05 衝撃の事実
一部、精神的に辛い描写があるので閲覧注意。
俺が言葉を発してから、3年経った。
全てをこと細かく説明してもいいが、絶対グダるので全略する。
その代わり、分かったことの中でも重要な事をピックアップして話そうと思う。
◇◇◇
分かったことその一。
この世界についてだ。
地図に記されている限りでは、三つの大陸が存在している。
時計回りに、アグルーナ、タブナル、ミフテンムートと正三角形のように並んでいる。
細かい街の名前とかは全く載っていない。
この世界は日本に、というより地球に似ている。
太陽はひとつ。月のような衛星もひとつ。年月日もほぼ全く同じ。
星の観測も行っていて、星占いも実在している。が、これは娯楽だな。
しかし、どうやって観測したのかは分からない。この世界には望遠鏡に類するものは存在しないのだ。
まぁ、魔法が研究されてるから、ひょっとしたら千里眼みたいな魔法の応用で観測してるのかも。
この世界にも、季節が存在している。
それは俺自身も体験したことだし、周期も日本と似たようなものだ。
日本では四つの季節にわけられているが、この世界では『夏季』と『冬季』のふたつで分けられる。ついでだが、水銀を使って温度を計測しており、15度を基準として、それより暑くなってきたら夏季、それより寒くなったら冬季となるのである。
ここまでは、ほぼ地球と変わらない。
だがこの季節の、というより気温の変動の理由は予想もつかないものだった。
前提として、この世界にも地球と同じく方位が存在する。
地図上では一番上を最北、下を最南といい、その先はどちらも氷で覆われている。
そして、その先は常に吹雪が吹きすさび、誰も近づく事が出来ないほどに寒いのだそうだ。
体を温める魔法というのが存在するが、効果がないほどに寒いのだろう、その先の記述は無かった。
分かったことその二。
歴史の移り変わりだ。
この世界最古の記録は、9200年前のもの。
アグルーナ大陸の最北にある、ラミト遺跡の最深部にて『神の石板』と呼ばれる石板が発掘された。
今でこそ全て解読されてはいるが、それ以前のものは何一つないため、書かれてある言葉や単語の意味が全く分からないのだ。
推測や文脈から様々な考察がなされたものの、ついぞ解明されることはなかった。
今では世界四大の謎、『フェンザード』のひとつとして、数々の学者と研究者が日々解読に勤しんでいる。
ちなみに、『フェンザード』には『神の石板』、『古代魔術』、『最北南の氷』、そして『不老不死の秘術』だ。
『神の石板』については、先程説明した通り。
『古代魔術』とは、5000年ほど前が黎明期の高度な魔法技術のことだ。
魔法については後で述べるので、そこで説明しよう。
『最北南の氷』についても、先程説明した通りだ。
保温の魔法を使ってもダメ、並の魔術師三人がかりで発動する火炎系最強の魔法『インクルード・プロミネンス』を打ち込んでも吹雪に掻き消されて完全に消滅。
氷点下の環境でも生活できる獣や魔獣を調教して送り込もうとしたが、本能が拒否しているので洗脳すらも効かなかった。
どんな環境なのかを調べるため、寒さに強い魔獣を無理やり放り投げるという計画もあったそうだが、秒速で頓挫している。
一瞬で血液や骨までが凍りつき、元から付いていたロープを引っ張って回収した時には、ボロボロに崩れ去ってロープと器具しか残っていなかった、とある。
人間、分からないこと、知らないことにはとてつもない興味を示すもので、更に研究魂に火がついた結果、今に至るという訳である。
これについても数多の議論がなされたが、これぞというものは何一つ出ていない。
『不老不死の秘術』については……うん、分かるよね。
人間は強欲で傲慢な生き物。
金、地位、権力……人によって違いはあれど、必ず欲しがるもの。
そして、それら全てを手にし、それでもなお満足出来ない者達は。
永遠に老化しない、死なない体を欲しがるのだ。
そういった者達ががこぞって、無理矢理にでも研究を進めさせているので、百年前までは世界三大の謎が四つになったのだ。
おっと、話が逸れてた。
歴史について、だな。
『神の石板』曰く、その当時から百年ほど前に、悪魔の軍勢によって世界が滅んだとされている。
と言っても、完全に絶滅したわけではない。当然だけど。
見た目はただの人だったが、理解できない言葉を発し、見たこともないような服装をした者達が唐突に現れ、無差別に襲われたという事があった。
ある地では、たった一人の魔術師による攻撃で跡形もなく消し飛ばされた。
ある地では、流行病が蔓延し、あっという間に死の街になった。
他にも、一方の国全体が洗脳され、近隣の交友関係にあった国々を陥落させたり、国一つが一瞬で氷漬けにされたり。
────人間の姿をしたソレは、しかし人の身に有り余る力をもって、非力なる我らを蹂躙し、悪意をもって虐殺された。反撃するも、取るに足らぬとばかりにねじ伏せられ、もはやどうすることも出来なかった。この世界はもう終わりだ。神に祈り、奇跡が起こるのをただ待つしかない。あぁ、神よ。我らが一体何をしたのか。罪を犯したのなら、懺悔しましょう。……我らは人の身。暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢。それらが過ぎてのでしょうか。……あぁ、神よ。叶うなら、輪廻転生の果て、哀れな我らに祝福を────
────私は、見ていた。13歳の私には何も出来なかった。母親に言われるがままに、死体の山に潜り込んで、悪魔が通り過ぎるのを待っていた。その時、母親は私の目の前で殺された。犯され、陵辱され、薬漬けにされ。壊され尽くした後に、用済みと言わんばかりに氷漬けにされた。汚されたその姿は、とても見るに耐えないものだった。悪魔は、何を思ったか、自分のモノを扱き始め、氷漬けにした母に欲望を吐き出していた。殺されたくない、怖い、気持ち悪い。お母さん。そう叫んで、今すぐにでも駆け出したかった。でも、恐怖によって体は硬直し、指一つ動かすことが出来なかった。悪魔は、満足したとばかりに上機嫌に去っていきました。あの悪魔、よくも母さんを。殺してやる。殺してやる。殺す。殺す、殺す。殺す殺す殺す殺す殺すコロすコロすコロ────
『神の石板』の一部では、こんなふうに数々の日記が書き殴られていたそうだ。特に二つ目のなんて公開しちゃダメでしょ。いくら重要な情報って言ってもねぇ……。
ともかく、この情報により『神の石板』以前のことはある程度分かっている。
つまりは、その悪魔の軍勢の蹂躙から逃げ延び、生き残った極小数の人たちは、俺たちの遠い祖先に当たるわけだ。
『神の石板』より後の歴史は、およそ3000年間は特に変動がない。
江戸幕府もびっくりの超平和時代だ。
しかし、困ったことにそこから1000年は空白となっている。
書き忘れとかではない。
諸説あるが、有力な説もいくつかはある。
今存在する数多の国の中に、その1000年の間に知られてはならない情報を隠蔽している、という説。
もう二つ目は、本当に人類が絶滅し、今の我々は『神の石板』時代の古代民の子孫ではない。我らは侵略者で、古代民の子孫からこの大地を奪った、という説。
どちらにしても、情報は隠蔽されているだろうし、ないならないで仕方がない。
この『空白の1000年』は准フェンザードと呼ばれ、これについても研究している人は多かったりする。
しかし、それから5000年間は、とても凄いことになっている。
戦争もたくさん起こっているが、それよりクーデターや国王暗殺なんかが起こりすぎている。この時代では、長くて7年、短ければそれこそ即位直後に暗殺されている王様もいる。
もはや意味がわからない。ゴチャゴチャしすぎて、細かく説明していると草が生えるどころか本当に草が生える。
だが、何事にも例外というのは存在する。
たったひとつの国だけ。
この血にまみれた時代の中で暗殺されることもなく、寿命を迎えて次の代に王位を渡す、異常な国が存在していた。
その国の名は、ハーネス。
俺が今住んでいる国だ。
他の国との良好な関係を築くのは当然のことだが、高度な策略、神がかった運、他国をねじ伏せる軍力、自国優先の交渉技術……。
長寿な国になるために必要な要因は他にもあるとは思う。
だが、この国には他にも何かある。
血で血を洗う5000年間、どうやって生き抜いたのか。
まぁ、こればっかりは全く記述されてないし、推測も暖簾に腕押しだろう。
そして、今から200年前。
遂に、暗黒の血で血を洗う5000年が終止符を打たれた。
一人の勇者が、ハーネス以外の国に赴き、すべての国を内側から立て直したのだ。
ボロボロで、風が吹けば吹き飛ばされてしまうような状態の国を、一から全て。
しかし、ここはハーネス。
他国の恥ずかしい裏事情を知ることは出来なかった。
いつかは知りたいものである。
この200年間は、以前の超平和な3000年には及ばないものの、戦争がほとんど起こらない平和な時代が続いている。
好戦的な国はいくつかあったが、戦争をふっかけようとした瞬間、他の国々がいじめっ子も引くようなシカトを決め込んで、精神的にその国を封殺するのだ。
流石に、囲まれた状態で戦争を仕掛けるようなバカは居なかったようで、騒ぎを起こしつつも戦争には至っていない。
挙句の果てには、世界中に報道され、暇を持て余した人々の娯楽となるのだ。
そんな状態が続いているので、平和なのである。
さて、皆さん。
ついにやって来ました。
お待ちかねの魔法関連の説明ターイム!
え? ふざけてないで早く言えって?
そもそもそんなこと聞いてないって?
そうですか、残念……。
はい、これから魔法についての説明をします。
魔法とは、体内にある魔力を消費し、呪文を唱え、その呪文に込められた意味をそのまま事象として引き起こすものである。
魔力と呪文はリンクするので、得意、不得意な魔法も当然存在する。
魔力には個人差があり、火を付けただけで魔力が切れる者がいれば、前記の『インクルード・プロミネンス』を一人で放てるような者もいる。
とまぁ、一般的な書物にはそう表記されている。
しかし、この屋敷には、魔法関係の書物が大量にあった。
というか、蔵書の半分以上が魔法に関するものだった。
中には、表向きには公表されていない技術を記した物もゴロゴロあった。
ここからは、それらを踏まえて、俺なりの解釈で説明しよう。
魔法とは、体内に循環している魔素を代償として、一つの事象を引き起こす技術である。
魔素は、基本は空気中に無数に存在している。濃淡はあれど、無いことはほとんど無い。
その魔素保有量と得手不得手に関しては、前記の魔力と同じだ。
それと、魔法を行使する工程はだいたいこんな感じ。
引き起こす事象をイメージ→魔素を消費→魔法式の構築→呪文で魔法の構成を補強→事象の具現化
といった具合である。
それに比べて、前記の魔法はこうだ。
呪文の詠唱→魔法式自体を呪文で構築→魔素を消費→事象の具現化
結果として、普遍的な魔法の行使方法は、本来の工程とは真逆の方法で行使されていることになる。
それを暴発させず、制御できるようにするために、ハーネスには世界有数の魔術師育成学校というものが存在する。
まあ、それについては入学する時にでも説明するよ。
魔法の行使方法とその工程は理解していただけただろう。
魔法について、これでもかと言うほど調べたから、これだけの知識を得ることが出来た。
正直なところ、魔法、使ってみたかったんだよ。
魔法の真髄を理解して、魔法で無双して俺TUEEEEしたかったんだよ。
だから、必死になって調べたさ。
でもな、分かったことがあるんだ。
……俺、魔法使えねぇ。
途中まで書いて、保存したんですよ。そのままゴートゥーザベッドしたんです。
次の日、続きを書こうとしたら、それが全部消えてました。
えぇ、いつかはこういうこともあるだろうと思ってました。
早すぎやでぇ……(泣