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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY2]ささやかな疑惑
12/64

2-C 突撃! となりの野獣さん!

五秒でわかる前回のあらすじ

「同棲」


 時は、午前十一時三六分。


「よぉし、後一時間で給食だぁ」


 私は椅子に座ったまま背伸びをした。


「……なんでか疲れたなぁ……」


 そして、両腕を机に置き、その間に顎を置いた。

 頭を横に倒し、完全に脱力をする。


「アルカがだらけるなんて珍しい」


 不意に背後から声がした。私には声の持ち主が、目を瞑っていてもわかった。


百合(ゆり)ちゃん……私次の国語で寝ちゃうかも……寝てたら起こしてぇ……」

「えっ」


 彼女はぱたぱたと足音を立てて私の前方に移動した。


「……具合悪いの?」


 私がやおら顔を上げると、心配そうに私を見下ろす、栗色の瞳があった。


「ううん、なーんか最近色々あってさ」


 私は再び顔を腕の中に埋めた


「……ふうん」


 彼女は興味なさそうに息を吐いた。


「色々って?」

「んー、まあほら、天使と悪魔でハイジュウがどーこー……」

「え?」

「あっ」


 慌てて口を噤む。危ない、うっかり喋ってしまうところだった。


「…………」

「なあアルカ」


 すると突然に、すぐるが首を突っ込んできた。

 この二人、夜咲(やざき)(すぐる)夜咲百合(やざきゆり)は、似てない双子の兄妹で、同時に私の幼馴染みである。


「お前、最近なんかあった?」

「どっ⁉」


 見透かされたように感じ、びっくりして上体を起こす。


「な、なんだそれ……なんでそんなこときくのさ」


 私は頬杖をついて、彼らから視線を逸らした。

 そこへ、すぐるが顔を覗かせてくる。


「近頃疲れた顔してるからさ。なんか気になっただけだけど」

「え、ええ? いやぁ、何もないよ? 疑いすぎでしょ」

「そうなのかー?」


 すぐるは腰に手を当てて私を見下ろす。

 彼はツリ目気味なので、どうにも睨んでいるように見える。少し怖い。


挿絵(By みてみん)


「だって、いつもお前は犬みたいにいくらはっちゃけても体力持ってるのに、今日は異様なほど疲れてんじゃん」

「そ……⁉︎ そ、そうかなぁ……⁉︎ そういえば! 今日はいっぱい走ったっけ! あ〜だからかぁ! ははっ!」


 くっ……鋭い奴め……! いや、大丈夫。天使や悪魔など彼らには架空の生物でしかないわけだし、こちらが提供しない限り、突き止められることは無いだろう。


「…………ねえアルカ」

「な、なに?」


 百合ちゃんが、カチューシャを弄りながら、少し息を吸った。



「何か、隠してない?」



 彼女の瞬きと同時に、国語教科の先生が扉を開けた。



 国語の授業。

 あー、なんていうか。


 もの凄く眠い。


 私はなんとなく先生の話を聞き流し、板書が始まればそれを写す作業をしていた。


 横をチラリと見ると、百合ちゃんと目が合った。瞬間互いにピクリとする。

 視線を手元に戻し、板書の続きをノートに写す。


 さっきの質問。私は笑って誤魔化した。曖昧な返事で。しかしながら、長年の付き合いである二人には、見抜かれてしまっていたように思う。


 ——悪いことしちゃったかな。


 無言で遠くにいるのに、二人の間に気まずい空気が流れてしまった。


「あー、このね、主人公が万引きするというところねぇ、先生も子供の頃…………」


 そこへ、助け船がやってくる。

 国語担当の先生が、黒縁眼鏡をクイっと上げ、前髪を手で撫で整えた。

 さあ、来たぞ、先生の雑談。

 私はこの時間を「妄想タイム」と呼んでいる。この時間は『カッコいいものを考える事』に使うのだ! はーっはは!


「ふひひ……」


 私は、先ほどの嫌なことを振り切るように、国語のノートの一番後ろのページをめくった。そこには、小学生の時から積み込まれてきた、落書き達が勢ぞろいしていた。


「眼中……聖玉……グラビトン……」


 空気しか出さないようにして、独り言を呟く。


「……あ、グラビトンかっこいいな……てかグラビトンって何だっけ……」


 頬杖をつきながら、ノートにメモしていた、次の瞬間だった。



 ——ゴオオオオオオオッ!



 窓の向こう側から、大きな地鳴りが聞こえた。

 そして、数秒して、床が縦に大きく揺れたのだった。


「がっ……ああ⁉︎」


 ——ずれた! グラビトンがグラZになっちゃったじゃねえかおい!


 そんな冗談は置いておき。

 はっとして見上げたのは、窓の外。

 学校から住宅路を超えた、ショッピングモールの向こう側。


 何か、木のようなもの……いや、なんとも言えない、大きなものが蠢いているものがそこにあった。

 私の焦点は、それから背くことが出来なかった。


 うねうね、うねうね。


 それは、沢山の吸盤を付けていた。


 どすん、どすんどすん。


 それは、赤色をしていた。


 くるくるくる。


 それは、八本あった。



 ——それは、紛れもなく、『タコの足』だった。



 言うまでもなく、すぐに教室中はパニックに襲われた。

 生徒達は自分勝手に叫び、席を立つ。隣の教室からも女子の悲鳴が聞こえる。


「皆さん! 静かに! 落ち着いてください!」


 先生はそんな風に叫んでいたが、彼女自身も、腰が抜けているようだ。教卓に手を乗せて、体を支えていたのがわかった。


「あ、ハイジュウだ……」


 恐らくこんなに冷静なのは私だけだろう。

 もしハイジュウでないとしても、エル関係だということは、はっきりわかった。


 しかし…………どうしよう。

 今、私は学業中だ。ここで悪魔になって目指せ世界平和! なんてやりだしても、学校中がさらに大混乱に陥るだろう。


「まあ、それはそれでちょっとカッコいい気もするケド……」


 いやいや、だめだ。天使や悪魔の存在を人間に知られたら、処刑されるんだっけ。

 これはヒーロー気取りする場合ではない。


 ……あれ、というか!

 その前に羽の出し方知らないじゃんか⁉


 肝心な事を忘れてた。昨日あれだけエルから天界の事を聞いていたのに、それだけ聞いていなかった!

 護衛してもらう前に自衛ができないじゃん!


「ど、どうしよ……私としたことが……もはやこんなところで詰むなんて!」


 そう頭を捻っている間にも、巨大なタコは、その滑らかな動きで、町を破壊し続けている。これで自転しだしたら最高だな。

 おや、よく見たらこのタコ、頭から足が生えてるじゃん。変なの。

 これが本当の頭一個抜ける、だな!


 なんて呑気に考えていた時。


 そのタコの上に、一本の白い光の縦線が現れた。

 気のせいかと思ったが、それは円形にどんどん広がって行き、こちらにも近付いて来た。それも、かなり速いスピードで。


 逃げられる余裕は、無かった。

 瞬き一つするうちに、教室中はオーロラ色に染まってしまった。

 あまりにも眩しかったので、私は手を目の前にかざし、目を瞑った。


 その一瞬、強い風が吹いた。



 どれくらい経っただろうか。

 しばらくの間、無音の世界が続いたが、遂に眩しさが収まった。

 私は恐る恐る片目を薄く開けた。


 ——ドオオオオオン!


 地響きが聞こえた。

 私は手を下ろし、両目を開いた。

 窓の向こうでは、まだあの巨大タコが動いている。


 ただ、何か違和感があった。


 私はふと、辺りを見渡した。


 何も変わっていない、と、一瞬でも思っていた教室には。




 人影一つ、見当たらなかった。




「——へ?」



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