空母しなの
2018年 夏 総理官邸
「去年には安保法が施行され、国際社会における
日本の役割、責任は以前に増して重たくなったと
いっていい。」
東京のネオンを眺めながら、内閣総理大臣・谷本は言った。
「だが、中国の工業化、発展に対してアメリカの
影響力は衰退する一方だ。20年後には在日米軍など
存在しなくなるだろう。
もう、他国に依存する防衛は終わりにしなくてはならない。
日本は決して領土は広くないが、領海、経済水域の
広さで言えば世界6位だ。
南は沖ノ鳥島から北は択捉島まで、4000kmにおよぶ
範囲をカバーしなければならない。
だが、今の自衛隊では力不足だ。」
谷本は振り替えって防衛大臣の平沼を見つめた。
「私は日本にも空母が必要だと思っている。
抑止力として。防衛力としてな。
だが、私の任期はあと半年だ。
私が退けば、野党はこぞってこの計画を潰しにかかる
だろう。その時、この計画を守り、日本を
守れる政治家は君しかいない。」
谷本は一呼吸おいた。
そして最後にこう付け足した。
「私は次の総理は君だと思ってるよ。」
・・・・
2021年 5月 しなの艦内
「ここに、海上自衛隊最新鋭戦闘機搭載護衛艦しなの
の就役を宣言する。」
あれから3年。
野党や関係者の反対を押しきり、日本初の戦闘機搭載護衛艦
しなのが就役した。
日本が戦後初めて自国の領土を自分たちの力で
守る、その決意の象徴だ。
搭載するのは最新鋭戦闘機F-35JA、20機と対潜ヘリSH60J
10機である。
「総理、ご紹介にあがりました。
しなの艦長、大空隆一佐です。
こちらが戦闘機隊長の岩本です。」
海自幕僚長の紹介を受け、艦長の大空一佐と
共に平沼総理にあいさつした。
「ふたりともまだ若いな。
日本のために、しっかり頼むよ。」
「お任せください。国民の血税で建造されたこの艦を
必ず、日本の防衛に役立ててみせます。」
大空と平沼はかたい握手を交わした。
1週間後、しなのは航海演習のために
横須賀を出港、南へと進路をとった。