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八話『…契約する。だからあの子を護る力をくれっ!』

 


「……どこに………はどこにいる………」


誰かの声が聞こえ、少女は辺りを見渡して探してみた


「…あの子は……どこだ……っ!」


途切れ途切れの声が次第にハッキリと聞こえてくると同時に、その声が怒鳴りだしたのを少女はただ耳にするだけ


見渡しても見渡しても誰もいない真っ白な空間に少女は不思議に思った


ココはどこで、どうしてココにいるのか


そして、この声をどこかで聞いたように思うのは何故だろうと


(……あの先は何…?)


少女は不意に見つけた”穴“のような黒いモノを見つけた


歩み寄るとその黒い穴が少女の身長くらいある穴でその先まで続いている


手を伸ばすと指先に当たる感覚があり、まるで水のように冷たく黒い穴が揺れた


本能が”その先には行くな“というように背筋がゾッと冷や汗をつたる


直ぐに手を引っ込める少女だが、その先に行かなければと何故か思ってしまう


今行かなければ、きっと後悔してしまう


少女は今までずっと”恐怖“というものを彼からは感じなかったが、この禍々しい程の危険な感じは初めてだった


これが誰のモノなのか、少女は知らなければならない気がしたのだ


意を決した少女はゆっくりと黒い穴に入る


(…なんて冷たく寂しい場所なのかしら…)


入ったその先は、何処までも続く暗闇で光すら入らない場所だった


勇気を絞り出す少女は何処までも続く暗闇を歩き出す事にした


すると暗闇だというのに一カ所だけがやけに明るく見える場所があり、少女はゆっくりと近付いていく


(…何…これは、外?どうして…っあれは…)


明るく見える場所はどうやら外を映しているようだ


そして少女は、信じられないようにその空間を見つめていた


夜の森の中で傷だらけになってまで草を分けて歩き進める一人の男の姿に少女は目が離せずにいる


(…あの、人は……アラン…ディー)


それは紛れもなくアラン・ディーという男だった


顔すら覚えていなかった筈なのに、少女は何故か直感でそれがアランだと思った


でも彼は数年前に村を出て行った筈だ


なのに何故…今、アランのこんな場面を見ているのだろう


「…はぁ…はぁっ……待ってろ…もう直ぐ助けに行くからな…!」


足を引きずりながらアランは真っ直ぐに森の中を歩いている


きっと足を怪我したのだろう


それでも歩く事を止めないアランに少女は何故其処までするのか分からなかった


けれど、次第にハッキリと分かってしまった


(あっ……あの森は…見覚えがあるわ。あれは…私も通った道……まさか、私を助けに?)


しかし、それこそ不思議なモノだ


なにせ少女は生け贄として献上されたのだから、誰も生きているとは知らない筈…なのに何故助けようとするのか不思議でならなかった


そんな事を考えていると、アランの様子がおかしいと気付いた少女はまた射るように様子を伺った


「っくそ…!あと少しだというのに…もう足が動かないとはっ……」


(止めてアラン!貴方が其処までする必要はないわっ)


「…あの子は、今怯えているんだろうか。あの化け物に殺されてはいないだろうか…俺に、もっと力があればっ!」


(違うわ…。私は怯えていなければ怖がってもないのよ。だから…そんな事しないでっ)


「もっともっと、俺に、あの化け物を倒せる程の強さがあれば…」


悔やみ悲しむアランは自分の拳を地面に叩きつけて己の無力さに腹を立てていた


そんな姿を少女は見たくないというように視線を逸らした


何故今、アランに自分の声が届かないのか


歯がゆさともどかしさに少女は自分の拳を強く握り締めた


「…ホゥ ナラバソノネガイ オレサマガ カナエテヤロウカ?」


「っ誰だ!」


座り込んでいたアランに近寄る人でない者が、不気味な笑みを浮かべてアランの前を浮いている


少女はすぐさま危険な感じを察知し、逸らした視線を戻す


先程のゾッとした感覚が、あの人でない者からしたからだ


「オレサマハ マツキノナカデハ ユウメイデナ。ドウダ ニンゲン オレサマト ケイヤクシネェカ」


「契約、だと?」


「ソウダ オレサマノチカラナラ アノ バケモノトゴカク アルイハ キサマノ ツヨイイシデ フカデグライハ サセラレルチカラガ テニハイル」


「………あの化け物を、倒せるのか…」


「アァ オマエガチカラヲ カシテクレサエ スリャアナ」


怪しく不気味の笑みを浮かべながら、人でない者がアランを唆す


(駄目っ…何故か分からないけれど、それと契約してはイケない!)


少女は必死に訴えようとするが、アランの場所に行く事も声すら届かない今では何も出来ない


ただ、その空間で見ている事した出来ないのだ


アランは少し考えた末、人でない者にこう言った


「…契約する。だからあの子を護る力をくれっ!」


「フッ ココロエタ オレサマノチカラ キサマニカシテヤルヨ」


(駄目っ…お願いだから、止めて!)











止めて






止めてっ






止めて───────!!!












手を伸ばそうとした時、ほんの一瞬だけアランが此方に振り向いた気がした


けれど、その後ろではあの人でない者が”ざまぁみろ“と言いたげに更に不気味な笑顔で少女を見ていたように見えた


次に目を開ければ、少女は冷や汗を掻いて呼吸も乱れてベッドの上にいた


気が付くと上半身を上げて左手を伸ばしていた


「…あ、れ?……私…今なんの夢を見ていたのかしら…」


そして、目覚めた少女は夢で見たあの光景を忘れていた


綺麗サッパリと何を見たのか覚えてはいない


けれど確かなモノがあるのは確実で、それが”恐怖“だという事に変わりはなかった


とてつもなく怖かった


恐ろしい程の震えが身体中にする


両肩を交差にして抱き締めて止めようとするが、その手すら震えていては元も子もないだろう


それでもさすったりして必死に止めようとする少女は、これほどまでに脅えていた


(…何か、嫌な予感がするわ…)


まだ熱が下がった訳ではない筈の少女だが、ゆっくりとベッドから足を出して床を歩き出す


窓に近付くと閉まっていたカーテンをゆっくりと開けた


開かれたカーテンからは眩しい程の太陽の光が注がれていた


…空は、こんなに晴れているというのに


少女の心は曇って晴れずにいた




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