オペレーションサンダー 2
2022年 4月22日 08:00
『宮古海峡を解放する』という
任務を達成したたいほうは東シナ海の
海底300mに鎮座し、次の命令を待っている。
コーヒーをすする和也に
副長の福田が話かけてきた。
「艦長、お聞きしたいことがあります。」
「なんだ?」
「なぜ、あの時中国潜水艦を
撃沈しなかったのですか?」
"あの時"とは、たいほうと中国潜水艦が
交戦した時のことである。
たいほうは中国潜水艦に直撃する魚雷を
わざと自爆させたのだった。
さらに、残った無傷のもう一隻も再探知しており、
撃沈が可能だったが、和也はこれを無視。
その艦は東シナ海から離脱した。
常に冷徹で敵に絶対情けをかけない
和也が敵を見逃したことが福田には
信じられなかったのである。
和也はコーヒーカップを
静かに机に置いた。
そしてこう言った。
「その方が戦略的に有効だからだ。
敵を殺せば、残った敵は殺されまいと
必死に抵抗する。これは最も恐ろしい。
だが、殺さず、『いつでも殺れるんだぞ』と
示してやればどうか。
敵はこちらの潜水艦の実力に恐怖し、常にこちらに
怯えながら作戦を行わなければならなくなる。
初戦において最も大切なのは今後の戦いを有利にすることだ。
これから、終始自衛隊は精神面で中国軍を凌駕するだろう。
福田、よく覚えておけ。戦闘とはこうやるんだ。」
福田は敬服した。
彼は少しまえまで争いとは無縁の、ただの高校生だったのだ。
それが今ではもう立派なプロの軍人だ。
2年間教育を受けただけではこうはならない。
彼自身、血のにじむような努力をしたのだろう。
2時間後、市ヶ谷からたいほうに連絡があった。
そこには
『たいほう乗組員一同の
努力と任務達成に大いに感謝する。
日本国首相 平沼修』
それはたいほう乗組員にとって、
なによりの褒美であった。