表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の防人~2022 日中開戦~  作者: 呉提督
10/48

あの空の向こうへ 5

突如町を襲った震度6強の地震。

それは彩夏の家を崩壊させるには十分なパワーを持っていた。


「キャアア!!」


あちこちから聞こえる悲鳴。

火の手が上がっているところもあるのがわかる。


「彩夏!!」


翔太が起き上がると彩夏が崩れた家の下敷きになっていた。


「翔太・・・・。」


彩夏の今にも消えそうな声。

となりを見ると圭吾が震えている。


「うわああああ!!」


彼は彼女を助けようともせず、どこかに逃げていってしまった。


「翔太・・・・逃げて。」


「嫌だ!逃げない!」


町の防災無線は津波が来ることを繰り返し警告している。

時間にしておよそ20分。

後20分で町は津波に飲まれてしまうだろう。


「このままじゃ翔太まで津波に・・・・。」


「嫌だね。絶対逃げてたまるか!」


そこに転がっていた木の板を瓦礫に差し込み、てこの原理で

持ち上げる。


「うおおお!!」


だが、瓦礫は持ち上がらない。


「翔太、もうやめて・・・・。逃げて。」


「ここで、ここで逃げたら一生後悔する!

俺はもう、誰も失いたくない!

全部守るって決めたから!!」


ありったけの力を込めて瓦礫を持ち上げる。

少しだけ瓦礫が浮き上がった。



「彩夏、足を抜け!!」


「ダメ!足が動かないの!」


彩夏の足を見る。血で染まり、明らかに折れているのが

わかる。

万事休すだ。


「くそおおおお!!」


瓦礫を持ち上げながら彩夏に手を伸ばす。

あと10cm,あと5cm、あと1cm・・・・


翔太は彩夏の右手をがっちりとつかむことに成功した。

そのまま彩夏を引きずり出す。


「ハアハア、よし、逃げるぞ!」


足が動かない彩夏を背中にのせ、高台に向かって走る。

津波はあと何分でくるのか?

とにかく時間がない。急がないと。


彩夏を背負い、坂をかけ上がる。

彩夏の体重は軽く、体は柔らかかった。


「翔太、ありがとう。大好き・・・・。」


「こちらこそ、ありがとう。」



翔太が標高50mほどまで登った時、真っ黒な津波が

町を、学校を、家を、飲み込んでいった・・・・。





・・・・

あれから6年。

町はほとんどが再興したが、まだ瓦礫の山が残っている

ところもちらほら見られる。

あの後、例の不思議な青年が夢に出てくることはなかった。

ただ、不審に思った翔太は祖母に祖父の若い頃の写真を

見せてもらった。


それは夢に出てきた青年にそっくりだった。


彼は悩んだ結果、祖父の思いを受け継ぎ、同じ道を

歩むことを決めた。



~見てるか、じいちゃん。俺、戦闘機のパイロットになったよ。

じいちゃんが守りたかった空を今度は俺が守るから。

ずっと見ててくれよ。~


すっかり変わってしまった坂道を登り、

彼は実家のチャイムに手を伸ばした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ