後悔と懺悔と。
2022年 4月23日 12:30
「スパロウ隊は与那国島上空の中国軍機5機すべてを
撃墜。我が方は梶井機を失いました。」
しなのミーティング室。
航空団司令の峰山が艦長に告げる。
スパロウ隊一同の表情は暗い。
隣の部屋には梶井二尉の慰霊所が設けられている。
無論、遺体はない。
「そうか…皆ご苦労だった。」
そう一言だけ残し、部屋を後にした
艦長の大空を呼び止める声があった。
戦闘機隊長岩本である。
「艦長、梶井が死んだのはすべて
私の落ち度です。梶井機を攻撃した機を
捕捉し、ロックオンしておきながら、自分は
引き金を引くのをためらいました。
中国軍機のパイロットも人間でした。
私たちとなんら変わらない。仲間がいて、家族がいる。
そんな人間を殺すのが怖かったのです。
その一瞬の迷いが梶井を、信じてくれていた部下の命
を奪った。私にはもうあれ(F35)に乗る資格はありません。」
艦長は岩本が喉の奥から振り絞る声を
だまって聞いていた。
そして岩本に背中を向けたまま、答えた。
「悔やむのは後にしろ。
今は戦闘中だ。お前のその迷いがまた部下の
命を奪うことになるんだぞ。
後悔はすべてが終わってからだ。」
艦長は行ってしまった。
そのとおりだと思った。
ただ、部下の死を悔やまないなんてことも彼には
できなかった。
祖父は、戦争で多くの同期が空に散っていくのを、
どんな思いで見ていたのだろうか?
後悔?懺悔?怒り?憎しみ?
考えてもわからなかった。
考えるだけ無駄だと思った。
今やるべきことは、同じ過ちを二度としないように
気を引き締めることだ。
しなのの狭い通路には、線香の
悲しい臭いだけが静かに漂っていた。
・・・・・・・
4月24日 16:00
上陸作戦が今日であることを予想するのは
彼らにとって朝飯前だった。
しなのら第一護衛艦隊群から発せられる電波が
見るにも増して増加していたからである。
「艦長。これまでの情報を纏めますと、
中国側は空母遼寧とその艦載機40機以上、早期警戒機、
さらに空母広東の艦載機殲20を7機喪失しています。
広東にはまだ50機を超える作戦機が残されており、
しなの以下第一護衛艦隊群が不利であることに
変わりはありません。」
宮古島をめぐる空戦で中国側は
空戦の要となる早期警戒機を失っている。
そのため、与那国島上空空戦ではF35が
一方的に殲20を叩くことができた。
だがそれも今日までだ。
この侵攻が北洋艦隊司令部の独断であることは
既に関係者全員が把握しているが、
この作戦に少なからず中国空軍機が参加している
ことも確かだ。
となれば当然予備の機体も用意されているはずだ。
今夜は上陸作戦が行われるため、
自衛隊の戦闘機は上陸部隊の援護をしなければ
ならず、スキが生まれる。
自分が中国の司令官ならそこを待ってましたと
ばかりに予備の早期警戒機を伴った大編隊で
強襲し、与那国島上空の制空権を取り返す。
自衛隊も制空権を完全に喪失するような失態はしないはずだが、
航空優勢は失うことになる。
つまり、今のまま制空権争いをしていては
ラチが開かない。自衛隊側の損害も増えるばかりだ。
ではどうするべきか。
それは…
「広東を沈めに行く。」
和也はそう呟いた。