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2-I エピローグ
「——エルさん?」
白雨家の一室。本来はアルカの父親の部屋に、一人の少年が居座っている。
そんな彼に、扉を開けた少女は近づく。
「どうしたの?」
「アルカさん、すぐ寝てしまいましたよ」
「そっか。最近戦い続きだったから、疲れちゃったんだろうね」
彼の返答は、少女を満足させるものではなかったらしい。
彼女は無意識のうちに眉を潜めた。
「どうしてなんですか?」
「何が?」
彼は報告書を書き続けていた。既に数枚にも当たる情報を書き上げているらしい。
「——どうしてエルさんは、彼女をそんなに信用するのですか?」
ようやく彼は手を止める。
「どうして、だろうね——」
彼は、ペン先を見つめて微笑した。
ぽつりと、その先端から溢れ落ちるインクのように、その言葉は姿を表す。
「——何か、何か思い出せそうな気がするんだ」
「この世界を、僕たちの『理想郷』にしてくれるかもしれない」
彼の指が、その名前をなぞった。