3-G 発見! 全ての幸福は我が物に!
五秒でわかる前回のあらすじ
「ええい、関城サマのお通りじゃ! 控え居ろう! \\ハハーッ‼︎‼︎//」
「…………あった!」
私は背の高い雑草を掻き分け、その中に腕を突っ込むと、片手の掌にフィットするそれを拾い上げた。
少し汚れた白。牛革。人類の技術はすごい。このボール一つだろうと計算されたデザインが施されているらしい。私達が普段使っている物がその形になるまで、一体どれだけの汗と涙が流れたのだろうか。
「——って、そんな場合じゃない。早く戻ろう」
ボールを右手から左手に持ち替え、空き手の汚れをズボンで払う。
しまった、服で拭いてしまった。うーむ、やってしまったものは仕方がない。
「あとで手洗いしておこっか……な————あ?」
そこで私の身体時計が止まった。
「こ、これは…………」
私の目線の先には。
茶色い物体が蠢いていた。
「のがぁぁぁぁぁ‼︎ なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ‼︎」
「ギギギギギ……」
「しかもなんか鳴いてるし‼︎」
パニックになるのを抑えて、すぐさまソレへ駆け寄った。
体格の半分を占めている茶色の部分は、なんと甲羅であった。表面は固くてツルツルしている。
その甲羅に隠れるように、六本の短い脚が覗いていた。つまり…………これは“生き物”であると、そう言葉が私の頭に響いた。
「しかし動かないな、どうし……あ、このキズはもしや」
その変テコ生物の茶色の甲羅の一部が、丸い形に赤くなっているを見つけた。おそらく何にかがぶつかったのだろう——
——そう、私の打った野球ボールの跡だ。
「わー! ご、ごめんよ! まさかこんなところにいると思わず……」
私はソレを両手で掴み、抱え上げてみる。
軽い。全体の大きさが小さいのもあるが、思ったよりも軽かった。まるで虫だ。中が空洞かのように、重さを感じないのだ。
私は驚きと共に、コレは丁重に扱わなければという謎の義務感に襲われた。
その、カブトガニっぽい生物をしっかりと腕の中に抱き————
————人影が覆っている方へ、振り向いた。
「……ソレハ……ワタシタチノコ……カエシテホシイ……デス……」
その言葉に、私の眼が鋭く応えた。
八切れそうな灰色のパーカー。黒い手袋に靴。フードの中から不自然に光る瞳。露出を避ける事で自然な「人間」を装う、コレは。
「やっぱりハイジン……! アンタらだけには絶対に渡さない‼︎」
私は腹の底から怒鳴った。
ハイジンがやってきた……つまり、私の手元のモノは……そう、これはいわゆる「天生物」というものだろう。
天生物とは、エルやマニさんやソレイルさんが住んでいる「天界」に生息する不思議な生き物のこと。
このカブトガニを含めた天生物たちは、アルカディアと一緒に人間界に来てしまっているようで、最期には、彼らによって「ハイジュウ」に改造されてしまうのだ。
それを阻止しなければならない……という使命があるのはエル達だけ。
じゃあ私は————この腕の中の生き物をハイジンに渡さない事、それが私にできるたった一つのこと。
だから、守り切ってみせる!
「カエシテ……クダサイ……」
「絶対ダメ! この子がハイジュウになるぐらいなら、私はエルとハグすらできるさ!」
するとハイジンは、左手にあたる部分を開いた。その中に、光の玉が現れた。それは一度に膨張し、弾け消えた時には巨大な斧が姿を見せていた。
フードの影から赤い眼が瞬き、機械的な音声が私の耳をつんざく。
『報告。裏切リ者ノ報告』
ギャラクアス語。少し勉強したんだ。これくらいの文章なら理解できるみたい。
彼は両手で自分の身長ほどある斧を頭上に振りかざした、その直後————
————コンクリートの道路が叩き破られた。
反射的に私は後方へ飛び退いていた。
地面には穴が開く。ほとんどの破片が宙を舞い、四方に音を立てて落ちていく。
こんなものをまともに受けたら、たまったもんじゃない。
『裏切リ者ヲ発見シマシタ。直チニ排除シマス』
「なら、私はとことん逃げ切るぜ!」
回れ右で住宅街を向き、私はそのまま直線上に走り出した。
「やーいやーいハイジンさーん! ここまでおいで! おしーりぺんぺんさんまのしっぽぉ!」
『腹立タシイガキメ』
案の定彼は私を追いかけてきた。よし、学校からは離れたぞ。これで天界の秘密は守ることができ————
「————おーいアルカ! なにやってんだよ!」
————お前がなにやってんだよ‼︎
どこからともなく現れた、聞き覚えのある声につい振り返ってしまった。
人影。二つ。親友。
その人たちは学校フェンス側からこちらへ走って来ると、なんとハイジンを素通りし、私の目の前までたどり着いた。
「オーマイフレンズ⁉︎ す、すぐる⁉︎ 百合ちゃん⁉︎ ななななんでここに……」
まずい、今ここにはハイジンも天生物もいるのに……! ええ、てかこれどういう状況⁉︎
「なんでって……お前が帰ってこないから様子見に来たんだよ。てか何してんだ。その変なキモいの何?」
「すぐる、うるさい」
「な、そ、そんなこと言ってる場合じゃないって!」
落ち着け、「私が」落ち着け!
良く考えるんだ! 確かにすぐるは状況を知らない。心配して来てくれたのだろう。いいやつだなあ、すぐるは。
んで、その後ろでは——
——ハイジンが斧を振りかざしている!
「っ——⁉︎」
声に出ない悲鳴。百合ちゃんのものだ。
「やばい!とりあえず逃げるよ二人とも‼︎」
「は⁉︎ な、なんだよアレ⁉︎」
私は左手を使って茶色い天生物を頭に乗せ、右手で少し日に焼けた腕を掴み、左腕で白い肌の華奢な身体をひょいと担いだ。そのまま、学校とは外側へ走り出す。
「ちょ、おい、アルカ⁉︎ 一体何なんだ⁉︎ 何が起きてる⁉︎ あいつはなんだよ⁉︎」
「今は黙れ! あとで話す!」
迷路のような住宅街へ駆けていく。
息がだんだん荒くなる。脈が速まる。足を遠く運ぶ。焦る。考える。
恐れと不安を誘き出す、予感という大敵に遭遇している。
募るのはただ単に——
これは、第六感。




