プロローグ『私はただ、喰われて死ぬだけよ』
何故 人で在らねばならない
何故 人として生きなくてはいけない
何故 人として死ななくてはいけない
何故 人はこんなにも
醜く愚かなのだろうか
もしも 己が人間として産まれたら
どれほど己を恥じるだろうか
どれほど己を悔やむだろうか
そう、思っていた…
否、今でもそう思っている
けれど、あの娘は……
あの娘だけは─────────・・・
・・・───────何かが違っていた
「…オマエ ニンゲンダナ?ナゼヒトガ ココニイル?クワレニキタカ」
「…………」
「ナゼ ワレノスガタヲミテモ レイセイニイラレル?…オソロシクハナイノカ ワレノコトガ」
「………いいえ。貴方の事は恐ろしいわ」
「ナラバナゼ キョウフニ カオヲユガマセナイ?ニゲダサナイ?」
”化け物“は少女に聞く
ただただ無表情の少女に恐ろしい声で聞くのだった
けれど少女は、顔色一つ変えずに答える
「貴方は怖くないけれど、貴方を恐れた村人達が私を生贄に捧げた。私はただ、喰われて死ぬだけよ」
「シヌコトガ コワクナイノカ?」
「ええ。寧ろ私はそれを望んでいるわ」
その時の少女は、初めて”化け物“と目を合わした
”化け物“はそれをみて、酷く心に刻まれて残ったという
少女の瞳には、生きている人間とは違ってイキイキとした瞳ではなかった
まるで、そう─────・・・
”死んでいる者の冷たい瞳“だった
十五歳の少女と
百年以上生きている”化け物“の
初めての出逢いで
新たな人生の始まりとなった日だった
この日から
二人の運命が動き出したのだ
さぁ、物語の始まりだ