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海の防人~2022 日中開戦~  作者: 呉提督
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最終話 海の防人

最終回です。

今までありがとうございました。


ある晴れた春の日のこと。

私は5歳になる娘の手を引いて

ある場所に向かっていた。


「ママ、どこに行くの?」


「ママの大事な人のところよ。」



呉駅で下車し、海から反対の方向に

進むこと15分ほど。

ひっそりとした住宅街にそれはあった。



海軍墓地



太平洋戦争で戦死した海軍将兵の

魂が眠る場所。

ここに彼も眠っている。



――剣城 和也 享年23―――


私の恩人にして、

命をかけて日本を救った人。


彼の墓は少し汚れてしまっていた。

去年は綺麗だったのに、一年経つと風化して

しまうのだろう。


持ってきたペットボトルの水をかけ、

娘とふたりで丁寧に磨く。

終わったらお菓子をお供えした。


「和也さん、聞こえますか?

あれから日本は変わりましたよ。

いい国になりましたよ。

全部貴方のおかげです…」


私がそれを知ったのは

10年前の4月。

ニュースで、彼の乗る潜水艦が

中国の船に体当たりしたことを知った。

総理大臣が記者の前で頭をひたすら

下げ続けている様子は今でも頭に

残っている。

1週間が過ぎて、その潜水艦に乗っていた乗組員の

名前が公開された。

一番最初の艦長のところに彼の名前があった。



彼は、誰からも理解されず、

愛されず、孤独の中でひとり戦い、

そして、消えていったのだ。

多くの日本国民は忘れているだろう。

家族がいること、友達がいること、

恋人がいること、あたりまえの日常が

どれだけ幸せなことなのかを。


あれから日本は変わった。

内閣は総辞職し、新しい政権には

常に厳しい目が向けられるようになった。

国防や戦争に関する国民の意識も少しだが

高まったように感じる。


国際関係では、日本は中国に変わって国連安保理の

常任理事国となった。

中国はこの敗戦で軍の統制がとれていないことが

明らかとなり、大きく力を失い、

国際社会から孤立していった。

日本は中国との停戦協定で尖閣諸島の

領有権を確立し、領土問題のひとつは解決した。


日本の戦後は終わったのだ。

日本は戦勝国の仲間入りを果たした。

国連では日本の勝利によって敵国条項が

完全撤廃されたという。

(ドイツも外された。)



「和也さん、ありがとうございました…

本当に、ありがとうございました…」



私は今、生きている。

彼の遺書に生きてほしいと書いてあったからだ。

それが彼の願いなら、私はどんなに苦しくても

最後の時まで生き抜こうと思う。



夢は叶った。

パイロットの優しい男性と結婚し、

娘も生まれた。

彼がいなければ、私はどうなっていただろうか



いつか、娘に伝えてあげたい。

私の初恋、名も無き防人の話を…


お祈りを終えて、ふと空を見上げる。

群青の空に白い飛行機雲がひとつ、

横切っていた。

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