07 入学前の不安
すみません、現在諸事情によりとても忙しいので、次話は1日遅れて投稿します。ご了承ください。m(_ _)m
────オーグスディアン国立魔術学院。
それは、魔術を極めんとするものの登竜門であり、世界で最高峰の魔術育成機関。
学院は、世界中に優秀で多様な魔術師を排出している。
他の大陸に赴き、新しく魔術学院を創立した者。
冒険者として活躍し、世界中に名を馳せる者。
学院に残り、先達の研究者と共に研究に勤しむ者。
世界中の魔術師に、「出身はどこ?」と聞くとするならば。
故郷ではなくオーグスディアン国立魔術学院と応える。
オーグスディアン国立魔術学院を卒業した事が、一種のステータスになる。
学院を卒業した者達は、それを誇りに思っているという証左である。
今では世界にはいくつもの魔術学院がある。
だが、真に高みを目指すものは故郷を出て、遠路はるばるサーグまでやって来るのだ。
◇◇◇
さて。
オーグスディアン国立魔術学院の入学者受付期間に入った。
入学者受付期間とは何か。
まず、この世界にも一年度、という概念がある。
入学式は4月に行われる。
即ち、9月から年を跨いで3月までが入学者受付期間となるのだ。
この受付期間に入学申請をすると、2月にある入学試験を受けることが出来、めでたく合格すれば入学が許可される。日本と同じだな。
その他にも、魔力量の測定や適性検査を受けることが義務付けられている。
これについては、申請する時は学院に直接申請書を届ける必要があるのだが、その時に一緒に検査を受けなければない。
だが、計測の結果によって入学の合否が決まる、という訳ではない。
あくまでも、入学した後の育成の方針やクラス分けなどの参考として記録している。
そして、俺ことファルシクス・ティラニットは、仕事が山積みのファーゼスに代わり、ミラと一緒にオーグスディアン国立魔術学院に向かっている。
移動は馬車。
(意外と揺れないんだな)
馬車には初めて乗るのだが、あまり揺れないことに少し感心した。
移りゆく周りの景色を眺めていて、道行く人に不安の表情を浮かべている者は誰一人居なかった。
そうやって周りを見ていて、分かったことが一つある。
往来の人の中に、統一されたデザインの服を着ている者が沢山いる。
恐らく、オーグスディアン国立魔術学院の学生なのだろう。
皆生き生きととしていて、ザ・青春という感じだ。
程なくして、オーグスディアン国立魔術学院に到着した。
俺の他にも、入学を申請しに来た人が沢山いる。
オーグスディアン国立魔術学院は、とてもデカかった。
サーグの中では、恐らく王城に次いで大きいだろう。
遠目に見ると、壁などはコンクリートのような素材で出来ているのが分かる。
……流石に全部大理石、とかないよね?
「ファル、この学院の柱や彫刻は全て大理石で出来てるのよ。絶対に暴れたりして壊したらダメだからね」
ミラがとても怖いことを言っている。
顔は笑っているのだが、目が笑っていない。
実は、オーグスディアン国立魔術学院に行きたい、と2人に相談した時、ミラはオーグスディアン国立魔術学院の出身だということを聞かされた。
「あそこはとてもいい学院よ。魔術を知り、魔術を極めるにはとてもいい場所よ」
学院での出来事は、今でも昨日の事のように思い出せる、と明後日の方向を見ながら呟いている。
「……なぁ、昔、学院で魔力を暴走させて、校舎が半壊しt────」
「ちょっと今からOHANASHIしましょう?」
「……ッ!…………ッッ!?」
あぁファーゼス、おいたわしや。
これは、ミラの得意な魔法で、風を操り相手にまとわりつかせて動きを封じる、敵を捕獲するのに相性のいい魔法だ。
それを、ファーゼスの顔に向けて使っている。
ミラが愛用する、ファーゼス折檻用捕縛魔法だった。
「ごめんねファル、この話の続きはまた今度ね!うふふふふふ!」
「…………ッ!……ッ、……ッ!?」
「えいッ!」
「………………」
あの、ミラさん。目が笑ってないですよ?
完全に意識を失ったファーゼスは、ミラに担がれてどこかの部屋へと連れていかれる。
ここから先は、もはや知る必要のないことだな。
ていうか知りたくない。
その事を思い出し、ぶるり、と体が震えた。
もしかしなくても、魔力の暴走で学院を半壊させたのは、ミラなのだろう。
万が一にもないとは思うが、気をつけないと……。
そんなことを考えていると、申請書を提出し終えたミラが戻ってきた。
どうやら、思い出していた間に出してきたらしい。
「懐かしいわね……。あの頃と何も変わってないのね」
また思い出して感傷に浸り始めたので、周りを眺めてみる。
ここには、俺のように7歳から入学しようとしているもの以外にも、10歳くらいの子どももいたりする。
入学出来る年齢に上限はないのだが、どうやら入学しようとしている大人は居ないようだ。
子どもに混ざって大人が勉強するのもシュールな話である。
入学希望者がたむろしている所を在学生や研究者たちが時々通り過ぎていく。
そのほぼ全員が、入学希望者をちらりと見る、もしくはじっと眺めてから去っていく。
おおかた、品定めでもしているのだろう。
それはいいが、多数の視線に晒されて怯えてるじゃないか。
あまり感心できない事だが、その保護者が庇ったり睨み返したりして撃退しているので、口を挟むことでもないのかな?
俺も何人かには観察されたが、そんなものは無視だ無視。
だいたい、俺なんかを見定めてもいいことは何も無いぞ。
なんたって魔法が使えないんだからな。
そうこうしているうちに、事務所と言うべき場所から1人の男が出てきた。
細身だが筋肉質なので、一見して鍛えていると良くわかる。
着ている服も、俺のイメージしていたローブ姿ではなく、サラリーマンのようなワイシャツに黒のズボンを履いていた。
ネクタイをしっかりと付けて、フレームのない細身のメガネまで掛けている。
そのサラリーマン然とした男は、咳払いをしてから、よく通る声で話し始めた。
「えー、こほん。入学希望者の皆様、及びその保護者様。本日は御足労いただき誠にありがとうございます。長旅でお疲れでしょうが、このまま説明することをお許しください。それでは、まずこれから行う魔力計測と適性検査についての説明を行います……」
検査のやり方や気をつけることなどの諸注意をすべて話し終えた男、クルス・ローベンは「ご静聴ありがとうございました」と言って一礼した。その所作一つ一つが流麗で、見た目も相まって俺から見てもかっこいいと思った。
……おい、ご婦人たち。目がハートになってるぞ。
周りから、「あの人よりもカッコイイわ!」「是非、うちの娘と婚約を……!」「あの人が天に召されて早数年、これは運命の出会いに違いないわ!」などといった声が聞こえてくる。本当に狙っていそうで怖い。
ミラは、と思って顔を見たが、顔を思いっきり逸らしていた。
まさか、ときめいちゃった、とかそんなことはないだろうな。
まぁ、ミラもファーゼスも毎日イチャついてるから問題ないか。
「それでは検査を行いますので、先程お渡ししました手元の札の番号が呼ばれたら検査室に入ってください」
手元の札、というのは、説明している時に全員に配られたものである。
数字しか書いてないのでわかりやすい。
俺の番号は33番。
全体で36人なので、ほとんど最後だ。
これでは、結構待たなければならないだろう。
そんな時だ。
「あら、あなたはミラじゃない。久しぶり」
「……ホント、久しぶりね。アンリ」
「元気にしてた? 今でもファーゼスとラブラブなのかしら」
「……そうね、毎日愛を確かめあっているわ」
「そう、それは良かったわ」
1人の女性がミラに話しかけてきた。
話を聞くに、旧知の仲なのだろう。
だが、ファーゼスを知ってるし、ミラは気が引けているようにも見える。何があったのだろうか。
「…………」
アンリ、と呼ばれた女性の隣には、1人の女の子がいた。
射干玉色の髪に、金色の瞳。髪は腰まで伸びており、外見的特徴はアンリをそのまま小さくした感じ。だが、アンリはお淑やかな垂れ目だが、その女の子はツリ目に近い。
現在、その子に見つめられている。ぼーっとしているように見えるが、俺を見つめる視線には強い意志が込められている。
……なぜ俺は睨まれているのだろうか。
「ほら、ミア、挨拶をしておきなさい」
「……こんにちは」
どうやらこの女の子はミアというらしい。
では、そのミアちゃんはなぜ俺をこんなに睨んでくるのだろう。
さっぱり分からない。
「次、7番の方どうぞー!」
検査室の前で、番号を読み上げる役の人が告げた。
アンリはそちらを一瞥した。
どうやら7番だったらしい。
「ミア、行くわよ。……それじゃあミラ、元気でね。また会った時は、もっと昔話をしましょ?」
「……ええ、そうね」
アンリは、ミアを連れて検査室の方へと歩いていった。
ミラは最後の最後まで歯切れが悪かった。
この2人はどんな関係なのか。
少し知りたいと思ってしまったが、聞いても教えてくれなさそうなので辞めておこう。
「……ファル、あの子には気をつけるのよ。何をしてくるか分からないから」
アンリが何者なのかは未だに分からない。
しかし、ミラがそこまで警戒している相手もいるんだな。
どうやら、因縁の相手らしい。