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叶うことなら、もう一度あなたと  作者: 瀬尾優梨
巡りゆく先にあるもの
4/13

戦士デュークと守谷斎

後半スタート

温度差注意

「ジークベルト、リエ様から離れるな! ベン、おまえは結界を張っていろ! サマンサとユーフェミア、最後までリエ様のお供をしろ!」


 降り注ぐ怒号。剣と槍の嵐。

 デュークは巨大な盾を構え、襲いかかる猛攻を食い止めていた。

 デュークが立っているのは、王城の狭い廊下。彼の巨体と身の丈ほどもある剣を扱うにはやや不利な地形だが、仲間を後方に逃がし敵の攻撃を一身に受け止めるという今の作戦では、左右を壁でふさがれているというのは逆にありがたい。


 後方の階段の途中で弓をつがえていたサマンサが振り返り、絶叫の響く廊下でデュークの名を呼ぶ。


「デューク! あなたもちゃんと来るのよ!」

「わかってら! 早く行け、サマンサ!」

「こんなところでのたれ死んだら、一生恨んでやるんだからね!」


 サマンサの隣にいた小柄な少女もそう叫び、階段を駆け上がっていった。

 これでいい、とデュークは薄く笑って巨大な剣で敵の槍をへし折る。

 たとえこの廊下で自分が死んでも、他の皆がちゃんとリエを女神の間まで送り届けてくれるなら。


 ……だが、ほんの少しだけ淋しく思う。

 リエが常々語っていた、平和な国。

 人々の負の感情ばかりが渦巻くこの世界に飽き飽きしていたところだ。かなうことなら、リエが生まれ育ったという世界を見てみたかった。

 リエ含む、共に旅をした五人の仲間と共に。


「っ、この裏切り者め!」

「リエ様をどこにやる!」

「てめぇらに教えるわけねぇだろ!」


 デュークは吠え、喉を狙ってきた剣を払い、逆に敵の首を剣で切り裂いた。

 ……平和な世界で育ったリエは、人の死を見るのを嫌がっていた。

 鮮血を浴びつつも笑うデュークは、屈託のないリエの笑顔を思い出して剣を握り直す。


 もう少し、もう少し耐えればいい。

 サマンサがいれば遠方からの攻撃にも対応できるし、負傷してもユーフェミアの回復魔法があれば傷は癒える。ベンの防護魔法は完璧だし――何より、リエの側にはジークベルトがいる。


 ふと、目の前に銀の刃が迫った。

 デュークが気づいたときには、もう遅い。


 ――喉を切り裂かれ、巨体が傾ぐ。デュークを倒したことで敵は沸き立ち、廊下の奥へとなだれ込んでくる。


 ……リエ様。


 あなたは、俺の妹のような存在でした。

 デューク、と呼んでもらえることが、どれほど嬉しかったか。

 あなたに頼りにされて、どれほど幸せだったか。

 口べたな俺では、きちんとあなたに伝えられなかったですね。


 どうか、ご無事で。

 俺は最後まで、あなたを……守りたかった……














 守谷斎もりやいつき、六歳。


 彼はその日、運命の出逢い――いや、再会を果たした。


「ほーら、いっくん。前から言っていた理絵ちゃんよ!」


 そう言って隣の家に住む叔母が、嬉しそうに乳飲み子を抱える。

 彼女の腕には、生まれて数ヶ月といった赤ん坊が抱かれていた。腹一杯になったばかりなのか、知らない家に来てもすやすやとよく眠っている。


 斎は何も言えず、赤ん坊の顔をじっとのぞき込んでいた。


 理絵ちゃん。

 隣の家に生まれた女の子。

 斎の従妹。


 りえちゃん、と赤ん坊の名前を呼び、震える手でそうっと柔らかい頬に触れる。

 知っている。

 彼はこの子を、知っている。

 ただし、彼が知っている彼女はもっと年を取った――大人の女性だったが。


 リエ様、と巨体を持つ男が呼んでいる。

 ああ、その男は。今の自分とは全く似てもいないその男は。











 その日、斎は全てを思い出した。

 彼の前世を。

 どのようにして息絶えたのかを。

 六歳児にとって、あまりにも衝撃だった。


 斎は知っている。

 生まれて間もない従妹が約二十五年後、どういう経験をするのか――否、「どういう経験をしそうになって、せずに済むのか」を。


 ならば、斎にできることは何なのか。


「……おばちゃん。おれ、りえちゃんをまもるからね」


 気がつけば、叔母にそう宣言していた。


 りえちゃん。リエ様。

 今度こそ、あなたを守ります。

 あなたが俺の隣から飛び立っていく、その日まで――

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