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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY2]ささやかな疑惑
13/64

2-D 先生! 私の世界は今何処に!

五秒でわかる前回のあらすじ

「ニューアルってこんな難しい話やったんかーい! はーっはっはっはっはルネッ(ry」


「な、なんで……? みんなどこ……⁉︎」


 私はまた周りをキョロキョロ見渡した。

 人間以外はちゃんとあった。先程立ち上がっていた生徒の椅子は引かれたまま。教卓には、国語の先生がいつも持っている教材やプリントが入った籠だけが、ぽつんと置いてあった。


「人だけ、消えてる……?」


 唖然として、私は椅子を引いて立ち上がった。

 しんとした教室に、ガガガッという音が響いて、ほんの少し怖くなる。

 直後、自分の後ろに、何かの気配を感じた。


「…………?」


 振り向いてみると、半開きの引き戸の端に一瞬、チラリと紺色のスカートが見えた。


「あっ……! 待って!」


 私は咄嗟にドアへ飛びかかった。

 ドアをもっと大きく開けようとしたが、年季入った彼は引っかかってスムーズに右に行ってくれない。

 ガコガコ音を鳴らし、やっと開いた隙間から顔を出したが、その廊下に、人は一人も居なかった。

 私は顔を戻し、目の前の木造の引き戸を眺めた。


「どうしよう……」


 さっきのスカートは、完全にうちの中学校の制服だ。しかも、上履きの色が赤色だったのも見えた。つまり私と同級生ということだろう。

 あの子は、私と同じで偶然消えなかったのだろうか……?


「一体何が起きてるんだ……?」


 私は頭を抱えた。

 昨日と今日で、不可思議な出来事が起き過ぎている。

 私の頭の中は、すっかり混乱してしまっていた。


 ぐるぐるぐるぐる。落ち着かない。

 恐怖と不安もあるけれど、その中に、なぜか歓喜と期待も混じっていた。こんな怪奇な展開に、期待なんてしちゃいけない、そう私の中の一人が言っている。


 ああ、神さま。もしいるならば。

 私の世界を返してください。


 ——バキィ!


 冷や汗が頬を伝った時、背後で軽い破壊音が聞こえた。

 私は肩をビクッと震わせると同時に振り向く。教室を見渡すと、とある窓に目が行く。

 さっきまで窓は全て閉まっていた……筈だったが、今はひとつだけ開いることに気がついた。


 その窓枠には、鍵がなかった。


 さらに『鍵だったもの』は、教室の床に転がっていた。そんな強引に開けられた窓から、屈んでこちらへ入って来ようとする見覚えのある姿を見つけた。


「——エル⁉」


 空色に透き通った瞳。彼は、足をかけた窓枠から床に飛び降りた。私は驚きと安堵から、咄嗟にそこへ駆け寄る。


 ……ん? 待てよ。この人は今さっき、鍵が掛かってた窓を素手で開いて鍵を壊したって事かい?


 ——鍵ってなんだったっけ。


「……えっと……あ! そうだよエル! 学校のみんなが消えちゃったの! どうしよう! あとえっと、それで……!」


 私は身振り手振りで記憶を再現しようと試みた。

 しかし瞬間、今はそれをする状況でない、と判断する。目の前にいるエルは、いつもと違う、真剣な、そしてどこか焦っているような顔をしていたのだ。


「ごめんアルカ、説明は後でする!」


 彼は、そう言うや否や、素早く私の腰に両腕を回して来た。


「え、何——どぉっ⁉」


 私の両足が宙に浮いた……いや、エルが私の足を持ち上げていた。

 そして彼は、私の頭をさらに自分の体に寄せると、膝を曲げて、背中を丸める。


「何する気ィ——⁉」


 嫌な直感が脳裏をよぎったのも束の間。



 ——彼は、真上に跳んだ。



 ——ゴッ! ——ドゴォ!


 彼の背中は、案の定天井にぶつかり、それを破壊。さらに四階の天井まで破る。

 彼が当たる度に、私も小さく衝撃を受ける。私は内臓から声が出る感覚を味わった。


 こんなもんハリウッド俳優もびっくりだわ!


「ごふっ……うう……」


挿絵(By みてみん)


「あれ? アルカ大丈夫?」


 どうやら、はやくも外まで抜けたようだ。見下ろすと、我が校の屋上に穴が空いていたのが見える。

 いつの間にか、彼の背中には白い羽が生えていた。それが動く度、お互いの体が小さく上下に動く。


 ——大丈夫? じゃないよ。こちらとら下手したら脳挫傷ルートだったよ。


「もー……やるなら言っ——」


 ——言ってからやってよ、と言おうとしたところだ。


 ——ズガァァァン!


 私の目の前で、一瞬の強い光と共に、校舎全体が破裂する。


 エルに抱っこされている状態だったので、私はそれを顔だけを回して見ることになる。目に飛び込んできた情景は、その一瞬、私の理解を遮った。


 そこでは、さっきまで暴れまわっていたはずの赤い巨大タコが漏斗——通常のタコならスミが出るアソコ——を、学校の方に向けていた。その漏斗の周りは、相変わらず金属のウロコで覆われている。


 タコの漏斗が学校へ向いていること。

 さっきのエルの脱走のワケ。

 直前に、辺りが光ったこと。

 粉々になった、私がさっきまで居た校舎。


 状況を辿って、やっと理解ができた。


「あのタコが、学校を——?」

「ごめんね……これが終わったら、戻せるから」


 頭の上から、申し訳なさそうな、それでいて冷静さを醸し出す声が聞こえた。私は屑となった我が校を凝視しつつ、小さく頷く。

 その間も、赤いタコは、うねうねと腕を動かし続けて、町を潰している。

 よくよく見てみると、このタコ、頭の下がナメクジの足のように地面にへばりついている。なんだこの奇妙な生物は……お、イソギンチャクっぽいかもなぁ? そうだそうだ、イソギンチャクだ。この生物は、タコの足があるイソギンチャクだ!

 …………すいませんでした。


「うかうかしてたらいけない。アルカ、これ持って」


 エルは、右手で、ベルトの辺りからカチンかちん、と音を鳴らして何か外した。そして、私の目の前にそれを差し出す。

 それは黒くて、直方体の物体だった。一瞬ちょっと大きめの財布かな、と思ったけれど、そうではなさそうだ。どちらかといえば携帯端末のような、メカニックな物だと見て取れる。

 その物体の表面は黒い金属——なのかは知らないが、それっぽい光沢のある物質——で覆われており、一面はXの模様にくり抜かれていて、中から青色のプラスチックのような物体が姿を見せていた。

 そして、そのくり抜かれた部分の中心に、金色の謎のマークが書かれている、そういう物体だった。


 ——なんだこれ。


「なにこれ?」

「“エフェークオス”」

「は?」


 私が顔をしかめると、急にエルは私の手首を無理に掴み、掌をその物体の上にかざさせた。


「え、ちょ、何?」

「復唱して」

「ふ、復唱?」

『————』


 有無を言わずに、彼は異国の言葉を発した。

 突然のことで思考を停止していたが、なるほど、その言葉を復唱しろとエルは言ったようだ。ええっと、とりあえず従っておくか……


「……シ、『シネストメイト・サイメテオ』!」


 すると、機械の、青い部分が二回点滅し、ピロリ、と電子音を立てた。

 何事か、と不思議に思っていると。


「——うわおっ⁉」

 

 自分の体が、眩しい白い光に包まれる。

 数秒でその光が収まり、その後反射的に、私は手元に焦点を合わせる。先程まで着ていたはずの制服。それはその一瞬で、姿を変えていた。

 そう、昨日見たばかりの、あの真っ赤な袖。


「わっ……! 変身したぜよ……!」


 それと同時に、背後でバサッという音が聞こえた。

 顔を少し後ろに向かせると、黒い骨で出来た、悪魔の羽があるのが確認できた。


 ——すげえ……! これすげえよお父さん……! これで遂に特撮に出られるよ!


 と、私が目を大きく開けて感動した…………のも束の間。


 ——突然、自分の体に風圧がかかった。


「ごふうっ⁉」

「ごめんアルカ! ちょっと我慢して!」


 エルが、私を担ぐのを右腕だけに替える。

 何事かと思い、私は彼の肩の上から、彼の背後の景色を確認する。


 吸盤のついた、巨大なタコの足が、こちらに迫って来ていた。


「ひょえええええええええええええっ⁉」


 一振りでビルを粉々にしてきていた、あの太い足。それは私を恐怖のドン底に突き落とす。


「エルゥゥ! 後ろから来てる! 後ろから! たこ焼きにされちゃうよおおおおお⁉」

「大丈夫! 落ち着いてアルカ!」


 私は、エルのティーシャツに、縋るようにしがみついた。対する彼も、腕に少し強く力を込める。潰さないように配慮してくれているのか、ありがたい。

 ……などと考えていたその時である。タコの足が当たるか当たらないかスレスレのところで、エルの背中から生えた羽が反り返った。


 ——ぐるんっ


 その一瞬、彼と私は縦に一回転した。


「へ——⁉」


 しかし、それだけでは終わらない。

 横へ。下へ。上へ。グルングルンと、回るわ回るわ。

 それを追う八本の足は、焦るようにこちらだけに集中し始める。比例して、エルの動きもより俊敏に、激しくなる。


「いぎいいいいあああああああああ!」


 私は振り落とされてたまるか、と根性でエルの体にガッツリしがみついた。

 しばらくすると、彼は直線方向に飛ぶようになってくる。

 助かった、動きが弱まった。そう気がついた時、再びエルが、異様に落ち着いた声で話した。


「アルカ、いい? 今から、アルカのことをハイジュウの向こう側に()()()からね」

「うん————は?」

「これ、持って」


 彼は、私の掌に、先ほどの黒い機械を再び押し付け、そして握らせてきた。

 なんだ、そうそう、エフェークオス、だっけ?


「何かあったらこれ使って。えっと、色々と便利だから」

「説明下手じゃない?」

「とにかく、絶対に、離さないで」


 一瞬、エルと機械のどっちを? と思った私はもう頭がおかしかったと思う。もちろん、彼が言ったのは、機械を離さないでということである。


「じゃあ、いちにのさんで行くから」

「——いや待って⁉落ち着こうかエルさん⁉ きっともっといい方法はあるはずさ⁉︎」


 彼は、私の言葉を聞かず、羽を数回閉じ、急降下する。

 そうして、赤い屋根の上に足をついた。


「いち!」


 彼は力強く軸足を踏み込む。


「にの!」


 そして、これまた強く、左足を前に出す。


「さん!」


 彼のかけ声と共に



 ——私は一直線にぶっ飛ばされた。



「どわあああああああああああああああああああああっ⁉」


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