あの空の向こうへ 3
「いくらイライラしているからって女の子に当たるのは
よくないんじゃないか?」
枕元に現れるなり青年は言った。
「うるさいな!あんたには関係ないだろ?」
すると、また周囲がホワイトアウトした。
「まただ。ここは・・・・?」
下を見ると、何隻かの軍艦が寂しそうに航行している。
マリアナ沖海戦後の日本の空母部隊だった。
「うわ!」
翔太は瑞鶴の壁をすり抜けて、搭乗員待機室に
引きずり込まれた。
「なあ、俺達、これからどうなるのかな?」
待機室の隅で3人の若い男がひそひそ話をしている。
「日本の航空戦力は壊滅した。戦闘機なしで戦争なんて
できるわけがない。」
「俺の教え子、『もし生きて帰れたら母に親孝行したいです。』って笑顔で言ってたよ。そいつがさ、俺の目の前で
敵戦闘機に叩き落とされたんだ。信じられるか?まだ二十歳だぞ!?」
「上は現場をなにもわかってない。訓練不足の搭乗員に
片道400kmの攻撃ができるもんか。」
上層部への愚痴と、不安を漏らす2人。
そんな中、残ったひとりが言った。翔太の夢に出てくる
青年だ。
「じゃあ、そいつらの分まで立派に生きないとな。
どんなに泥臭くてもさ。」
夢はそこで途切れた。ただ、最後に
「どうとらえるかはお前次第だ。」
と言う声が聞こえた気がした。
「・・・・夢、か。」
目を覚ますと、チュンチュン、と鳥の泣き声がした。
日は既に昇っている。
「そうだ、彩夏に謝らないと。」
翔太は服を着替えて顔を洗い、家を飛び出した。
彩夏の家まで歩いて5分。
そこで彼は衝撃的な光景を目にした。
彩夏が男と一緒に歩いていたのだ。
彩夏と翔太の隣のクラスの圭吾だった。
「彩夏・・・・?」
ふたりは翔太に気づいたようで振り返った。
「やあ、翔太。俺達付き合うことになったんだ。」
「そんな・・・・嘘だろ・・・・?」
恋人ではないにしろ3歳から一緒に過ごしてきた彩夏。
それがいなくなるなんて考えもしなかった。
「ごめんね、翔太。行こう圭吾。」
翔太にできたことは遠くなるふたりの後ろ姿を呆然と眺めること
だけだった。
夏は終わろうとしている。