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海の防人~2022 日中開戦~  作者: 呉提督
19/48

予兆

2022年 4月15日



「失礼致します。大臣、こちらをご覧下さい。」


防衛大臣の今野は、部下が持ってきた書類に

目を通す。


「以前は毎日のように領海侵入していた

中国船ですが、この1週間は侵入どころか

出現すらしておりません。」



今野は椅子に深く腰かけた。

そしてひとつ大きなため息をついた。



「奇妙だな。」



「11管(海上保安庁第11管区。沖縄方面を担当している)

は既に警戒を強めているそうですが・・・・」



「沖縄基地にも警戒体制強化を伝えてくれ。」



「わかりました。」




急ぎ部屋を後にする部下を見て、

彼は頭を痛めるしかなかった。





・・・・


同じ頃、翔太も四国の実家に帰省していた。

半年に及ぶしなのでの訓練を終え、1年ぶりの

帰省だった。



「ただいま~。」


「おかえりなさい。翔太。」



彩夏が出迎えてくれた。

1年ぶりに見る彼女は、さらに綺麗になって、

大人の色気を出していた。


1年前はまだ瓦礫が山積みだった町も

今はすっかり震災前に戻っている。

でも、町が元に戻ったからと言って、

人間の心の傷が消えるわけではない。


震災の復興は5年あればできる。

でも、人間の心の復興は永遠にできない。



彼女は震災で父親を失っていた。

今は母とふたりで翔太の実家に居候している。

翔太の家族はみんな無事だった。



手を洗って、祖父と祖母の仏壇に手を合わせる。

震災の後はピンピンしていた祖母も

1年前に癌で亡くなった。




「今度の休暇はいつまで?」


「1ヶ月かな。」



来月までしなのは横須賀でドック入りする。

点検が終わるまでこっちでのんびりするつもりだ。



「父さんと母さんは?」


「大人はみんな出掛けちゃった。」


「そうか。」



せっかくふたりきりなのだ。

今までの我慢を放出してもいいだろう。


翔太は洗濯物を畳む彼女を後ろから抱き締めた。







・・・・


こちらにも休暇を貰った男がいる。

ただし、こっちは家族などいないが。


たいほうが呉でドック入りしている1週間、

わずかだが休暇が与えられた。


和也は呉市内に小さなアパートを借りていた。

といっても、年に数回しか行くことがないのだが。

どちらかというとたいほうが家だった。

それでも、5年前にできたアパートなので

新しいし、冬は暖かい。

ホテル暮らしよりはマシだった。



コンビニで夜食を買って歩いていると、

近くの公園に高校生がたむろしているのが見えた。

遊んでいる・・・・様子ではない。

なにかを取り囲んでいる。



「なあ、俺たちと遊ぼうぜ。」


「悪いようにはしないからさ。」



近づいてみると、金髪の男子4人が女子高校生を

取り囲んで

ナンパ(無理矢理)しているらしい。



「おい、なにやってる。」


人助けなど柄ではないし、するつもりもなかった。

もし、理由があるとすれば、彼女の雰囲気が七美に似ていた

からかもしれない。



「ああ?なんか文句あんの?」


4人が一斉にこっちを向いた。


ひとりがポキポキと指を鳴らし、

拳を振り上げる。



「とっとと失せろや!」


殴りかかってきた金髪の腕をねじりあげ、

そのまま背負い投げで地面に叩きつけた。

最近体を動かしてないからちょうどいい。

潜水艦勤務は運動不足になるから困る。



「痛でででで!」


「喧嘩は勝てる相手にだけ売るものだ。」


「なんだと!?」


残るふたりも次々に投げ飛ばす。

背中を強打しただろうが、このくらいのお仕置きは

必要だ。



「てめぇ!」


最後のひとり、おそらくリーダーだろう。

体格もいい。


「覚悟しやがれ!」


突然、そいつの顔と七美をいじめていたチャラ男の

姿が重なった。

感情を抑える訓練をしていたにも関わらず、

つい激昂し、強烈な蹴りを入れてしまった。

もう少し強く蹴っていたら、金髪のあばらはへし折れていた

だろう。



「ひぃ!ごめんなさい~!」


リーダーがやられたと見るや、チンピラたちは

あっさり逃げ出した。

リーダーも


「ただで済むと思うなよ!」


といかにも悪役らしい捨て台詞を吐き捨て、

ヨロヨロと立ち上がり、逃げていった。



だがこの後、まさかあんな展開になるとは

予想だにしなかった。



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