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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY2]ささやかな疑惑
17/64

2-H 想定! 夢から覚めたその夢で!

五秒でわかる前回のあらすじ

「エルくんは天使軍なんだって! へー! 初めて知っちゃった♪」



 ——バラバラバラッ!



「…………はっ‼︎」


 何かの大きな音で、私は目を覚ました。

 わたしの手が置かれていたのは、学校で使う机。端の方に、見慣れた落書きがある。紛れもなく、私の机だ。

 私の重心が置かれていたのは、椅子だ。木目がとっても綺麗で新品な、いつもの私の椅子だ。


 ぐるりと見渡してみると、ここは、明らかに、私の学校のクラス、1年4組だ。黒板の前には、あの黒縁眼鏡の国語の先生が喋りながら、チョークを動かしている。

 壁を見れば、クラスみんなが書いた自己紹介シートと呼ばれる紙が並べ貼られている。その中には、きちんと私のものもあった。もちろん、将来の夢を書く欄には「大富豪」と書いてある。正真正銘、私のやつだ。


 紛れもなく、ここは我らが1年4組だ。そして、クラスのみんな、先ほどの事件が嘘だったかのように、異常なく動いている。居眠りしている人もいれば、熱心に先生の話を聞いてノートを取っている人もいる。


 ——教室に、戻ってきたのか……? でもさっきは教室の人達もすっからかんになっていたはずで……?


 思い出せるのは、エルと、マニと呼ばれる初対面の天使が口論していたところまで。もちろん、その後に足を使ってここまで歩いてきた、という記憶なんてない。


「えっと、大丈夫なのだ……?」


 しかめっ面だったであろう私に、小声で話しかけてくれたのは、銀髪をツインテールに結った女の子。

 彼女は確か、伏見那智(ふしみなち)さんだ。伏見が苗字で、那智が名前。どちらも名前っぽいのでたまに呼び方を間違えそうになる。私の前の席であるとともに、入学当初から、何故か袖だけが異様に長い、という謎の改造制服を着ていることから、私は密かに注目していた。

 私が目を合わせると、何故か彼女が屈み、床に手を着こうとした。


「えっ、何?」


 彼女の目線を追って、私も机の下を覗いてみると、そこには私の筆箱——お菓子の箱に輪ゴムを引っ掛けただけだが——の蓋が開いて落ちており、中身が床に散乱していた。


「おわっ……さっきの音はこれか……」

「ワタシ、拾うの手伝うのだ」


 そう言うと伏見さんは、余った制服の袖の中の手を器用に動かし、私の文房具を拾い始めた。


挿絵(By みてみん)


「わ、悪いよ。大丈夫だよ伏見さん」

「お構いなくなのだ! 困ったときはお互い様っていうのだ〜」


 彼女はキラキラとした笑顔をする。なんていい子なんだろう、なんて思っていた私は、ふとあることを思い出して、目線をずらした。

 そこで、すぐると目が合った。彼が心配そうな顔でこちらを見ていたので、私は親指を立てて照れ臭く笑ってみる。すると、彼はやれやれというように笑い返してくれた。


 よかった。前のことは、怒ってなかったみたい。

 私は、伏見さんに続いて机の下に潜った。


 けれど、本当にどうして、私は戻ってきたんだろう——



 ——ああ、そうか夢か。

 そうだ。今まで見たもの全部夢だったに違いない。そう考えれば、これまでの出来事全てに理由がつく。


「どうかしたのだ?」

「う、ううん! なんでもないよ」

「そうなのか! じゃあはい、多分だけど、全部拾えたと思うのだ」


 彼女が差し出したのは、私の筆箱だった。

 それを受け取ると、私は笑ってみせた。


「わ、全部拾わせちゃってごめんね。ありがとう、伏見さん」

「お構いなくなのだ〜! それにしても〜……」


 伏見さんはその細い目で、私の顔をじーっと見つめてきた。

 そして数秒後、私だけにギリギリ聞こえる声量で囁いた。


「ここ最近、楽しそうにしてるのだ。何かあったのだ?」

「え?」

「おまえ、入学したての時より、楽しそうなのだ」


 突然の告白に、少々戸惑ってしまった。

 きっと彼女なりの、こう……コミュニケーション方法、なのだろう、と考え直し、私はその話の波に乗っかることにした。


「そ、そうなのかな……? どんなところが?」

「え、うーん……」




「——あ、そういえばいつも元気だったのだ!」




 えへへ、と笑顔を返した彼女は、そっと自分の席に着いた。


「なあに、それ」


 つい釣られ笑いを溢した私も、先生にバレないよう、屈んだまま腰だけを上げてしまう。


「いづっ⁉︎」


 ただ、胸のあたりが急に痛んだ。


「ちょ……待った……これって…………」


 痛むのは——そう、肋骨。

 さっきまで、実はさっきからちょっと違和感はあったが、これは明らかに痛い。そして、この痛みには既視感があるわけで————


「やっぱ…………アレだよな」


 ……うん。

 こんな痛み方をする原因は——


 ——あの男の、スキンシップしかないわけだ。


「ああ…………夢じゃ……なかったんか…………」


 椅子に着席すると同時に、私は机の上に脱力した。



 その日、学校から帰ると、エルから聞かされた。


 私はあの時、戦いの中で魔力や体力をいつもより一度に多く使ったのだと。

 しかし、使い慣れてなかったにも関わらず、時間が経ったのに休まなかった。


 そのため体が耐えきれず、気絶してしまった——というのが現実。


 なんとも情けないことだが、学校の教室まで私を運んでくれたらしいエルには、本当に感謝すべきだ。




「…………で、これはどういうことなのだろうか」



 ナウ、ある日の下校後の我が家。

 リビングに入った私の目の前には、眼帯をした少女が、腕組みをして立っていた。


「アルカさん! お皿がつけ置きっぱなしでしたよ!」


 眼帯をした少女——マニさんは、ぷくりと頬を膨らませた。


「え、ああ、あの、今日は時間無かったから帰ったら洗おうと思って……」

「いけません! 長い時間つけおきしてたらカビが生えちゃいますよ! 今回は私が洗っておきましたが、次は気をつけてください、いいですね⁉︎」

「りょ、了解です」


 洗ってくれたんだ……マニさんって、なんだかんだ言ってめっちゃいい人なんじゃ……?

 いや、マニさんそれよりも!



 ——なぜここに居る⁉︎



「ごめんねアルカ。僕も断ったんだけど」

「エルもまだ居候続いてたんだ」

「アルカの家を見た途端、マニが聞かなくなっちゃって」


 エルは、ローテーブルに手を置き、本を読んでいた。表紙の文字は——読めない。またこれもギャラクアス語なのだろうか。しかも、テーブルにはまだ似たようなものが3冊積まれている。彼はこれを今日一度に読む気なのだろうか。暇かよ。


「アルカさん、手洗いうがいは?」

「し、しましたっ」

「よろしい。ああそうでした、洗濯物も乾いていたので取り込んでおきました」

「えっ、そんなことまでしなくても……!」


 私の仕事がなくなってしまう! と言ってみたが、マニさんは無視して台拭きを持ってキッチンへ向かってしまう。どうやら家中の掃除までしてくれているようだ。

 いや、えーっと……働き者にも程があるぞ⁉︎


「ごめんねアルカ。マニは本当に世話焼きなんだ」

「そうか……とっても優しい人なんだね!」


 ギャラクアス語の本が置いてある食卓も、よくみると水拭きした跡がある。

 彼は早くも一冊読み終わったようで、持っていたものを目の前から避け、積み上げられたそれらの一つを手に取った。


「うん、でも、あまりにも世話焼きすぎだから、僕らの間では『戦場のママ』って言われてるんだよ」


 彼は顔を上げて私と目を合わせると、クスリと肩を竦めて笑った。それに合わせて、髪束の流れに背いたアホ毛が、ぴょこっと跳ねて遊ぶ。

 私も釣られて、にへらと苦笑いした。

 その時、背後からスパンッ、と襖の開く音がした。



「誰が『戦場のママ』ですって——?」



 振り向くと、マニさんが片手には台拭きを、もう片方には————真っ黒な大鎌を手にして立っていた。

 

「ヒィッ⁉︎ マ、マニさん! あの、鎌だけはカンベン! うちモロイから……! マジ木造だからっ……!」

『エルさん! あなた本読む前にやることあるでしょう!』

『今日はマニがやればいいんだよぅ』

「ああっ! エルが火に油なようなことを言ってる気がする……!」


 頭を抱える私はお構いなしに、マニさんは鎌を振り回した。しかしエルは器用に避けたり、受け流したりする。


『当番制でないでしょうアレは! もうエルさんってば!』

『昨日はやったもーん』

『今 日 も や る ん で し ょ う⁉︎』


 ——あれっ?

 ギャラクアス語だ。和訳はもちろんわからない。だが、感覚で何かがわかる。

 今マニさんは、ただただエルに怒り、怒鳴り散らしているわけではなさそうだ。


『こらーっ‼︎ 待ちなさいエルさん! 』

「我不想干」

『めんどくさがらずにやりなさーい!』



 これは——世に言う、愛の鞭というやつだろう。

 それに気がついた私の頬が、ひとりでに綻んだ。


「……こんなに家の中がうるさいのは初めてだなぁ……ははははっ!」


 そんな騒がしい光景を、いつの間にか、どこか居心地良いと感じている私が大声で笑った。


 その日、我が家のリビングが消灯するのが、いつもより少し、遅くなった。





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