表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY3]裏切り者と第六感
23/64

3-E 破局! 過ぎる呑気は時待たぬ!

五秒でわかる前回のあらすじ

「あーあ、おまえのせいだ」



「ア〜ルカ」


 肩をポンと、背後から叩かれる。しかし私は振り向かない。

 机の上に広げた教科書とノートに張り付く。何があっても離れまいという強い意志を背中に表しているのだ。


「……なあ、アルカってば。遅刻したからってバカ真面目すぎないか」


 茶髪の男子——すぐるは、私の机の端に手をついて詰め寄ってくる。

 彼が言っているのは、私が今、一時間目の科目である数学の教科書を広げていること。授業と授業の間の休み時間になったのに、遅刻した分進んでしまった所を確認しているのだが、それは彼にとって異様な光景であるらしい。だから話しかけられているのだ。


 それでも私は無視を続けた。

 朝の出来事で気が滅入っているのもある。すぐるに悪いが、今はあまり話しかけてほしくはなかった。


「おい、聞けなかった箇所なんかちょっとだけだろ? なあなあ」

「すぐる」


 ここで私は手を止める。2B鉛筆をノートに寝かせると、今度は赤ペンを取り出し教科書をめくった。つまり、無視。


「うちは奨学金貰ってまで学校通ってるから、一回の授業料無駄に出来ないって、言ったこと無かったっけ?」

「いやそれは毎回聞いてるけど……何もそこまでしなくても」

「お構いなく」

「無理してると身体壊すぞ……ってのも、俺いつも言ってるなぁ」


 すぐるはどこか挫けそうな声で呟いた。そんな扱いを受けた彼は、更に姿勢を崩し、犬が甘える様に机の下から顔を出した。

 だがそれは恐らく返事を求めている様子。さて、ここで彼を止めなければずっと喋り続けそうだ。私は意を決して口を開く。


「ごめんすぐる、今本当に忙しいから後で————ってちょっと! なんちゅー顔しとんじゃ!」



 思わず吹き出してしまった。見まいと思っていた彼の顔が、不覚にも視界に入ってしまったのだ。

 すぐるの顔のほとんどのパーツは、鼻を中央に収縮されていた。口はアヒル口で上唇は鼻先にくっついている。眉毛も目尻も極限まで下がってしまっており、バケモノと見間違える人がいてもおかしく無いだろう——

 ——それを私は見てしまったのだ!


「……ぶっ、アッハッハッハッハ‼︎ ——ちょ、ちょっと待って‼︎ それは卑怯……! アハハハハ! やめてェ……お、お腹めっちゃ痛い……!」


 いつも吊り目でクールぶっている彼だったのもあり、その静止画は私の脳裏に焼き付いて離れない。

 私の全神経も笑うことだけに集中してしまい、爆笑しないわけにはいかなかった。


「————取った!」

「——え、なん————ピャ⁉︎」


 彼は目にも留まらぬ速さで、私の腋の下に指を入れてきた。


「————っ! ……やあああっ! ハハハハ! だめ〜っ! くすぐるな! くすぐるな〜っ! アハハハハッ! 反則だぁ〜!」

「フッフッフ……アルカ……構ってくれないと俺の指が動き続けるぜ!」

「ギャーーッ‼︎ ハハハッハッハ! 動脈が皮膚に近いところを通っている部位をくすぐられるので自律神経が過剰反応するぅぅぅ‼︎」

「そんなリアクションする奴初めてだわ」


 ——くっ……屈辱!


 堪えようとするのだが、あっという間にその触覚に負けてしまう。それでも負けるまいと、私も彼の手を追いかけるが、なかなか仕留められない。このままでは体力が無駄に消耗していくだけだと悟った。


「…………ちょっとすぐる」


 不意に、彼の後ろから声が聞こえた。


「何だよ今いいとこ————あああっ⁉︎ いっでえっ!」


 突然、すぐるが私から手を離した。なぜかその場でうずくまる。

 しかしそのおかげで、私はすぐるの背後に隠れていた、救世主の姿を崇めることができた。


「アルカ、大丈夫」


 身長が低めの、猫耳カチューシャをつけた女の子。


「——百合ちゃん! た、助かった‼︎」


 真顔だが、心配してくれている様子は伝わる。私は椅子から立ち上がり、百合ちゃんのそばに駆け寄った。


「えへへ、正義のヒーロー百合ちゃんだ!」

「えっ……その……うん……」


 彼女はなぜか頬を赤らめ、下を向いた。もじもじと手を動かしながら、その小さな口を賢明に開いた。


「あの……役に立てた?」

「立てたどころか助かったって! 百合ちゃん大好きだよ〜!」


 私は、その小柄な身体をぎゅ〜っと抱きしめた。あったかくて柔らかい。このまま眠りについても良さそうな語呂合いだ。

 ——ん? 私、もしかして彼女とハグをしたのは初めてだったかもしれない。

 そういえば、エルには出会ってから頻繁に殺されかけるようになったので、その癖がついてしまったのだろうか。まあ何にしろ、今の私はハグに対する抵抗が緩いというのは確かである。


「あっ……! そっ……! アルカっ……! そそそその行為はっ……! まままままだっ、わたしたちにはまだ早いというかっ……! あっ……! んっ……!」

「え? なんて?」


 百合ちゃんの声が小さすぎてイマイチ聞こえない。

 そんなことをしていたら、倒れていたすぐるがようやく起き上がった。


「ス……スネを蹴るのは止めてくれ……マジで痛いんだが!」


「自業自得だ! やい、この悪魔め! 召喚の魔法陣は消してやる!」

「自業自得。この愚民。インド象に踏み潰されて」

「え、そんないじり来んの⁉︎」


 不憫なすぐるは、大きくはっきりした声でつっこんだ。そのため教室中の生徒たちが一斉にこちらを向いてしまった。もうこれはすぐるが不憫すぎて逆にかわいそうになってくる。

 その時、私達の背後を、奇跡的に誰かが通り過ぎた。

 すぐるは、それを見るや否や、その人物に縋るように駆け寄った。


「鬱穂ぉー! なあなあ、百合がいじめるー!」

「えっ、何…………おれ死ぬの……?」


 目の下に大きなクマのある、その人物は、完全にすぐるの勢いに押され、戸惑っていた。


「いじめてない。アホ兄の自業自得」

「へー……そうなんだ……」

「違うんだ鬱穂! 違うんだよ! 違うんだって鬱穂ぉ‼︎」


 すぐるは、鬱穂くんの両肩を持ち、高速で前後に揺さぶった。


「へー、そぉ、な、んだぁぁぁ……」

「あかん、鬱穂くんの首が据わってない」


 彼の頭蓋骨がぐらんぐらん行ってる。

 私は鬱穂くんの首を救うべく、すぐるに話しかけてみた。


「あのねあのね、すぐる。パラサイトって寄生虫っていう意味なんだよ」

「なんの話していらっしゃるんですかアルカさん」

「んーとね、実はダニも寄生虫に含まれるんだよ」

「不思議ちゃん通り越して怖いんだが」

「コワクナイヨー」

「怖い怖い」


 するとようやく、すぐるが鬱穂くんの肩を離した。体の自由を手に入れた鬱穂くんは、少ししてからぼそぼそっと喋り出した。


「……すぐるが、お前と野球したいって」


 瞬間、空気が凍った。


「は?」

「えっ?」

「…………」


 凍ったにも関わらず続けて口を出したのは、すぐる本人だった。


「待て待て、なんだ急に……」

「言ってたよ。『俺中学入ってから遊べてないんだよぃ〜! せめて野球一緒にやりたいんだよぃ〜!』って」

「そんな言い方は一切してないからな⁉︎」


 顎をしゃくらせて喋った鬱穂くんに、すかさずツッコミを入れるすぐる。

 ……しかし、鬱穂くんってそういうキャラだったのか。なるほど、第一印象で人を決めつけてはいけないと今学んだぞ。


「……そうか〜! すぐるは構って欲しかったのか〜! かわいい奴め!」


 私は嫌味100%でからかいすぐるをどついた。

 すると彼は顔を真っ赤にし、尖った犬歯を見せて怒鳴った。


「黙れ! ちょっとかわいいからって調子に乗るなよ、この孤児(みなしご)!」


 その単語に、私はムッと口を一瞬紡いだ。


「孤児じゃない! 片親だっていつも言ってる‼︎」

「どっちも一緒だろ!」

「一緒じゃないって! ちゃんと辞書読んで!」

「うるせえ! 頭いいアピすんな!」

「してないよ! ツンツンあたま! 脳みそボウズ!」

「孤児! 野生児! お前の父ちゃんでべそ!」

「…………っ⁉︎」


 段々と腹が立ってきてしまい、私が今まで飲み込んでいたパンドラの蓋が開いてしまった。

 私は両拳をぐっと握った。

 歯を食いしばった。更に身体に力が籠る。


 そして粗く足を踏みながら、すぐるの目の前まで近づいて——



 ————私の右手が、すぐるの胸ぐらを掴み上げた。



挿絵(By みてみん)



「テメェもっぺん言ってみろ‼︎」



 瞬間、教室中が静まり返った。



 ————バゴッ



 私の拳が、すぐるの頬に刺さった。


 軽く、紅色に腫れた。

 よろけて椅子の背もたれに寄りかかる。


 痛覚より驚愕。それが彼の瞳に映り込んでいた。


 私はもう一度、右手を振り上げる。



「——ストップ、ストップ」


 目の前に、小さな女の子が飛び込んできた。


「百合ちゃん……?」

「アルカ待って。落ち着いて」


 彼女の言葉で、私は我に返った。

 さっきの衝撃の感覚が右手に残っている。


「すぐる、謝って」


 百合ちゃんが振り返ると、左頬を押さえたすぐるが立ち上がった。


 ——なんてことを。


 私は、一番最初の行動に、頭を抱えることを選択してしまった。


「ご、ごめんなさい……」


 しまった、やってしまった。私は愚かだ。


 私は親友に手を上げたのだ。

 それもただの言い争いだけで。相手だって本心で言ったわけではない事はわかってたはずなのに!


「ごめん……ホントに、ごめん……!」


 自分に対する怒りが、溜まりに溜まってきてしまう。喉まで出かかっている。気分が悪くなりそうだ。


「い、いや……俺も悪かったって————ぐっ」


 すぐるは、彼らしからぬ吃った喋りで謝ってきた。

 しかしなんだろう、なんか今、語尾に違和感が……



「——あっははははははは!」


 彼が突然、腹を抱えて笑い出した。


「ちょ、すぐる……?」

「わりぃ、あー、はははは! ヤベェ! 死ぬかと思ったぜ! 見て! これ冷や汗!」


 すぐるは前髪を上げて額を見せびらかしてきた。

 ……いや、冷や汗流れてないけど⁉︎


「ってーか、やっぱ切り替えすげーよ。すまん、つい笑っちゃったわ」


 すぐるは目尻の涙を拭い、こちらを見た。

 切り替えってのは、多分、今のガチギレアルカからパッシブアルカに早変わりした事を言っているのだと思う。


 少し怒ろうかと思ったのだが、私も釣られて口角が上がってしまった。


「……ったく、すぐるは! この能天気!」

「……よかった」


 百合ちゃんが、表情を変えずにほっと胸を撫で下ろした。


「ごめんね、百合ちゃんありがとう」


 彼女は少し笑ってくれた。

 するとその隣にいたすぐるが、笑いを堪えながら、背中を向け、自分の席へ戻ってしまおうとするのだった。


「…………しかし助かったわ。『あーちゃん期』のアルカに殺されるかと思った」


 それを聴くと身体が勝手に反応し、私はガバッと彼の体を止めた。


「待って! その話はよせ‼︎」

「…………こわ……何…………あーちゃんって何……」

「鬱穂は知らないよな〜、後でよーく教えてやるわ」

「ああっ! 絶対言わないでよすぐる! 唯一の黒歴史なんだから、コラー!」


 にやにやするすぐるに、ほっとした様子の百合ちゃん。そして、状況が全く掴めきれないまま眠くなろうとし始めている鬱穂くん。


 ……さて。今日も一日平和な日がはじまるのだ——


 


「——え、あのさ」



 突然別の角度から声がかかった。

 その声の主は、鬱穂くんだったらしい。



「……結局野球やんないの?」




 ………………。





「「……やります」」





 すぐると私は、ぴったり一緒に苦笑いをした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ