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オレ達、治安維持部!  作者: 桜葉
第一章 出会いは唐突で非日常的に
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第一章③治安維持部

第一章③治安維持部


「という訳で、今の治安維持部……チア部には君の力が必要なのだよ」


「どういう訳だよ!」


 モニターに映し出されたデフォルメされたウサギのキャラクターに思わず素のツッコミを入れてしまう。しかし、モニター越しということもあり、向こう側にはこちらの感情が上手く伝わっていないのか、やはり間延びしたどこかやる気のない声が返ってくるだけ。


「そもそも、治安維持部とか聞いたことないし、何をするのかも謎だ。てか、俺の力が必要って、俺は漫画とかに出てくるような異能力者じゃないんだぞ」


「うーん、事実は小説よりも奇なりってね。君が校舎裏で見せたアレは、十分力になると思わないかね?」


「校舎裏で見せた……アレ……てか、なんで知ってるんだよ……」


「はっはっはー、私はこの学園でのことなら、何でも知ってるよ。生徒会長だからね」


「いや、生徒会長でも生徒のプライバシーは守ろうぜ……」


「ふっふっふ……あまり生意気な口を利かないほうがいいと思うよ? 今の私は、君の白いブリーフの色だって分かっちゃうんだから」


「マジかよ! 怖すぎだろって……もう答え言っちゃってるじゃん!」


 気付けば生徒会長のペースに飲まれ、こちらから聞きたいことを問いただすことができない。そんな俺と会長の様子を冷めた様子で見守っているのが、速水とみなみの二人だった。


「……会長。あまり無駄な話は慎まれたほうがいいかと」


「ありゃりゃー、相変わらず手厳しいねぇー、由香里ちゃんは」


 この生徒会長でも速水の言葉には弱いのか、由香里の冷めきった声音に生徒会長もそれ以上の無駄口を開くことはなくなった。


「まぁ、校舎裏で見せてもらった君の力。まだ、詳細は判明してないけど、その力は絶対に治安維持部には必要になるものだよ」


「でも、そんなこと言われてもなぁ……そもそも、治安維持部って何するか分かんないし……」


「あぁ、そうか。君にはまずそっちの説明から必要だったね。よろしい、では私が簡単に治安維持部とは何なのか……その問いに答えようじゃないか」


 会長のそんな声が響くと、モニターが突然ブラックアウトする。ずっとモニターに向かって話していたので、突然の変化に僅かに驚きを禁じ得ない。


「まず、この学園が私たち生徒会によって運営、自治されていることは入学式に説明したね?」


「あ、あぁ……中高一貫を除いて、高等学校ってのは全部そうなってるんだろ?」


「そうだ。大人たちではなく、自分たちと同じ生徒が学園を運営する。それは私たち生徒にとっては革新的な試みな訳だよ。だって、大人たちが定めた堅苦しい学園ではなく、自分たちが思う理想の学園、規約を作ることができるのだからね」


「まぁ、自由って言っても限度があると思うけどな」


 社会経験もない生徒たちだけで本当に自由な学園を作り上げてしまったら、それこそ学園という体を成さなくなることは見えている。しかし、全国の学園でそういった最悪の形になったとあまり聞かないのは、どの学園も生徒会がきっちりと管理しているからだ。

 生徒会というのは、一般的な学内の生徒から選挙で選ばれる訳ではない。

 詳しいことは分からないが、生徒会にふさわしい生徒というのは、国が選定しているらしい。いつ、どのタイミングで生徒会にふさわしいと判断されるのかは謎だが、そういったことになっているらしい。


「まぁ、最低限の常識は守らないといけない訳だね。でも、そんなことは学園に通う一般生徒にはあまり関係のないことなんだよ。彼らは自分たちが生活しやすい場所を作りたいという思いがある。そして、今の学園運営法では、昔に比べてそれを実現しやすい環境ではある訳だ」


「学園を運営、自治しているのが同じ学生である生徒会だからか」


「そーいうことだね。もし、君が女子生徒の制服を明日からスク水にして欲しいと熱烈にプレゼンして、私がそれを承諾すれば、それが新たな校則として制定される訳だね」


「マジで!? そんなこと出来るの!?」


「……出来る訳ないでしょ、アホ」


「誰がアホだって!」


「アンタよアンタ。鼻の下が伸びたアホ面を晒してるアンタ」


 なんだろう。みなみの言葉がいつもよりも冷たい気がする。


「まぁ、そんなことを許していたら学園はあっという間にカオスな空間へと化してしまうよね。それを許さず、健全な学園を運営しなくてはならない。それが生徒会なんだよ」


「まぁ、そうなるよな。それで、治安維持部ってのはどこに関係してくるんだよ」


「自分たちが思う理想の学園を作りたい、もっと住みやすい環境を作りたい……そういった思いを持つのはいいことだ。私も色んな意見を聞きたい。しかし、さっきも言ったような無茶な要求をしてくる生徒も存在して、その中の一部が武力行使に出たら……私たち生徒会はどうやって身を守ればいい?」


「武力行使って……そんな物騒な……」


「そんな物騒なことが起こるわけない。そうだったらいいね。でも、朝の校舎裏……君もその目で見たはずだ」


「まさか、あれが武力行使だって言うのかよ……」


「そうだよ。あれは野球部が来年度の予算を何十倍にも引き上げるように要求し、それを我々が拒否した。それが納得行かないと武力を持って攻めてきたんだよ」


「もし、あの場で速水先輩が負けてたら……?」


「……そうなったら、生徒会の負けさ。生徒会室まで乗り込まれて、武を持たない私たちは降参するしかない。その瞬間、この学園は終焉を迎えてしまうんだよ」


 千個にも及ぶ炎球を繰り出した野球部の生徒が脳裏に蘇る。確かに、あんなヘンテコな力を持った男に攻めて来られて……自衛の手段を持たないのだとしたら……それは絶望である。


「そこで、私たち生徒会が持つ自衛の手段。それが治安維持部なんだよ」


「あの野球部の生徒にも勝る力を持つ異能力者が所属する、特殊組織……それが治安維持部さ」


「異能力者……」


「君の力は絶大だよ。若林くん。どうか、その力を学園のために使って欲しい」


「そんな、俺なんかが……」


 治安維持部という存在については理解した。そして自分のよく分からない能力が必要とされていることにも。

 ここで会長の要請を受け入れたのなら、それはきっと平凡な日常からの脱却にも繋がるのだろう。それは自分が求めていたことであり、それが手を伸ばせば届く距離にまで迫っている。


「――会長」


 静寂が支配する教室の中、凛と透き通った声音が響いた。

 聞くものを魅了する声を発したのは、鉄仮面で表情を覆った速水だった。


「私は反対です。力があるという理由だけで、この武に所属させることに強く反対します」


「おやおや、まさか由香里ちゃんからそんな言葉を聞くなんてね」


「治安維持部は危険です。入学したばかりの……それに、まだ顕現しているかも怪しい生徒を入れるなんて……ましてや、現在の学園状況を見ても危険と言わざるを得ません」


 決して折れない、芯の通った声で会長に意見する速水。

 その思いは強く、並大抵のことで折れるようなものではないことを感じさせた。


「そう。今、学園は危機的な状況にある。なにせ、治安を守るべきこの部が崩壊している最中なのだから」


「……崩壊?」


 会長の言葉に思わず口を開いてしまう。

 治安維持部が崩壊しているとはどういうことなのだろうか。速水の様子を見る限り、そういった兆候を感じることはできなかった。


「そうだ。生徒たちも気付き始めている。歴代最強だった音羽学園治安維持部が、今となっては一人の生徒しか残っていないということを」


「くっ……」


 ここにきて、速水の表情に僅かな変化が現れた。それは朝の校舎裏で見た、苦々しいものだ。


「事実。それは間違っていない。歴代最強と謳われた治安維持部の主戦力は……この学園から姿を消してしまった」


「姿を消した……?」


「そのままの意味だよ。本来、この学園の治安維持部には七人の生徒が所属していたんだ。しかし、数ヶ月前のある日……由香里ちゃんを残して全員が失踪したんだよ」


「失踪ってそんな馬鹿な……それが本当だとしたら、もっと大きな騒ぎになってるはずだろ!」


 学生が原因不明の失踪。

 そんなことが事実だとしたら、保護者だって黙ってないし、下手したら全国ネットでメディアが騒ぎ立てていても不思議ではない。


「まぁ、私もすぐ見つかると思ってたんだけどねぇ……本当に消えちゃったんだよ。あらゆる痕跡を消してね……」


「そんなことが……」


「この件については私たち生徒会も全力で調査を続けてるよ。でも、手がかりは見つかってない」


 治安維持部の崩壊。生徒の失踪。そして学園の危機的状況。

 思っていたよりも、この学園が抱えている問題は根深いものなのかもしれない。


「それでもっ……私は反対です。適正があるかも不明な生徒を、巻き込む訳には……」


「……由香里ちゃんがこの場所を守りたいって思う気持ちは分かるよ。でもね、いつまでも過去に囚われていてはダメだよ。いつもの由香里ちゃんらしくない。常に最善の選択をする君なら、今はどうすればいいかが分かるはずだ」


 会長の声が教室に響き、速水もとうとう口を閉ざしてしまう。

 重苦しい空気が教室を包み、俺もみなみも口を開くことができない。


「……なんだ、この音?」


 突如、学園全体に轟音が轟いた。

 それは空気を震わせ、治安維持部の教室に備え付けられている窓があまりの衝撃に振動するレベルだった。


「すげぇ音だぞ!」


「あちゃー、こっちの話が終わる前に動き出しちゃったかー」


「……行きますっ」


 生徒会長は知っていたかのような口振りで話すのと同時に、速水の身体が素早く動き出す。床を蹴って走り出し、こちらが声をかける暇もない速さで教室を飛び出していった。

 突然のことに呆然としていた俺は、そんな彼女の背中をただ黙って見つめることしかできない。


 脳裏には入学式の朝、校舎裏で繰り広げられたあの光景が嫌というほど鮮明な映像と共に蘇るのであった。


桜葉です。

今回は治安維持部とは?という回でした。

次回からはバトルが始まるかと思います。

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