生きる理由
なんのために生まれて、
なんのために生きるのか。
それを初めて考えたのはたぶん、中学の時だと思う。
3歳の時に両親が離婚した。
原因は父親のDVだった。
家庭は裕福だったが、元々父と母はあまり考えが
合わない人だった。
父は仕事のストレスを段々母にぶつけるようになり、
耐えきれなくなった母は泣きながら家を出ていった。
そのころから、この社会や大人に対する
不信感が募っていったんだと思う。
母が出ていった後、父は毎晩、金で釣った若い女を
連れ込んだ。
欲しかったものはなんでも買ってもらえたが、
本当に欲しかったのはお金なんかじゃ買えないもの。
"お母さん"だった。
そんな自分に転機が訪れたのは高2の時。
自分の所属するテニス部に彼女、坂本七美が
入部してきたのだ。
彼女はあまり目立たないタイプだったが、
それでも何事も一生懸命取り組んでいたところに
ひかれた。
その彼女が陰でいじめを受けていた。
一番近くにいたのに気づいてあげられなかった。
だから、彼女を助けてあげられなかったとき、
自分は人生をかけて彼女を救うと、
彼女にもう一度笑顔を取り戻すと決めた。
自分は自衛隊に入り、"人殺し"になった。
力を手に入れた。
ボタンひとつで国を滅ぼせるほどの力を手に入れた。
そして今日、彼女は目覚めた。
だが、彼女の記憶はすべてなくなっていた。
もう、永遠に戻ることはない。
失意の中、彼は呉の自宅に戻ってきた。
そこで衝撃の光景を目にした。
「さあ、俺とくるんだ!!」
「イヤ!放して!」
彼の家の前で咲が中年の男に腕を捕まれていた。
「おい、なにやっているんだ!」
慌てて駆け寄ると、その男は和也を睨んできた。
「お前か、娘を誘拐したのは!」
「娘?」
「そうだ。私は咲の父親だ。」
こいつが咲の。
妻と娘を捨て、若い女に走った愚かな弁護士。
和也は軽蔑の目で咲の父親をにらみ返した。
こいつも同じか。
自分の父親と同じか。
やはり大人は信用できない。
こいつは、こいつらは人間の屑だ。
「お前に、家族を捨てたお前に咲の父親を名乗る資格はない!!
失せろ!!」
結局その父親は立ち去った。
彼女からはお礼を言われた。
そうだ。あったじゃないか。
自分の生きる理由がここに。