2-E 変身! ミラクルハイパージェットフォーム!
五秒でわかる前回のあらすじ
「よいこはマネしないでネ!」
説明しよう!
私、中学一年生、白雨アルカは、現在進行形で野球ボールの如く空中を後方に進んでいるのである!
「どういうこっちゃ⁉︎」
わからない。
「これからどうすればいいかわかんないし! てか飛び方も知らないし! 聞けばよかったー!」
私は完全にパニック状態のまま、どんどんと空へ飛んでいく。
「羽はあるのにこれじゃ飛べないんじゃ——ん?」
そこまで独り言をほざいてから、私はあることに気がついた。
……いや待てよ、と私は等速直線運動に身を任せながら腕を組む。
よく考えてみるんだ。今私は——飛んでいるんじゃないか⁉︎
その認識は、なんと私に正気を取り戻させた!
「う……うおおおおおっ!」
頭から吹っ飛んでいた状態だった私は、自分の羽に意識を集中してみる。すると、案外簡単にも羽は意志の通りに動いてくれる。
コツが分かればなんのその。これでもかというくらい、バッサバッサとそれを上下に振った。
「とまっ——止まれやぁあああ!」
闇雲に羽を動かし続けると、グルングルングルン、と体が縦に何度も回転してから、やっと進行方向に体が向いてくれた。
「うゔぁ」
少々酔った。
——しかし、回った余韻で足元を見た瞬間、その酔いを超える衝撃を得た。
景色が、まっすぐ平行に移動している。
足元にはタコハイジュウがいたが、遠くて小さなフィギュアに見えた。背中にある知らない体の部位から、風が進む感触が、ふわり、と伝わってくる。
「すごい……」
腹の痛さもすっかり忘れて、私はその景色に見惚れた。
——私、飛んでる!
絵本で見て、夢に描いたあの感じ。
少し怖いけど、体が軽くて、心地がいい。
私は両手をめいっぱい広げ、自分の背中の、もう一つ後ろの部位でも、風を感じた。
すごい! その言葉しか思いつかなかった。
この景色と、この気持ちを一個一個考えようとすれば、その全てが落っこちてしまう気がした。
ふと、私は自分が右手に魔力拡張器を握っていたのに気がついた。危ない危ない。あんなに念を押されていたのに、忘れてしまうところだった。
……もしエルの前で離していたら、自分がどうなっていたことか。
——ギィィィィン!
——ドォォォッ!
足元から戦争の音が聞こえてきた。
参戦すべきだろうかと考えてはみる。しかし、エルのこの行為が、私を逃す為なのか、はたまた戦闘を有利にしたのかすらわからない。
躊躇しながらも、私はハイジュウを挟んでエルと反対側に降り立つ。
——どすっ
地面に着地する時、階段の三段から飛び降りたような衝撃が。すぐ反応して屈伸したので、それほどダメージは受けなかった。
振り返ると、奴の背後を真近で見ることになる。
銀色のウロコから覗く赤い皮膚は、思ったより固そうだ。あとなんか、つぶつぶしているように見える。
「意外と固そうな体してるな……」
私は両拳を胸の前で構えた。左足を前、右足は後ろで両膝を軽く曲げる。
戦う、なんて小学生以来だ。しかもそれはただのケンカだし、相手はただの人間だった。こんな大きなタコを相手にする日が来るなんて、昼寝しても夢に出てこないさ。
ああ、机上だけじゃ分からないことは、この世にもっとたくさんあるのかもしれない。
そんな事を思っていた間に、巨大タコはその太い腕を地面に叩きつける。
バラバラッとアスファルトは抵抗も無く崩れた。そのまま赤い巨体が水平に引きずられてくる。
——ズガガガガガッ!
道路の破片を撒き散らしながら、こちらの方へ向かって来た——って、おいおい!
「だーーーーッ⁉︎ こっち来んのかよ‼︎」
反射的にダッシュで逃げる。私の自慢の足だけれども、さすがにアレを巻けそうにない、ということはすぐわかった。
高速で迫ってくる腕、その他にも頭上から二本、三本と降りかかって来た。
「ヒョエッ! ヒャッ! ほわーーーーッ⁉︎」
止まる、走り抜ける、また止まる。
思ていた以上に、自分の身体は重く動く。ここまでの激しい動きは久々だからだろう。頼りになるのは、かつての反射神経のみ。
そんな中、正面から迫り来る一つの腕が。
そうか、そういえば後ろからも来ているんだった。と、言うことは——
「やれることは、ただ一つ!」
ソレを感覚で、丁度いいところまで引きつける。
「とうっ!」
そこで地面を強く踏み込み、体を持ち上げた。ふわっと浮遊感。自分の赤いスカートが舞う。
それと一緒に高速で進むハイジュウの足が——
——つま先に引っかかった。
「オウッ!」
凄まじい速度で前転させられる。空中で二回転くらいすると、ドスッと背中から地面に落ちた。
思ったよりは痛くなかったが、敗北感が私を襲う。
「は……恥ずかしっ!」
私は不格好にヨレヨレと立ちあがった。
頭上を見上げると、エルは未だにタコの腕の切断に苦戦している様子だった。
しかしなんというか、わざとこちらを見ないようにしているような気がした……が、気のせいだろうか。
そんな具合で突っ立っていた時、何かが体に巻きついてきた。
「————⁉︎」
更に、自分の足が地から離れていくことに気がつく。
何事かと思い、自分の体を見下ろすと、赤くゴツゴツした皮を纏った長いものが、自分の腰から胸にかけて一巻きされていた。
——ハイジュウの腕だ! こんなに硬いモノだったのか!
「ぐっ……なんてこった……!」
抜け出そうとその腕を押してみるが、ビクともしない。
そうしている間にも、私の体はぐんぐんと上昇していく。
……まずい。背筋に不安と恐怖が這い上がる。
焦りに焦って、赤色の腕を何度か殴ってみるが、ゴツンゴツンと音を立てるだけで、ビクともしない。
感じたことのない吸盤の触感が、私の中でじわじわと恐怖に変わっていく。
——助けを呼ぶ? いや、そんな! エルは戦っているんだぞ! 足手まといにもほどがある!
「ぐっ……はっ……どうしよう……⁉︎ どうにかしなきゃ……!」
引き剥がす努力をしながら、冷静になるよう自分に言い聞かせる。だが、思えば思うほどパニック状態は悪化していくようだった。
——次の瞬間、私の体が急落下した。
「ぎゃあああああああアガサクリスティー⁉︎」
黒色のコンクリートがどんどん迫ってくる。
自分の腰にはまだ赤い物体が。抵抗や受け身は取れないようだ。
「待て待て待て! この高さはまずいよ! この高さはまずいんだってえええええええ‼︎」
加速する。風の音がうるさくなる。
私は、目を瞑った——
——ガツンッ!
終わった。
私はその音が聞こえた瞬間に直感した。
せめてこの世から去る前に、死因を天国に言い伝えよう、なんて思い、目を開けてみると。
私の体を締めていたタコの腕が、急に解けた。ついでに、私を上向きに投げながら。
「おわああああッ⁉︎ もう何がなんだかあああ⁉︎」
私はぐるんぐるんと回って真上に飛んでいく。
空中で一時停止。この後、私の体は重力に従って落下するだろう。
せめて羽を動かそうと、全身で力んだその時——
——すとん。
なぜか落下が止まった。代わりに、なにか柔らかいものに包まれた感触が。
はっとして辺りを見渡すと、私の左手が触れていたものは、真っ赤な布。それが巻かれているのが、天色の襟のついた、白生地のセーラー服であることに気がつく。
「まったく……世話が焼けるんですから」
ふわり、と視界の端でなにかが揺れた。見上げた瞬間、私の意識はそこへ吸い込まれる。
海のように真っ青な、艶のあるボブヘアー。
透き通った白い肌に日の光が差し込むと、翠玉のような、一つの瞳が輝く。
そして、もう一つの宝石は、白い眼帯に隠されてしまっていた。
一目でわかる。目の前にいるのは、圧倒的美少女である。
「と、ところで誰ッ——⁉」
「通りすがりの天使です。ほら、もたもたしている暇はないんですよ、白雨存華さん」
突然に名前を呼ばれてビクッとする。何故この謎の美少女が私の名前を、しかもフルネームで知っているのか?
そして、「天使」という言葉にも私の神経は反応を示した。視界の焦点をずらしてみると、真っ白な、光に透ける大きな翼が、彼女の背中から生えているのを認識した。
「ほら! 自分で飛びなさい! いつまでも誰かに頼ってばかりではいけませんよ‼」
少女が急に怒鳴り、抱えていた私の両足を離す。
「え、えっ、ちょお⁉」
もちろん、この、高い位置で空中停止している状態で足は地に着くはずがない。
私は反射的に、少女の腕に捕まりぶら下がる。落下にトラウマを受けている私を見て、少女は再び私を抱えた。
「ちゃんと羽を動かさないと空中でなんか止まれませんよ! 頑張りなさい!」
「は、はい!」
彼女のアドバイス通り、自分の羽をバサバサ上下に動かすよう意識を集中させてみると、足の裏に何の感触も無いまま少女の手から離れることができるようになった。
「で……できた……やったあ」
「はあ……」
少女がなぜか、深くため息を吐いた。
「いいですかアルカさん」
——シャキン。
突然冷たい音が聞こえた。と思った時には、視界の画面は既に変わっていた。
「……ひっ⁉」
自分の首元に、カーブ状の刃物——いや、現実では見たことがないくらい巨大な、鎌が突き付けられていたのだ。
こっ、殺される……⁉
「わかっていますか。ここは楽しく賑やかなお家や学校ではありません。『戦場』なんです」
彼女の目が私を捕らえた。思わず身震いしてしまうような気迫に押される。そんな私をよそに彼女は続ける。
「素人は戦場に立つべきではありません。覚悟がないのなら、今すぐ逃げなさい。その代り、二度と私たちと関わってはいけません」
その細い腕は、ゆっくりと大鎌を下ろしていく。
「え、あの」
「どうやら自分の立場がわかっていないようですね」
彼女は、私たちの斜め下方向を、左の人差し指で差した。
「まさか、あれらがただのガラクタにしか見えないのでしょうか?」
彼女が指差すそのエリアには————大量の、家々の屍。
私は、自分の明らかな愚かさに気がついた。
「私の——せいで」
私が、さっきただただしくじっていたあの時間。あの無駄な時間がなければ、救えた命があった筈。
それなのに自分は、状況の非把握という事実で言い訳することに加え、エルや目の前の彼女にまで頼り切っていたのだ。
「でも……できる気がしない。だって、エルみたいに力が強いわけじゃないし、空だって今日初めて飛んだし…………」
「戦ったこともないのに、できないと悔やんで逃げるつもりですか? 無責任ですよ」
ぴしゃり。
彼女の言葉は、私の頭をぐっと押さえつけた。
逃げちゃいけない。そりゃそうだ。見下ろせば悲鳴の聞こえない災害の跡。これを見逃したら、人間としてあまりにも残酷な行為であると、後に悔やむ私の姿が目に見える。
ただ、私には、この非科学的事件を解決する術があまりにもないのだ。
自分自身の無力さに、危うく怒り狂いそうになる。
「……アルカさん。あなたにヒントをあげましょう」
私の表情から返答を感じ取ったのだろう。彼女は突然、自分の履いている青いスカートをたくし上げた。
彼女の滑らかな左太腿が現れ、そこには私の右手にある物と全く同じ黒い箱——『エフェークオス』が巻かれていた。
それを私が見たのを確認すると、彼女はまた言葉を続ける。
「これの使い方は、『1,望む・2,かざす・3,3秒待て』です」
彼女は指を使い、単語に区切って話した。その優しい口調とは裏腹に、その後は私を、どこか険悪な目で見つめてくるのであった。
そんな彼女の視線にドギマギしていると、彼女が口を開いた。
「早くしないと、街が消滅しますよ。あなたが動かないうちは、何も始まらないのです」
私が動かないと、何も始まらない——
——その言葉が、私の中で。
懐かしい、とある声と重なった。
『——奇跡っていうのはね、あっちから勝手にやってくることはないんだよ』
あたたかく、包み込むような声。
はっとして、私はまず、手元を見た。
かすかに温もりのある、エルから貰ったエフェークオスの、黒く光るボディを見つめる。
『アルカが、何かをしないと絶対に起こらない。むしろ、なにも起こらない事だってある。わかるかな?』
——ああ、そうだ。
『でもね。アルカは、0.1パーセントの奇跡さえ起こせる子なんだ』
——すっかり、忘れてたよ。
「ありがとう、天使のお姉さん」
私はまず、エフェークオスに、力を『望んだ』。
『だから、この先壁にぶつかっても、決して諦める必要はない。アルカは、アルカが信じたことをしなさい』
私は、エフェークオスに、自分の手を『かざした』。
「私、絶対に逃げません! 自分と闘います。ハイジュウと戦います。それと——」
——私が信じるもの。私が、やるべきこと。
それは、既に決めていたじゃないか。
もう、私は二度と——
「二度と、誰かを悲しませない!」
私は、あの日の衝動を思い出した。
今回の挿絵は、“まろムロ“様に描いて頂きました!
アルカの熱い想いが力強く弾け飛ぶ、そんな素晴らしいイラストをありがとうございました!
まろムロ様のTwitterはコチラ→ https://twitter.com/Kuronau12




