「きっしょ」
百合が毒を吐くまで。
*
俺たちは音を立てないように茂みから脱出した。妹を担いでから、ブロック塀を登り、辺りを見渡す。よし、アイツの姿はない。このままいち早く戻ろう。
「アルカ、急いで学校まで——」
「——すぐる、百合ちゃん」
彼女は塀を降りると、動きを止めた。俺も続いて降りる。すると、彼女の表情がよく見えた。妙に、深刻そうだ。
「この子の持ち主はね、追いかけてくる人じゃないんだ」
「この子」とは、手元にいる茶色い生き物のことだろう。彼女はそれを、まるで至宝であるかのように抱えている。
「だから、今から本当の持ち主に渡しに行かなきゃいけない」
「…………俺たちは先に行けって言うんだな」
彼女は迷わず首を縦に振った。
「うんうん……じゃねーよ! なにさらっと自己犠牲発揮してんだよ! いい子ぶりやがって! 腹たつわ!」
「…………?」
一瞬思案顔をしたが、直後、彼女は目を細めた。
「いい子か悪い子かって言ったら、偽善だとしても私は“いい子”を取るよ。だから、お願い」
アルカは、“笑った”。
側から見たら、眩しい笑顔で。
瞳には、己をさえ欺き隠した、不安を抱えて。
百合が背後で「うっ」と声を漏らした。そうだよな、お前はアルカに弱いもんな。
——でもやっぱ俺、その顔嫌いだなぁ。
「……約束しただろ。俺とお前は親友だって。」
無意識に、口から言葉が溢れた。
「親友ってのはな、一蓮托生なんだ。どっちが欠けてもダメに決まってる」
「すぐる……そ、それはそうだけど……」
彼女の顔が曇り始める。その肩を、俺が掴んだ。
「だから逃げよう、アルカ。今は逃げるって選択肢があるから……」
————ドスンッ!
突如、彼女の背後から影が落ちた。
まずい。
今の声量で、聞こえたのか——? いや、ちょ、俺にしては結構抑えたはずだろ!
俺の好きな人の後ろで、灰色の巨体が、凶器を構えていた。
「おかしい。撒いたはずなのに……!」
アルカは瞬時に剣幕で低姿勢になる。
まさかコイツ、正面衝突する気じゃないだろうな……⁉︎
「アルカ! やめろ! 俺らが死んだらさ、その変なヤツも守るどころじゃなくなるだろ!」
「……っでも……!」
彼女は悔しそうに歯を食いしばった。わかる。お前の気持ちは十分わかる。でもお前がやられるのだけは、絶対に見たくねぇって。
——ガシャンッ! ガシャンッ!
目の前の大男とは別に、俺たちの背後から大きな音が聞こえた。
振り向けば、全く同じ容姿の、男がいた。
「まじか、二”人“いるのか……⁉︎」
「私達を見失ったから、もう一“体”を呼び出して探してたんだ……! まずいことになった……」
気味の悪いほどそっくりな男たちが、ジリジリと近づいてくる。ほとんど逃げ場がない。
必然的に俺たちは背中合わせになった。
ついに、彼らの片方が、ゆっくりと凶器を掲げ始めた。
「……コイツらが狙ってるのは、私とこの子だ」
アルカは、俺にだけ聞こえる声量で喋り始めた。
「今ならすぐると百合ちゃんは逃げられる」
「…………っ!」
俺の身体が無意識に震え始めた。
この自己犠牲の塊め。そんなの言われたら、余計に逃げられないんだよ。
「……百合、バットくれ」
「…………え」
「いいから」
問答無用で俺は背中の妹をおろし、妹の手から野球バットを奪い去った。
「オラッ——!」
そして後方へ、そいつの凶器を防ごうと両手を振りかざした。
「…………っ‼︎」
「お、おいアルカ!」
しかし彼女がそれを拒む。俺の腕をつかみ、首を横に振り、こちらへ来るな、と。もちろん俺もそれに抗う。
その間に大男の凶器は、彼の後頭部まで振り上がろうとしている。
「全く、いい加減にしろよ!」
取っ組み合いに勝ったのは俺だった。彼女を側方へ投げ飛ばす。その身体は驚くほど軽かった。いとも簡単に宙を舞ってしまった。彼女が見事な着地をしたのが確認できたので、右手のバットを構え、叫んだ。
「いい加減さあ! 俺を頼ってくれよ!」
「俺はもう、お前の苦しそうな笑顔を見るのは散々なんだ!」
その時彼女は、
俺の嫌いな顔をしていた。




