深海で
あの日の君のことを、深海400mで思い出す。
あの日、彼女の父親がやって来た日の夜、
君は自分の想いを伝えてくれた。
俺も君のことを、とても大切に思っている。
でも、俺は拒絶した。
ダメなんだ。俺とじゃ。
俺は人殺しだ。工作員だ。
そんな人間を好きになっちゃダメだ。
君はきっと後悔する。
キャビンアテンダント、いい夢だね。
君は夢を叶えて、優しくてお金持ちの男と
結婚して、幸せになってほしい。
君の幸せを心から、願っています。
わずかだったけど、俺に楽しい時間を
与えてくれて、ありがとう
2022年 4月22日 08:30 沖縄南東沖30km
「艦長、本部より連絡。
敵潜水艦2隻が宮古海峡を封鎖。
本艦にこれの排除命令が下りました。」
「海図を出せ。」
司令所の海図台に東シナ海一帯の海図が
広げられる。
「宮古海峡は東シナ海の大陸棚の先端に位置して
います。水深は300m。
この深度では、1200mまで潜れる本艦も
中国の古くさいディーゼル潜も大差ありません。」
「沖縄のP-3Cはなにをやっているんだ?」
「現在、宮古島上空の制空権は中国側にあり、
これを排除するまでP-3Cは出せないとのことです。」
封鎖しているのは中国海軍の潜水艦元級2隻。
この2隻をどうにかしない限り、海自部隊は
現場海域に接近できない。
なんとしても排除しなければならなかった。
「浅瀬での咄嗟魚雷戦が想定される。
ソナー!必ず敵より早く敵を見つけよ!」
「は!」
たいほうのソナーは優秀だ。
ソナー長の立石伍長はアメリカ海軍との演習でも
必ず先に相手潜水艦を発見していた。
「1番から8番、魚雷装填!内、7~8番はデコイ(囮のこと)!」
「了解!」
たいほう初陣は2時間後に迫っていた。