《5》
気分を新たにするため、シャワーを浴び、着替えてアパートを出た。
近くには小学校や高校がある。道を学生が歩いている。そりゃあそうだろうと自分でも思うが、朝の代官山に高校生や小学生が歩いている様は不思議な光景に思えるのだ。
住人がいるというのが、しっくりこない。自分も住人になったのに、それでも不思議なのだ。
そして通勤者がちらほら歩いている。
こちらも不思議とハイセンスな人々に見える。みんなブランド物の服や靴を身に付けているのだろうか。
区民センターがあり、トレーニングジムが九時から解放されていて、老人や外国人がドアに吸い込まれていった。その建物の前をフレンチブルドッグを連れた人がてくてくと歩き、ロードバイクが颯爽と追い抜き、はっと気がつけばとんでもない豪邸があって、そこから中年男性が出てきて車に乗る。
だからどうしたというわけではないが、今まで田舎で過ごしていた朝とは違う空気と時間が流れている。
コンビニに寄れば、ランニング中の金髪の外国人が水を買いに来ていた。
自分の知っている朝の風景と、どこかが違う。
なにも買わずにコンビニを出て、ブラブラ歩いた。音は聞こえるし人はいるが静かである。
不思議だ。
床屋がおしゃれだった。おしゃれなカフェがあり、朝食にエッグベネディクトやらクロックムッシュやらを食べらるらしい。
最近よく耳にする食べ物だが、実際に朝のカフェで提供している店を目の当たりにしたのは初めてだ。
「……」
今の感情の名前を、大輔はやっと見つけた。
居心地が悪い。
この街に、自分は拒まれている。
撥水加工された布に弾かれた小さな水の粒。
体が震えてくる。孤独だ。孤独。孤独。
そうだ、孤独だ。
けれどこれは良い孤独だ。
知っている人物に囲まれている上での孤独より、ずっと健康的な孤独なのだ。
孤独で当たり前。
「撥水加工撥水加工」
気を取り直し、勇気を持って店に入ろうと決めた。
が、やはりやめた。
おしゃれすぎる。三日も着っぱなしの服では入れない。
大輔はブラブラ歩きを続け、パン屋で焼きたての惣菜パンとクロワッサンと牛乳を買って帰路についた。
「そろそろ米が食いたいな」
七つに曲がる道の、三つ目の角に差し掛かった時だった。
向かい側から素晴らしいシルエットのスーツを着た、銀縁眼鏡の青年が歩いてきた。
昨日のエリートだ。
見知った顔が歩いてくるので、大輔は思わず会釈をしてしまった。
するとエリートの青年が眉を潜めた。
けれど、その人は会釈を返してくれた。
撥水加工。
水が染み込む。