四天王の一角
聞けば夕凪は、ギフティ・ゲッコスの毒から俺を助けるための最後の手段として、〖ガラポン〗を全力で回しまくったのだという。
「解毒アイテムが出なくてパニックだったから半分、忘れてた」
ちなみに★★★★★★★【ライター】と機能パッチ【アイテム鑑定】以外は全部ティッシュだったらしい。
ティッシュは便利なのだが、さすがにサバイバル四天王と比べれば足元にすら及ばない。
「ライターだぞ、ライター! これで火起こしの重労働から解放され――」
ギィイイイ!!
ライターを手に入れた喜びを小躍りで表現していると、ジャングルに絶叫がこだました。
「――痛ェエエ!足に何か刺さった!」
「しぃッ、声が大きい。鑑定するから抜いたら渡して」
くるぶしから抜いた〖硬く鋭い植物の葉〗を夕凪に鑑定してもらいつつ、今の悲鳴で誰かに見つかっていないか周囲を念入りに索敵する。
「大丈夫よ、トゲに毒は無いみたい」
「ステータスにも異常は表示されていないから、心配ない。滅茶苦茶痛かったけど」
「そう……なら良かった」
「足元のトラップにも警戒しながら歩くのか……神経がすり減りそうだな」
♪
灯りを確保できた安堵で一息ついていると、妙に明るいBGMが聞こえてきた。次の放送は日没時と言っていたが、もうアホナビのアナウンスの時間なのか。
『絶海孤島でガラガラポン♪みんな元気?』
一日に何度も死にかけた身としては、最大級の罵声を浴びせてやりたいが――
『元気が足りないなー。っていうか人数が足りないのか。存亡がかかってるっていうのにコ・ノ・ザ・マ。あんたたちヤル気あるの?』
――煽りに反応したら、BANの口実を与えてしまう。
『♪んじゃ、まずは本日の成績発表からね。累計EXポイント第3位は『佐藤君』だよ。ヤンキー四人が手を繋いでログインしたのはマジウケたけど、それって意外と大正解だったみたい♪』
相変わらず、えげつない暴露をかましてくるなコイツ。いや。ナビのイカレっぷり以上に、あの四人が合流済みであることの方が怖いか。
『♪続いて第2位。斧無双の帝王『出杉君』。鬼畜の勢いの快進撃は見ててワクワクしちゃった♪怪物討伐数NO.1の腕前に、明日以降も期待がもてそう。みんな頑張って探して合流しようね?』
出杉!生きてたか!四藤の相手を一人に任せた借りは、必ず返すからな。
『♪さて本日の累計EXポイント第1位は!?ドゥルルルル♪♪♪……えー。まじツマンナイ。MVPが『秋葉原』って、どういうこと? これって、ほぼほぼガラポンのおかげよね?初期ギフト取り損ねるような鈍クサ男が1位なんて、運営に苦情が殺到しそうだわ。(←おい) 公開できない裏事情があるとはいえアタシにはさっぱり許せない♪ 日間MVPのボーナスを送っておくから、みんなに嫉妬されて苦しんでね?(←おい) あと秋葉原は夕凪さんとイチャコラしてるから、ファンの男子諸君は今すぐ島の南西に殺到しよう♪(←おい!)』
まじかよ!ジャングルの怪物に加え、野獣系の男子にも狙われるとかピンチすぎる。ファンの男子諸君とか言われて照れてる場合じゃないぞ夕凪。
『じゃあみんな、ラグナ=シセラの夜を存分に楽しんでね?おやすみ~♪』
寝れるかボケっ! クソッタレ……男子を煽ってPvPvEにしやがった。
アナウンスが終わると光学パネルが強制的に開き、何かの一覧が表示された。
……おいおい、なんだよコレ。
『本日の死・亡者リスト 【池田・BAN】【島本・BAN】【三浦・窒息】【石川・溺水】【木村・転落】【山口・毒】【山本・BAN】【中村・BAN】【井上・捕食】【山下・捕食】【森・捕食】(計11名)』
計11人って初日でB組の1/3も死んだのかよ。
しかも筆談での悪口をとがめられた山本・中村まで、そろってBANされている。
「秋葉原君、どうしよう?隠れる?それとも誰かと合流する?」
「問題はそこなんだよなぁ」
身を守るにしてもモンスターを狩るにしても、人数が多い方が絶対に有利だ。
けれどもそれは信頼できる奴と合流できた場合の話。
クソナビのせいで『WANTED』状態にされている以上、男連中はあまり信用できない。
「ひとまず今晩は二人だけで過ごそう。明日になれば状況も変わるかも知れない」
「う、うん。ならどこがいいかな?鍾乳洞までもどる?」
毒ヤモリさえいなければ雨露しのぎにうってつけなのだが。内陸から襲われたら広間で挟み撃ちにされてしまう。
「いや。広間よりも砂浜側ならヤモリを、内陸から攻められない為の盾にできるのか!」
毒ヤモリの空洞を通るのは危険すぎて無理だが、ジャングルを南端まで進み、ロープで絶壁から砂浜へ下りればいいのだ。
浜には飲み水もあるし、鍾乳洞の入口付近でキャンプをすれば、内陸からの夜襲も察知できるだろう。
「そうと決まれば話は早い。南に進んで、絶壁から砂浜に降りよう。夕凪、もう少し歩けそうか?」
「うん、もうちょっとなら頑張れる」
俺と夕凪は、身を寄せ合いながら急ぎ足でジャングルを南下した。夜の密林で方向感覚を失う前に、なんとしてでも浜へたどり着きたい。
「秋葉原君……どうしよう――」
南の浜へ向かっていたハズなのに、東の川へ突き当たってしまった。
「――なんで川に出ちゃったんだろ?」
「方向感覚がおかしくなってるのか。でもいい。このまま川に沿って滝まで南下しよう。そうすれば確実に浜に出られる」
岩だらけの川原でペットボトルに水を満たしていると、ふとした疑問が湧いてくる。
『なぜこの川は、昼に飛び込んだような激流ではないのか?』
ここから南下すれば激流に変わるのかも知れないが、徐々に川が深くなっている様子もない。
キィエエェェ
暗がりの藪から飛び出してきた手長猿を三匹同時に相手にしながら、俺と夕凪は川沿いの石岸を走った。
ゆっくり腰を落ち着けられず、水を汲んでは走り、また少し汲んでは猿を切って逃げ続けた……のだが。進めば進むほど川が浅くなり、ついには地面へ吸い込まれていた。
「どうして?滝はどこに消えたの?」
「俺たちが探している激流とは、別の川だったのかも」
「どうしよう?夜のジャングルで迷子なんて……ねぇ……秋葉原君!」
「大丈夫、何とかするから落ち着いて」
こういう時は……顔でも洗ってクールダウンするのがいい。
俺まで恐怖とパニックに感染してしまったら、助かるものも助からなくなってしまう。
俺と夕凪は浅瀬で軽く顔を洗い、視界の開けた川沿いから真上を見上げた。
空はすっかり暗くなり、もはやどっちが西やら東やら。星座も残念ながらテクスチャめいたマガイ物で、方角を示すコンパスには成りそうにない。
月は……ほぼ天頂だ。
俺は必要以上に落ち着き払い、【ペットボトル】を追加して水を満たした。2リットルもあれば今晩は大丈夫だろう。
夕凪が怪物図鑑を開くと、手長猿の名前が【カトロピテコス】だということが判った。弱点は火で、第三の眼に熱探知の機能があるらしい。
「熱探知か。正直かなりヤバイかも……」
「松明を絶やさないよう気を付けなきゃだね」
迷った末に俺たちは、小川の延長線の方角へ進むことにした。
上流=内陸、下流=沿岸だろうとの予想が正しければ、滝に繋がる激流がどこかから噴き出しているかも知れないからだ。
浜辺にたどり着けさえすれば見通しの悪い暗がりにビクビクしないで済むし、運が良ければラグナヤシの実も食べられる。もう少しの我慢だ。
不気味に揺れる奇怪な植物を〖鋼の剣〗で伐採しながら進むと、おあつらえ向きのケモノ道が見つかった。
「ちょっと待って、向こうから誰か来る」
「二人……いや三人か」
「どうするの?」
「遭ってしまったものはしょうがない。でも相手によっては逃げるよ」
合流するか逃げ隠るかは、考えるまでも無かった。こちらへ向かってくる影は三匹のカトロピテコスだったからだ。
手長猿たちは、俺たちを見つけると嬉々として駆け寄ってくる。
「火が弱点なんじゃないのかよ!?」
「きゃっ!」
二匹をまとめて相手しているうちに、回り込んだ一匹に夕凪が急襲される。
ギィエェエエエ
鋼の剣で切り伏せながら振り返ると、夕凪を襲った手長猿が青い毛に燃え移った火を四本の腕で叩き消そうとしていた。やっぱり火には弱いのか。
ザンッ
剣を水平にして突き出すと、そのカトロピテコスも光となって散った。
「ふぅ……うっかりしてた。よく考えたら獣が通るから『ケモノ道』なんだよな」
「でも、これだけ歩いて誰とも遭わないって……逆にちょっと不安ね」
「島全体の大きさが分かれば、クラスの残りのメンバーがどのくらいの密度で点在してるのか、見当がつけられるんだけどな」
単独で歩き回れるほど安全なフィールドでは無いから、案外どこか局所に固まっているのかも知れない。とくに水場の近くは警戒を強めたほうがよさそうだ。
*
水をひと口あおりながらケモノ道を進むと、少し先にひときわ小高い『巨木』のシルエットが見えた。
「ねぇ……どう思う?」
「うーん。リスクもあるけど、近くまで様子を見にいこうか」
密林を歩き疲れた俺たちは、一縷の望みをかけてケモノ道を外れて草をかき分けた。
★改稿ここまで




