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五話『とても、優しい表情をしていたから…』


あれから、少女と彼は無言で美しい風景を見つめていた


ただ見つめるだけの空間だが、二人の間に気まずさはない


風が時々、幻の花を散らせ花びらが舞う瞬間少女はまた釘付けになるように目に焼き付けるように眺めている


しかし彼の心境は少女とは違い、少女に対しての心配事を少なからずにしていた


(…そろそろ戻るか…)


彼はここに来る前に鵺孤に言われた言葉を思い出して、そろそろ切り上げようと考える


最近、夏が終わって秋が近くなっているのは彼も分かっていたのだが、彼自身は気温の変化はあまり分からない様子で鵺孤が念押しするようにしつこく言っていたのだ


『良いですか?姫様はあくまで人間!僕達より気温の変化には敏感で弱いんですからね!』


あまりの意気込みに彼は思い出し笑いをしてしまった


あんなにも必死になる鵺孤の姿を彼は久々に見たと思った


いつだったか、鵺孤が屋敷に来て大分経った頃に彼が森の中に入って何時間も帰って来ない事があり、帰ると心配して必死に鵺孤からまくし上げられたのを今でも覚えている


……まぁ、その話はまた別の機会にするとして


「…あの、何かありました?」


「?何故」


「えと、貴方が優しい表情をしていたから…」


「……優しい?我がか??」


「はい。とても、穏やかな顔でした」


ジッと見られているのに気付いて少女に振り向くと物言いたそうにしていたので、待っているとそう返されて最後の言葉の時には少女も表情が優しくなっていた


彼は口元を片手で隠して小さく「そうか…」と呟く


なんとも言えない恥ずかしさに彼は先程の鵺孤の言葉を思い出していたのに気付いて誤魔化すように口にした


「…そろそろ身体が冷える。屋敷に戻るか」


「あ、そうですね」


少女も満足しているのか渋る事もなくアッサリと返事をする


その言葉に彼はまた、あの¨化け物¨の姿になろうと少女から距離を取ろうとする


しかし、少女が彼の袖を掴んでそれを止めてしまい不思議に思った彼はまた少女に振り向く


「なんだ?」


「…あの、今度はもう少しゆっくりでも構いませんか?」


云いにくそうに少女が言葉を発すると彼は首をかしげる


何故そのように言われているのかが分からなかったからだ


彼の不思議そうにしている雰囲気に気付いたのか、少女はまた言葉を発した


「……貴方は普通かもしれないですけれど、私にとっては少し速すぎて…」


その言葉にやっと理解したのか、彼は分かったと頷くと真の姿になる


今度は少女自身に己の背中に乗れるようにしゃがみ込んだ


「コレデノレルカ?」


「あ、はい。有り難う御座います」


少女は苦戦しながらも彼の背中に乗ることが出来た


それを確認すると彼はまた来る時と同じように夜空を飛ぶ


今度は少女のリクエスト通りにゆっくりと彼は速くならないように心がけている


二人の距離が少しずつ縮まり始めていた


(…木が沢山ある…これが森なのね)


来る時は分からなかったが、改めて森を見る少女は自分の足で歩いていた森とを比べていた


中から見た景色と上から見た景色ではこうも違うのかと


不思議と心が安らぐのを感じた











しかし、この二人の穏やかな時間を奪われてしまうとは誰も想像してはいなかった


「…あれは、まさか…」


森の中で夜空を見上げる一人の謎の青年


彼が目にするのは¨化け物¨の背中に乗っている少女に釘付けだった


「っ村人らの言っていたのはやはり本当の事だったか!」


青年は苦虫を噛んだような顔をしてまた歩きはじめた


「待ってろ、すぐに助けに行くからな!」


その言葉の意味は、まだ誰も知らない




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