激突!しなのVSたいほう 2
『正体不明潜水艦探知!艦隊前方12000!深度150!
敵味方識別信号応答なし!』
たいほうはかがのSHに発見された。
もちろん敵味方識別信号は反応しているが、
今回はしていないという想定だ。
「全艦対潜戦闘用意!」
大空一佐の指示で艦隊は輪形陣に移行した。
しなのを中心に前方にかが。
その周囲を護衛艦が取り囲む。
「魚雷に警戒!最大戦速!」
あえてジグザグ航行はせず、
耳を澄ますことで潜水艦の動きに注視する。
戦闘は焦った方が負けるのだ。
だが、たいほうは動かない。
魚雷射程の10km圏内に入っても
アクションひとつ起こさなかった。
『群司令!攻撃指示を!今なら撃沈できます!』
「いや、攻撃待て!敵が攻撃アクションをとるまで
撃ってはならん!」
波田野群司令は攻撃的な人物ではなかった。
国防よりも災害時の人命救助を、
日本の平和を守ることよりも自衛隊が
ひとりの外国兵を殺していないことを誇りにしていた。
艦隊とたいほうの距離は5000まで迫っていた。
・・・・
「やはり、撃てんか。どんなに訓練を重ねようと
所詮は自衛隊。軍隊もどきの防衛組織だ。」
和也は失望した。
これではっきりとわかった。
自衛隊は撃たない。いや、撃てない。
どんなに厳しい訓練をしようと、どんなに兵の質が
高かろうと、最後に決断するのは人間なのだ。
「艦長。艦隊との距離2000を切りました。」
「よし、急速浮上。予定の位置につけ!」
たいほうは動力を原子炉からバッテリーに
切り替えると、浮上を開始した。
・・・・
『不明潜水艦ロスト!潜水艦をロスト!』
SHから緊急電が入った。
艦隊との距離1500で潜水艦をロストしたと
いうのだ。
「すぐに再探知しろ!」
だが、SH隊がたいほうを再探知する前に、
しなのの前方で輪形陣を構成する
かが、しらぬい、てるづき、のしろ
にビンが飛んだ。
ビンとはアクティブソナーのことで、自分の位置を
露呈するかわりに敵の位置を正確に把握できる
ソナーのことである。
演習では、潜水艦が『貴艦を撃沈した』という意味で
使用する。
つまり、第一護衛艦隊は4隻が撃沈判定を受けたのだ。
「おい!どこからのビンだ!?確認しろ!」
『本艦の真下です!敵は本艦の真下にいます!』
「そんな・・・・バカな・・・・。」
大空と波田野は絶句した。
確かに軍艦の真下は攻撃を受ける心配がない。
(同時討ちの可能性があるため)
だが、同時に一歩間違えれば軍艦の底に
艦をぶつけ、沈没するおそれがある。
とても危険な位置だった。
「転舵!取舵一杯!敵を本艦の下から引き剥がす!」
「待て!転舵するな!」
航空自衛隊から転属してきたばかりの大空は
知らなかった。
敵に真下を取られた軍艦が転舵すると、
敵に絶好の攻撃チャンスを与えることを。
『本艦もビンを受けました。撃沈です・・・・。』
演習はあっさりと終わった。
残ったやはぎとかげろうが対潜魚雷を
撃ち込む前にたいほうは離脱して
深海に消えてしまった。